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第三十五話 ボランティア⑤

(あらすじ)

警戒区域にて救助ボランティア中。

三人グループで生きている人を探すことになった。危険性は低いと判断した俺達は一人ずつ別行動後、合流することに。

俺は単独行動中、武器をゲットした。

 待ち合わせ場所にて。

 俺は久実ちゃんと合流した。

 久実ちゃんが驚いているのは俺の自転車である。勿論……非常時だから()()()している物だ。

 ホームセンターで偶然手に入れたニッパーが自転車のワイヤーロックを切るのに一役買った。


 車も走っていない。人気(ひとけ)のないこのゴーストタウンで自転車は確かに異質だった。



「偶然、見つけて鍵かかってなかったから借りちゃった」



 俺はごまかした。

 まさか、ワイヤーロックを切って盗んだとは言えまい。



「あとでちゃんと戻しとかないと……」


 と怪訝な表情の久実ちゃん。

 めんどくせぇーーー!!!



「ああ、大丈夫、大丈夫。これ、放置自転車だから」

 


 俺はなるたけ内心を悟られぬよう、ヘラヘラと返した。

 幸い、久実ちゃんはリュックから飛び出ている鉄パイプには無反応だ。最初から注意深く見てなかったのだろう。気付かれていない。



「それにしても、田守君遅かったね。最近のマンションって、エントランスで全部呼び出しチャイム鳴らせるからそんなに時間かからないと思ってたよ」


 あ、バレてる──



「俺の所、十階建てで一番戸数多かったし……まあ、時間通り間に合ったよね?」



 動揺を気付かれないよう、適当にごまかす。

 皆山さんは救助した人達を車に乗せ、バリケードの外へ向かっているのでここにはいなかった。

 久実ちゃんと皆山さん、二人で合計十人を助けていた。誰も居なかったのは俺のマンションだけだ。


 皆山さんとは担当区域の中心にある公民館で落ち合うことになっている。

 俺は自転車の後ろに久実ちゃんを乗せ、公民館へと向かった。


 ひとまず公民館で食事をとる。公園など屋外だと落ち着かないからだ。

 やっと休憩だ──そう思うとペダルを踏む足も心なしか軽く感じる。

 向かい風が心地よい。

 汗はいつの間にか乾いていた。

 

 静かなのっていいな。

 俺の住んでいる所は郊外だが、出歩けば必ず人を見るし、車だって深夜以外は常に走っている。少子化と言えども、人口は都市部周辺に密集し過ぎている。

 

 時折カラスの鳴き声が聞こえる以外、車や電車の音が聞こえないのは不思議な感じだ。


 それと、空気が澄んでいる。

 ゾンビの腐臭が屋外ではほとんど気にならなかった。


 こういった災害って、増えすぎた俺達人間に対して神様が警告を発しているのかもしれんな──

 

 皮肉めいた考えが頭に浮かび、ぼんやり思い耽りながらペダルを漕ぐ。

 つい数分前、九死に一生を得たとは思えないほどの呑気さだ。

 この数時間、俺はボランティアとして全く役に立っていないどころか、死にそうなぐらい危ない目に遭っている。


 来るんじゃなかった。

 有償でもこんな危険な仕事、やりたくない。無償でとか、有り得なさすぎる。

 俺は後ろにいる久実ちゃんに尋ねた。



「久実ちゃん、一人でマンションの探索って危なくなかった?」


「全然。だってエントランス入って中のインターホンから呼び出すだけだもん。すぐ終わっちゃったよ」


「でもさ、皆山さんを待ってる間とか、襲われそうになったり……」


「ないない。出歩いているゾンビは車から何匹か見えたけど襲われたりはしなかったよ。そんなに沢山はいないみたいだね」



 いや、俺、死にそうだったんだけど……

 何で俺ばっかりいつも危険な目に遭うんだぁああああ!!!



