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第二十六話 コンビニバイト②

地下鉄が止まり、携帯も通じない。

ゾンビ警報が出ているにもかかわらず、いつも通り深夜のコンビニバイトへ向かった俺。


同じシフトの大学生が休んだ上、激混み状態のコンビニで息つく間もなく労働するのであった。

 余りの忙しさに憤りを感じている暇もなく、気付いたら0時を回っていた。

 

 客は切れ目無く訪れ、絶えずレジ前に列が出来ている状態だ。

 警報が出ているし、今日はどうせ暇だろうとたかをくくっていた。

 全然暇じゃない上に一人だけだから、息つく暇もない。商品の補充はままならず、レジをさばくので精一杯だ。


 外、ゾンビがうろついていて危険なのに何で出歩くんだよ? こいつらは?──内心、毒づきながらレジを打つ。



「お弁当温めますか?」


「お箸は一膳でよろしいですね?」


「レシートはどうなさいますか?」



 決まりきった文句を繰り返すだけなのに、疲労の為か呂律が回らなくなる時もある。

 時間が早く過ぎるのは有り難いが、疲労感は半端ない。



 日付が変わった所でようやく客足は途絶えた。ホッと一息吐いた所で、今度は品出しである。オーナーに電話しても繋がらなかった。きっと、寝ているに違いない。

 また、沸々と怒りが沸き起こる。


 全く、給料二倍貰いてぇよ。一人で二人分の労働してんだからな!

 


 運良く、品出し中に客はほとんど来なかった。それでも品出しが終わった頃には1時を回っていた。

 

 先ほどの混乱が夢のごとく。

 店内は静かになった。

 俺は賞味期限切れ寸前の杏仁豆腐とプリン、それに肉まんをレジ台の上に置いた。

 奥の部屋からキャスター付きの椅子を運ぶ。手には売り物の漫画雑誌。


 さあ、食うぞ!


 クビになったって構わないし、客からクレームが来なければ監視カメラのチェックなどしないだろう。そして、今その客はいない。

 

 俺が肉まんを頬張ったその瞬間……

 不快な入店音が響き渡った。

 慌てて食い物と漫画雑誌を後ろのレンジへ載せる。



「いらっしゃいま……」



 入ってきたのは、ゾンビだった。


 例によって、呻き声を上げながら腐臭をまき散らしている。口からは緑色の液が。腹から何か蛇みたいのニョロニョロ出してるし……オエーーーー!!!


 飲み下した肉まんを思わず戻しそうになった。

 完全に食欲を失った俺を次に支配したのは、怒りの感情だった。

 ゾンビは俺を標的としてまだ定めていない。ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 俺は奥の部屋へ金槌を取りに行った。



 数秒で戻って来ると……

 ゾンビ、増えていた。

 一匹だけだったのが、三匹になっている。


 よーし、上等だぁ! 三匹ともぶっ倒してやる!!


 怒りのせいで俺はいつになく好戦的になっていた。レジへ向かって来た最初の一匹の脳天にまず一撃食らわせる。


 グシャッ……

 角材の時と違い、一発でゾンビは崩れ落ちた。


 音に釣られて、他の二匹も集まってくる。

 レジ台という存在が俺を守ってくれた。


 くそーっ! お前らのせいでスマホなくしたんだぞ! この間、死にかけたし! くたばれ!


 ガッ、グチャッ、ゴンッ、ベチャッ、グチャッ、ビチャアアアア……


 レジ台を挟んでモグラ叩きの要領でゾンビの頭蓋を叩き割る。

 金槌はリーチが短いという難点はあるものの、攻撃力は高い。レジ台の長さは二十センチほど。それを間に挟んでいるからゾンビはそれ以上近付けない。


 簡単にゾンビ三匹を倒すことが出来た。

 しかし、最後の一匹はレジ台の上に脳味噌をぶちまけた。

 レジ台の上に這い上がろうとしていたのでそれを上から叩いたのである。


 ……臭い。

 腐れた脳味噌は激臭だ。

 そこで俺は重大な事実に気付いた。


 ゾンビの死骸って、どうすんだろう?



 このままでは接客出来ない。

 かと言って、ゾンビを触って片付けるのは嫌だし……感染症とか移りそうで怖い。


 考えあぐねていると、客が来た。



「いらっしゃいま……」


「あ……」



 客はそれだけ発すると踵を返し、猛ダッシュで逃げて行った。

 致し方ない。

 この惨状を目の当たりにしては……


 レジの回りに三体ものゾンビが……動いてなければただの死体だ……それが転がっている。

 しかも、その内の一つはレジ台の上に脳味噌をぶちまけているのだから。


 こんなゾンビコンビニに客はもう来ないだろう。

 思いがけない方法で無責任オーナーへ仕返しをすることになった訳だが、俺は途方に暮れるしかなかった。


 二人目の客が逃走した後、俺はやっと重い腰を上げた。

 掃除用手袋を着用する。

 取り敢えず、こいつらを外へ移動させねば……


 ゾンビは思ったほどは重くなかった。

 腐って色々溶け出ているからかもしれない。

 とは言え、運ぶのは重労働だ。

 普段は商品を載せる台車に一体ずつ乗せて外へ運ぶ。

 ごみ箱の横でいいか。

 家庭ゴミ、捨てにくくなって一石二鳥っと。

 

 運び終わったら、今度は店内の清掃である。商品棚にあったバスタオル二枚とゴミ袋を使う。

 コンビニってほんと何でもあるな。

 床の汚れはそこまで酷くないから、目立つ所だけトイレットペーパーで拭き取って消毒する。


 レジ台も元通りキレイになった。

 臭いはまだ残っているけど。

 あと、見た目は綺麗でも触りたくない。

 俺はアルコール消毒液をレジ台にぶちまけた。これでも足りないくらいだが、少しはマシだ。


 全ての掃除が終わってから、俺は通報した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思いがけないお客様をさっさと処理できるその姿勢が素敵(*´艸`) さぞかし鬱憤も溜まっていた事でしょう。 でも、匂いは本当に酷そう。 アルコール消毒しても暫く残りそうで嫌だw
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