第二十五話 コンビニバイト①
「只今、入ったニュースによると、A県で大規模なゾンビ被害が出ているようです。繰り返します……」
テレビ画面のアナウンサーは神妙な顔付きで繰り返した。
A県は交通アクセスの便利さから、ベッドタウンとして人気の県だ。近年人口が密集し都市化が進んでいた。
「詳細はまだ分かりませんが、未曽有のゾンビ災害と言えるでしょう。地下鉄や各地のゾンビ災害もそれに派生して起こっていると思われます」
人事ではないな。
俺の住む町も、いつゾンビの襲撃を受けてもおかしくない。
最初の内はテレビに釘付けだった。しかし、どこのチャンネルでも同じことを繰り返すだけなので、次第にウンザリしてきた。
きっと情報がないのだろう。
あるチャンネルでは、ゾンビ評論家シタが偉そうに解説していた。
「ですから、以前から私は言ってますがね。ゾンビに対してもっと供えるべきなんですよ。地下鉄で発生した時はどうするか? 高層ビル、マンション、映画館、遊園地……あらゆる場所で発生する可能性があります。その時のため、事前に対策を取る必要があります……」
あーー、シタ、うぜぇ……
そろそろコンビニバイトの時間だ。
母ちゃん達もまだ帰ってきてないし、猛烈に行きたくないが仕方ない。エアガンをパワーアップするためだ。それと新しいスマホも買わねば。
俺は重い腰を上げた。
給料日まであと二週間。
スマホを無くすという痛手を被ったため、当分は辞めれまい。
A県の被害状況とか地下鉄の状況を知りたくとも、どの道、報道内容に進展はないだろう。
それと、警報出てるからゾンビが現れるかもしれないな。俺は角材を手にとってから戻した。廃墟公団から持って来た金槌がある。近接戦は嫌だが、角材より破壊力は大きい。
手に持って歩いていると不審者扱いされるのでボディバッグに入れた。
ボディバッグを肩に掛けたら出発だ。俺は深い溜め息を吐いて外へ出た。
時計は六時五十分を指している。
これから朝の六時まで労働者になる。
駅前のコンビニまでは自転車で十分程度。
暗い中、ゾンビと遭遇はしたくなかった。
警報が出ている割に出歩いている人は結構いる。相変わらず、人々のゾンビに対する危機感は低い。
賑やかな駅前に到着するまで、俺は人影にいちいちビクついた。
駅前はほぼいつも通りだった。
滅茶苦茶上手い弾き語りが中二病的歌詞を歌っていたし、安い居酒屋チェーン店の前で並んでいるサラリーマン達、キリスト教系新興宗教のパンフ配りも健在だ。
だが、地下鉄が止まっているせいか、いつもより人は少ない。
コンビニに着くまでゾンビとは遭遇しなかった。
聞き慣れた入店音と共に自動ドアが開くと、レジにいたパートのおばちゃんと目が合った。
帰れるのが相当嬉しいらしい。満面の笑みを浮かべている。
「田守君、これから大変ねぇ。今日はゾンビ出てるし、心配だから真っ直ぐ帰るわ。お兄ちゃんが塾だから下の子、今家で一人なのよ」
下の子はまだ小学生である。
聞いてもないのに家庭の事情をベラベラ喋るのはオバサンの性であろう。
そして、嫌みとも受け取れる物言いをサラッと言うのも……
「今日は心底、来たくなかったっすよ……」
「ああ、上田君休みだから」
「へ!?」
上田君というのは、同じく深夜勤務のバイト大学生である。彼が居ないと深夜勤務は俺一人だけになる。
「なんか、オーナーもお子さんが熱出したとかで来れないって」
えぇーーー!? んな無責任な……
どうすんだよ? 品出しだってあるし、意外と深夜って忙しいんだぞ?
強盗に襲われたらどうすんだよ?
「あー、品出しの時だけ手伝うから、商品来たら電話してって言ってたわ」
俺は絶句した。
改造エアガンの認可下りたら直ちにこんなブラックコンビニ辞めてやる!
パートのおばちゃん達が帰った後、俺は憤りながら、廃棄寸前の豚串を頬張った。
働く気なし。
……あ、でも監視カメラ付いてるんだよな。客はいないから大丈夫だろうが……
途中で監視カメラの存在に気付き、俺は素早く肉を串から外した。
モグモグしている所、入店音がした。
一呼吸置いて、再び……
あれ?
次から次へと客が入ってくる。
皆さん、ゾンビ警報出てるのに出歩くなんて、ちょっと不用心過ぎやしませんかね?
俺が肉を咀嚼し終わるまでには、レジの前に列が出来始めていた。




