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第二十一話 ポスティング④

廃墟公団に迷い込んだ俺はゾンビの大群に襲われ、建物内へ逃げ込んだ。

武器を探して物色する内、電話して助けを求めればいいことに気付く。

……が、ゾンビ専用ダイヤルはなかなか繋がらない。やっと繋がったと思ったら、スマホの充電が無くなってしまったのだった。

「大変お待たせしました! どうされまし……」



 そこで電話がプツンと切れた。

 俺は茫然として電源の切れたスマホの黒い画面を見つめるしかなかった。


 しかし、ぼんやりもしてられない。

 日が長くなったとはいえ、もう四時を過ぎている。

 暗くなる前になんとか脱出せねば……


 俺はベランダから二十一棟が立ち並ぶ公団の東側半分の状況を確認した。


 いる。

 ゾンビがうようよ。

 二十体ぐらいの大群が三つ。すぐ下と正面の道を入って奥、それと南方向にいる。

 自転車を置いたのは反対側だ。回りこもうとしても、どちら側からも塞がれている。


 一、二体なら何とかなるが、三体以上はきつい。

 ベランダの反対、外廊下側は俺の悲鳴のせいで五十匹くらいの大群が下に集まっているし……


 室内へ戻り、俺は外廊下側の様子をもう一度確認しようと思った。

 何の不信感も抱かず、勢いよく玄関ドアを開ける。次の瞬間、俺は絶句した。

 軋み音と共に外の空気が流れ込んでくる。

 


「ウギヤァアアアアアア」



 同時に叫び声も……

 すぐそばの階段から何体も上がって来る。そして真っ直ぐこちらへと……

 


「ヒッ」

 

 声にならない悲鳴を上げ、勢いよくドアを閉めた。

 反応はゆっくりでも、ゾンビは俺のことを確実にサーチしている。

 まずいな……

 これでは八方塞がりだ。


 冷静になれと何度も自ら言い聞かした。

 こんな女幽霊もどきがいる廃墟でゾンビに食われて死ぬなんて最後は絶対嫌だ。


 まず、避難経路だ。

 今さっきゾンビ達が上がって来たのは、建物中央に位置する中階段。

 俺が上ったのは、南端に位置する外階段。

 ゾンビが階上まで上がって来ているこの状況では、中階段の利用はできない。

 端部屋から外階段へ飛び移れれば……いや、待てよ……

 俺の目線はベランダへと移動した。


 避難はしご……避難はしごがあるはずだ!!


 と、スチール製のドアが激しい音を立て、部屋が揺れた。



「バン! バン! バンバン!」

 


 中へ入ろうとしてやがる。

 早くここを出なければ……

 いや、冷静になれ。ちゃっちいように見えてもドアはそう簡単に破れないはず。

 この公団住宅のドアは中から外へ向かって開くタイプだ。

 外側から圧力をかけても蝶番は壊れない。

 廊下側の窓には鉄格子がはまっているし、大丈夫だ。落ち着け、俺。


 この部屋のベランダには避難ハシゴは設置されていない。

 一つの階につき、十部屋並んでいて俺が今いるのは五部屋目。丁度真ん中だ。


 この規模だと避難ハシゴは階ごとに二カ所設置されているはず。いや、されている、されていないと困る。

 

 俺はゴルフクラブを片手に金槌とフライパンの入ったリュックを背負った。

 建て付けの悪いサッシ窓を開けて再びベランダへと出る。

 ゾンビが出た部屋とは反対方向の隔て板に、俺はゴルフクラブを打ち付けた。



「おっ」



 一撃で穴が開いた。

 この隔て板、破るのは初めてである。

 想像以上に脆いんだな。

 音が気になる所ではあるが……

 

 数回で通れるくらいの穴を開けることができた。

 破片や尖った部分に気をつけながら、くぐり抜ける。

 隣の部屋に避難ハシゴはなかった。

 いちいち落胆している暇はない。

 ゾンビの気配に注意しながら、俺は次の隔て板を破った。


 あった!!


 避難ハシゴあった。

 飛び上がりたいくらい嬉しい。

 まだ安心出来る状況ではないけどな。

 

 避難ハシゴの上蓋を開ける。

 ふむふむ……蓋の裏側に絵付きの説明が貼ってある。

 蓋を固定した後、このレバーを押すのか。

 レバーを押した途端、「ジャラジャラジャラ」と音を立ててハシゴが落下した。


 結構うるさいな。

 ハシゴを降りている途中で襲われたら、一溜まりもない。

 俺は細心の注意を払いつつ、降りた。

 しかし、ゴルフクラブ邪魔だ。重いし……

 階下にゾンビはいなかった。

 ひとまず、ホッとする。


 二回目以降は最初よりスムーズに降りることが出来た。

 ベランダにゾンビがいなかったのは良かった。梯子を降りる度に慣れ、緊張感は薄れていく。


 四階、三階、二階まで降り、ハシゴが下へ落ちるジャラジャラ音が心地よく感じられるようになった。あと一回降りれば、一階だ! 俺は弾む気持ちで避難梯子の上蓋を開けた。しかし……


 希望は一瞬で絶望に変わる。


 頭頂部の禿げた青黒いゾンビが呻き声を上げながら、こちらを見上げていた。

 俺はベランダの床に這いつくばり、ゴルフクラブを下へ突き出してみた。



「こんのハゲェーーー!!」



 かすりはしても全く届かない。

 ゴルフクラブ、使えねぇー!!

 

 発見した時はあんなに嬉しかったのに、全く使えないゴルフクラブ……

 どうしよう、あのゾンビを何とかせねば一階までは降りられない。何か重い物を落とすか……

 すると、かなり大きな音を出してしまうことになる。

 しかも、その重い物を探すために再び室内へ戻らなければならず、窓ガラスを割ることになる。


 南、外階段の方と建物中央、正面玄関の辺りに大群がいる。

 

 俺が今いる部屋は正面玄関から二部屋しか離れていない。

 一階で大きな音を立てれば、奴らは必ず引き寄せられるだろう。

 

 飛び降りるか?

 いや、運動不足でぽっちゃりさんのこの俺が二階から飛び降りて、捻挫でもしたら最悪だ。

 走って逃げれなければ、確実に死ぬ。


 音で引きつけてから、反対方向へ走って逃げるか?

 今いるベランダから音を立て、ゾンビを引き付けようと思った。


 まず隔て板を破り、一番端の部屋へと移動する。そこで大きな音を立ててゾンビ達を引きつける。ゾンビ達が移動したら、音を立てずに真ん中の部屋まで戻り、ベランダの窓ガラスを破って中階段から逃げる。


 ……これが現実的か……まてよ……今、邪魔してるのはゾンビ一匹だけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物凄く緊張感が漂ってるはずなのに、「こんのハゲェーーー!!」の叫び声に笑ったwww
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