第四十六話 ハンティング①
【登場人物】
俺──ぽっちゃり眼鏡。女児向けアニメが大好物。漫画も描いてるよ。
神野君──天然イケメン? 多方面の情報量が凄いので皆から師匠と呼ばれている。サバゲーリーダー。
青山君──ガリのショタコン。ホモではないよ。絵が上手。
「メール見てないだろ? サバゲーの日程決まったからな」
電話の主は神野君だった。
「場所は都内。結構大きな廃墟だ。ハンティング形式でゲームする」
廃墟、だと!?
オレはまだ廃墟公団のトラウマから復活しきれていない。
「ガシュピンの友達の……何つったっけ? ああ、青山君だ。彼も来るのかな?……てか、ガシュピン、聞いてる?」
「……あ、ああ……どうかな……」
青山君は同人イベントデビューをゾンビの腐液で汚された為、ハンティングは来ない可能性が強いと思う。
「それとさ、現地にゾンビは居るから、連れて来なくても大丈夫。都内だから電車だし。前に話した通り、二チームに分かれて交代で討伐に向かおうと思う。倒した数は数取器でカウントする」
「ちょ、待った。ライフルの改造がまだ出来てない」
「大丈夫。俺のがある。多分今回、青山君入れても六人くらいなんだよね。皆、仕事とかで」
改造ガン二丁以上あるのか……許可とか取ってないよな。
確か改造エアガンはゾンビ特例で申請しても、許可下りるのは一丁までだったはず……
そんなことより、俺はゾンビを見たくもなかった。
ここ数日、ゾンビに襲われ何度も生命の危機にさらされている。
心の傷は深く……
「ガシュピン、ライフルのフレーム、フルメタルにしたいって言ってたよな。手伝うよ」
「おお、サンキュー」
「でも、サバゲー終わってからだな。人数早く確認したいから青山君に聞いといて。じゃ、詳細はメールで」
神野君はそれだけ言うと、さっさと電話を切ってしまった。
全然乗り気じゃないんだけどな……
ただでさえ今回は人数が少ないし、エアガンの改造を手伝ってもらう手前、断りにくい。青山君も来るか分かんないし。
俺は溜め息を吐いて、テレビをつけた。
カップラーメンでも食おう。
時計は二時を指している。
カーテンから差し込む午後の日差しが眩しい。
キッチンでお湯を沸かしている間、何となくテレビをつけた。思わず眉を顰めたのは、画面一杯に不愉快な顔が映し出されていたからだ。
──ゾンビ評論家、下飯木
すっかりワイドショーでお馴染みの顔になってしまった。最近では政治から芸能ニュースまで、何にでもコメントしている。
「危険区域にボランティア団体が入って救助活動をしていることについて……」
チャンネルを変えようと思ったが、ボランティアの話になったので俺は聞き耳を立てた。
「誰もいないのをいいことにコンビニやスーパーに立ち入り、物を勝手に取っちゃうんですよ。これ、窃盗ですからね」
あ、俺だ。
「食料や必要な物は全て自前で用意する。これ、ボランティアの基本ですからね」
男のアナウンサーが相槌を打つ。
こいつは最近、シタの太鼓持ちである。
「しかも、最悪なことに電力止められてる地域だと監視カメラも止まってて、犯人の特定が出来ないんですよ」
そうなのか、ああ、良かった。
鉄パイプとニッパーちゃんが無けりゃ、俺も、久実ちゃんと陽一もとっくに死んでたけどな。
んなことより、救助ボランティアの危険性についてちゃんと報道しろ。心の中で毒づきながら、ついつい見てしまう。
「まだA県では解除されていない危険区域が多数あり、自宅や避難所から出れずに孤立されている方々が大勢おります。行政の対応の遅れやボランティアの不足など様々な問題が出てきてますが、専門家としてシタさんはどのようにお考えですか?」
「行政の対応の遅れは先ほど散々話したからもう言わないけど、僕はねこれはA県だけの問題に留まらないから国がもっと主導すべきだと思ってる。あと、さっき迷惑なボランティアの話をしたけど、助けが必要な人がいてそれに対して助ける人の数が圧倒的に足りてない訳ですよ。ちゃんと良識の持ったボランティアの方がもっと増えてくれたらな、て思ってます」
シタは頬杖をつきながら、コメントした。
何でこいつ、こんなに偉そうなんだ!?
シタのコメントの後でアナウンサーがボランティアの募集案内をする。
こいつら、これ以上ゾンビ増やしたいのか……
救助は自衛隊とか消防隊員じゃないと、無理だ。俺達素人が行ってもゾンビを増やすだけだぞ。これは身を持って知った事実だ。
「危険区域のバリケードですが、工事現場と同じフェンスで囲われているだけという実態に周辺住民から不安の声が挙がっています。これについては……」
そういや、あの状態はやばいな。
何かの拍子に群れが押し寄せれば、簡単に倒される。
しかし、シタの答えは……
「大丈夫です。全く問題ありません。これは行政が住民の方々に対して説明不足なんだと思います。以前にも申した通り、ゾンビは複雑な動作が出来ません。だからフェンスをよじ登ったり倒そうとすることが出来ない訳で……」
マジか……こいつ絶対に評論家辞めた方がいい。
あんなフェンスじゃ群れは抑えられない。
さっさと駆除しなけりゃ、確実に外へ出て来るぞ。
俺はテレビ局にクレームを入れたい衝動に駆られたが……結局何もしなかった。
ただ単に面倒臭かったのである。
ゾンビのことで頭を悩ませたくはなかった。
さ、アニメの実況動画の編集でもしよっと。




