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第五十一話 ハンティング⑥ 

(あらすじ)


 殺人鬼坂東の屋敷に一人残された神野君を助ける。ゾンビだらけの屋敷へどうやって?

 作戦は以下だ。


 まず、俺、青山君、沢野君の三人が木から二階バルコニーへ飛び移る→他の仲間が勝手口を開けて、ゾンビを庭へ誘導。中のゾンビが減った所で、二階組は突入!


 さあ、上手くいくだろうか。

 一週間前、俺は十数年ぶりに自転車置き場の屋根をよじ登った。


 そして今、十数年ぶりに木登りをしようとしている──ほんと最近、こんなんばっかだな! 体を鍛えるべきか。


 一番身軽な青山君が先に登って行く。

 次に俺、沢野君と続いた。

 体重四十五キロしかない青山君はヒョイヒョイ登って行く。

 細い枝に足を引っ掛けて登る様は猿のようだ。本人の言う通り、身軽には違いない。


 青山君が通った道程を俺と沢野君が真似しようとすれば、確実に枝は折れるだろう。

 

 半分ほど登った所で、重量に耐えられる枝が無くなり、俺は詰んだ。

 下は怖くて見れない。

 細い枝を掴みながら上を見上げる。

 青山君は既にバルコニーへ飛び移ろうとしていた。

 

 俺は木の幹へ視線を移した。

 目線よりちょっと下に枝ではないが、出っ張りがある。

 そこに何とか足を掛けれれば、今掴んでいる細い枝の上にある太い枝を掴むことができるかもしれない。

 足を頑張って伸ばしてみる。

 んんん……ギリギリ……届いた!


 俺は目を閉じて覚悟を決めてから、今掴んでいる細枝を一瞬離した。


 足を引っ掛けるのと同時に太い枝を掴む。

 辛うじて届いた。

 出っ張りは小さく片足しか置けないため、俺はほとんど枝にぶら下がった状態。


 やば……結構きつい。


 幹を蹴りながら足場を探し、また手を離して上の枝を掴む……

 後は勢いで登るしかなかった。

 

 やっとの思いで、二階バルコニーへ伸びている枝にたどり着いた。

 今度は枝にしがみつきながら、少しずつ前進する。

 枝は先へ行くにつれ、次第に細くなっていった。

 

 ──怖ぇええーーーー!



 俺の体重でしなって、今にも折れてしまいそうだ。

 乗る枝を失敗した……

 バルコニーまで伸びている枝は数本あった。もっと太い枝を選べば良かった。

 

 何はともあれ、バルコニーまで辿り着き、飛び降りる。


 高さは二メートルほど。

 着地すると、アキレス腱に衝撃がビリビリ走った。

 ふらり……ドッシン! 尻餅。

 はあーーー、でも何とか無事だ。



「もう……田守君てば、無茶しやがって……」

 


 こんな時でもふざけた態度の青山君に助けられ立ち上がった。

 ズレまくりの眼鏡を直す。

 ようやく落ち着いて柵越しに下を見ると……

 

 沢野君は木を降りていた。


 

 へ!? 何で降りてんだよ!?


 沢野君は頭を振りながら、両腕で大きくバツを作っている。

 

 何だよ? 登れねえってことか?

 沢野君と俺の体形はほぼ似たようなものである。先述の通り、違いはメガネの有無だけだ。何とか頑張って欲しい所ではあるが……

 


「でも良かったね。ライフル、僕が持ってて……」



 青山君は背中に背負っていたライフルを下ろした。そう、持ちたいって言うから持たしたんだった。弾も半分は青山君が持ってる。


 青山君は庭の方へ向かって、嬉しそうにライフルを構えた。



「青山君、それ、俺使うから寄越してね」


「えーーー! 田守君、ズルいよ」


「だって、青山君、初心者でロクに使えねえじゃん」


「えーーーー。やだやだ。絶対使う」



 言い争っていたところ……不意に背後から……


 バン! バンバンバンバンバンッ!!!



 激しい打撃音に俺達はキュッと身を縮ませた。

 見ると、黒く汚れた掃き出し窓の向こうでゾンビが蠢いている。

 一体、何匹ぐらいだろう……

 窓が汚れてよく見えないが、相当数いそうだ。

 数が増えて、窓ガラスを破られては困る。

 早くゾンビを庭へ誘導してもらおう。

 俺は庭からこちらを見上げている清原君達に合図した。



「途中で大丈夫そうだったら、撃たしてやるから……」



 小声で青山君をなだめる。

 全く緊急時だというのに緊張感のない奴め……

 渋々頷く青山君からライフルを奪い、安全装置を外してから単射に切り替えた。


 その間に清原君達の姿が視界から消えた。

 勝手口のある側面へ回ったのだ。

 ピリピリと緊張が走る。いよいよ、ゾンビの群れを外へ解き放つ時が来た……と思ったが……



「ねえねえ田守君、この間、美山太平君の映画の試写会に行ってきたんだけどね……」



 美山太平とは、青山君推しの美少年子役である。

 しかし、何で今そんな話をする?