「田守君はどうだった? ゾンビに遭った?」


「まあ、俺も数匹程度かな……」


「そんなに危険な区域じゃなくて良かったね」



 危険だっつうの。ああ、早く帰りてぇ。


 公民館まで五分ほどで着いた。

 途中、何匹か遭遇するも、追われる前に自転車のスピードを上げて突破した。

 ホームセンターでも経験した通り、ゾンビは素早い動きには付いていけない。

 

 自転車か駆け足、時速十キロ以上であれば、音に反応して寄って来てもターゲットとして認識されないようだ。

 無論、群れに囲まれた場合は危険。だが、バラけていれば問題なし。


 二階建ての公民館は入ってすぐに食事できるホールがあり、それを挟んで図書室と子供広場がある。

 二階の階段から二匹、フラフラと降りてくるのが見えたので俺達はそれぞれ一匹ずつ倒した。

 一撃で手際よく退治する。

 久実ちゃんもだが、俺も手慣れたもんである。



「やっぱ、田守君誘って良かった。救助隊員でもないのにこんだけ手際いい人はあまりいないよ」



 褒められて喜ぶべきか、悲しむべきか……

 二階まで調べるのは面倒なので、俺達は子供用広場で食事をすることにした。

 内側から鍵をかける前に、念のため窓が閉まっていることと物置の中を確認する。

 


「ほんと、慣れてるよね。自警団にも欲しい人材だよ」


「いや、それは勘弁……」



 この危険なボランティアだって映画チケットが無ければ来なかったし、自警団とか絶対ぇ嫌だかんな。


 子供が裸足で遊べるよう一段上がった所に絨毯が敷き詰められていた。

 そこで靴を脱ごうとする久実ちゃんを俺は止めた。



「何かあった時、すぐに逃げれないと困るからこういう場合は土足でいいんだよ」



 久実ちゃんは少し躊躇したが、渋々従った。

 全く緊張感が足りなさ過ぎる。

 言うなれば、ここは戦場だぞ。戦場で靴を抜いでくつろごうとするんじゃねぇ。

 

 俺達は適当な壁際に並んで腰かけた。

 正面には窓が並んでいる。

 部屋の隅に置かれた玩具箱が物悲しさを感じさせた。


 俺はリュックからスナック菓子、菓子パン、チョコレート、栄養補助食品を出した。

 まだあるが、一応念のため取っておく。

 これらはホームセンターの隣のスーパーからパク……頂いた物だ。


 ホームセンターで痛い目にあったので奥までは行かなかった。スーパーの利点はレジへ向かう寸前の位置にちょこっと置かれた()()()。買い忘れ商品やささやかな菓子が購買意欲を刺激する点である。


 俺は入り口にあるパンコーナーとレジ付近からパンと菓子類を頂戴した。

 防犯カメラを気にして、フードとタオルで顔を隠しつつ……有事だしいつ戻れるか分からないんだから、万が一画像に残っても問題ないとは思う。当然、久実ちゃんにそのことは黙っておくがな。

 

 久実ちゃんは手作り弁当だ。



「田守君、お菓子なんだ……ちゃんと野菜とか食べないから太るんだよ」


 久実ちゃんの物言いに対し、さすがにムッとした。

 


「……久実ちゃん、彼氏いないだろ? そういうこと言うからだと思うよ」


「え、田守君だって……」



 久実ちゃんは言いかけてやめた。

 これ以上言えば、険悪ムードになることぐらいは分かったのだろう。

 

 俺が言ったことは的を得ている。

 久実ちゃんがモテなさそうなのは大体想像つく。


 顔は割と悪くない。

 すっぴんでも全然イケるから中の上だ。

 たが、相手の心情を察するのが下手というか、さっきみたいにデリカシーに欠ける発言をすることが多々ある。

 はっきり言って、小学生の頃からあまり成長していない。まあ、地味な雰囲気とゲジ眉もモテない要因の一つではあるだろうが。 


 俺は久実ちゃんにチョコを上げた。



「てか、電気付かないんだね」

 


 気まずい空気をほぐしたい気持ちから話題を変える。

 部屋の入口にあったスイッチを押しても照明が付かなかったのだ。正面の壁一面に窓が並んでるので、暗くないとはいえ。



「多分、電力供給停止してるんだよ。いつ戻れるか分からないから、点けっぱなしのスーパーとか勿体ないじゃん?」


「えっ!? そうなのか……」



 俺はホームセンターで電気スイッチを探していたことを思い出し、痛く後悔した。

 あ、あと、電気通ってないならスーパーの防犯カメラも大丈夫だ。



「暗いと屋内調べるの、危なくない?」


「あれ? 田守君、懐中電灯持ってきてない?」



 とぼけた声を出す久実ちゃんに俺は怒りを通り越して呆れた。



「いや、俺、何も持ち物とか聞いてないし……初めてボランティア参加すんのに何の説明もないしさ。ゾンビと戦うとか全然知らなかったし……」


「ゾンビが出るのは、ゾンビ災害地なんだから当然でしょ? それに持ち物はメールしたはずだよ?」


「俺、今携帯持ってないし……」

 


 パソコンでも見れるが、しらばっくれる。

 メール、チェックしてなかったな……



「……ごめん、ちゃんと確認すれば良かったね」



 久実ちゃんはうなだれた。

 まあ、死にはしなかったからこれ以上責めるのは止めとくか。


 何気なく視線をずらす。

 ずらした先の窓にゾンビが一匹、見えた。


 隣で久実ちゃんは叫びそうになり、慌てて口を押さえる。突如として現れたゾンビに俺も驚いた。


 ゾンビはこちらを見ながら──うん、認識されてる──窓ガラスをバンバン叩いてきた。例によって口から灰色の腐液をダラダラ垂れ流しながら。



「食事中になんだよ……」

 


 俺は思わず舌打ちした。

 まあ、一匹だけじゃ窓ガラス割れねぇだろうし、その内去るだろう……


 と思ったら、その後ろからもう一匹現れた。間を開けずまた一匹……次から次へと……


 ──ん? んんん!?


 俺達の座っている位置から見えるのは、空っぽの駐車場とその向こうに広がる畑だけだ。

 ゾンビが沸くように出て来るのは、門の方からである。門の様子は窓の近くに寄らねば見えない。


 俺が窓に近付こうとすると、久実ちゃんに腕を掴まれた。



「ダメ! 刺激しない方がいい」


「でも、状況確認しないと……」


「部屋から出ようよ」



 部屋を出てすぐのホールにゾンビがいる可能性は低い。さっき二匹倒したしな。

 玄関のガラス扉はちゃんと閉めてある。自動ドアならともかく、ゾンビの知能では割らないと入れないはず。



「待った!」

 


 久実ちゃんがドアの方へ走ったので、今度は俺が止めた。

 嫌な予感がする。

 金属製のドアは外開きである。

 久実ちゃんを制止してから俺は注意深くドアを押した。


 そろり、そろり。

 扉の向こうの風景がじわじわ広がっていく。何の変哲もない公民館の玄関ホール。テーブルと椅子が何脚か。それと光を失った自販機……拍動がメトロノームみたいに時を刻んでいく。


 それを破ったのは──



「ウギャゥアアアア!!!」



 呻き声を上げながら、ゾンビが開いた隙間に手を差し入れて来た!!

 反射的に閉める。

 必然的にゾンビの指は挟まれ、ドアの外から断末魔のごとき叫び声が聞こえた。

 

 痛みとか感じるのか……いや、そんなこと考えてる場合じゃない。俺と久実ちゃんは力一杯ドアを引っ張って閉めた。

 

 ゾンビの指は切り離され、床へぽとり。すかさず俺は鍵をかける。



「久実ちゃん、見た?」


「うん……いっぱいいた……」



 強張った顔で答える久実ちゃん。

 ドアの外には何匹もいた。

 玄関が破られた気配はないから、二階か……建物内のどこかにまだ潜んでいたのかもしれない。


 ひとまず、気を落ち着けよう。

 大きく深呼吸してから、首を窓の方へ向ける。



「え?……」



 正面の壁一面に並ぶ窓。

 いつの間にか、全てゾンビで覆い尽くされていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久実ちゃん、時々イラっとさせられるなと思ってたけど、そうかデリカシーないからか。 あとやっぱり初めてボランティアに連れて行く人に対しての確認はメールだけじゃなくて電話とかもしておかないとねっ…
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