 思いっきり怪訝な顔で見ても、全く介さず青山君は話を続けた。 



「最前列がまたまた、おっさんばっかでさあ……」



 こいつ、絶対死ななそう……

 この図太さはただ者ではない。

 

 映画の試写会、という言葉から俺は久実ちゃんとの約束を思い出した。


 久実ちゃんと一緒に行く約束をしているのは、最近人気のアニメ監督の最新作である。

 しかし、よく調べたら一般向けのラブストーリーで、美少女アニメではなかった。

 前作が話題となったので、コアなファンに向けてではなく一般受けを狙って製作したのだと思われる。


 よって、内容に期待は出来なさそうだった。命懸けボランティアの代償としては全然足りない。二人で映画を観に行くのは楽しみだけどな。


 あのボランティアの後、公民館での出来事が度々脳裏にちらついた。

 ゾンビに囲まれた時、怯えた久実ちゃんは俺にしがみつき、ちょっといい雰囲気になったのだ。

 あの時の柔らかい感触や匂いはリアルだった。


 でも、まあ切羽詰まった状況だったし、そんなに期待はしていない。いや、本当に全然。


 高校生の時、ちょっとした勘違いで痛い目に遭っているからな。二十代後半で恋愛経験ほぼ皆無だし、ハートブレイクした時、立ち直れる自信はない。気を付けよう。



「ちょっと田守君、僕の話聞いてる?……あっ! 見て!」



 青山君の指差す方には清原君と沢野君の姿が見えた。草を掻き分け、走って来る。その後ろから押し寄せる黒い噴煙のごとき大群はゾンビだ。



「うわ。怖ぇえ……」


「ほんと、見ているこっちが怖いね」

 


 さすがの青山君も顔をこわばらせる。

 俺達より残り組の方が大変だったかもしれない。門の外へ出る前に転んだりすれば、一巻の終わりだ。

 しかも、背の高い雑草が生い茂るジャングル。足場は相当悪い。

 

 庭一面がゾンビで真っ黒に覆い尽くされるまで、あっという間だった。

 

 何とか門を出た清原君達は門扉に錠をかけた。

 ブロック塀は大人の男、頭一つ分は高い。

 同じ高さの門扉は金属だし、しっかり錠をかければ外に出て来ることはないと思うが……


 少し不安になってきた。

 庭はかなり広い。普通の戸建て五個分、入りそうなぐらいだ。

 その庭にびっちりとゾンビが蠢いている。



「まずいな……二百、いや三百はいるかも……」


「もっとでしょ。すごいなー。何でこんなにいるんだろ? やっぱ、死体が埋まってたのかね?」


「青山君、水木君に電話してくれる? 弾を多めに買っといて貰わないと……」



 言いながら、俺はライフルを構えた。

 適当なゾンビに照準を合わせて、発射する。


 パァン!!


 空気を裂いて銃声が鳴り響いた。

 手に感じる衝撃がいつもとは比にならない。


 すげぇ……これがパワーアップした銃か。


 ちょっと痛いくらいの痺れを感じる。同時に漠然とした不安が沸き起こってきた。

 ライフルのフレームは一応フルメタルにしてあるが、威力に耐えうる強度があるかは疑わしい。

 ただ、壊れるだけならまだいい。だが、腔発(こうはつ)※でも起こしたら大怪我する。


 あれ!?

 六発打っても倒れねえ……

 十発目にやっとゾンビは崩れ落ちた。

 距離もあるかもしれないけど、清原君が言っていた四、五発の倍は打たないと倒せない。

 接近戦で襲われた時は連射じゃないと危ないだろう。



 

「田守君、途中で代わってよ!」


「はいはい」

 


 青山君がスマホで写真を取りながら言うので返事をする。

 水木君には電話してくれたようだ。


 やれやれ……SNSにでも上げるつもりか……

 こんな事態なのに楽しんでやがる。

 俺はまた別のゾンビに照準を定めた。

 二階からの狙い撃ちはとても当てやすい。

 俺も人のことは言えなかった。



「ぐぁーーーー! 僕のメリーさんがぁああ」



 ……隣で何か言ってる。

 そう言えば、メリーさんは庭の木に繋いだままだったな。

 真下を見ると、縄から抜けてしまったのか居なくなっていた。

 


「青山君、メリーさん、どこよ?」


「ゾンビ達に足蹴にされてるんだよぅ……可哀想なメリーさん……」



 どうやら、突然押し寄せて来たゾンビに押し倒され、踏まれているようだ。



「メリーさん、短い間だったけどありがとう! 君のことは忘れない……」


「おい! いい加減、笑かすなよ?」



 俺は青山君を小突き、銃を構え直した。




※腔発……砲身内で爆発する。

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― 新着の感想 ―
[一言] メリーさんwww いや、この後メリーさん無双とかあったりしない? ないかwww
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