第十五話 サバゲー③
半笑いする青山君の顔つきが変わった。
凍りついた笑顔が真顔になる。
背後でガサガサ葉擦れの音が聞こえた。
背筋に冷たい液体が落ちる感じ。
俺が後ろを向いた瞬間、草むらから飛び出して来たのはモグタンだ。
──早い!!
普段のゾンビはフラフラゆっくり歩くが、標的を見つけると素早くなる。
俺がライフルを構えるより前にモグタンとの距離は一メートル未満に縮まった。
動揺してしまい頭部ではなく、胴体へ連射する。
衝撃のためモグタンの歩みは止まるも、倒れるまでいかない。焦る。
横にいた青山君が頭部を狙って撃った。
そこで俺も照準を上へ移動させる。
モグタンが前進してしまうため、連射を止めることはできない。
ダダダダダダダ……
頭部へやっと照準を合わせたが、なかなか倒れない。やはりプラスチック弾じゃ破壊は難しいのか。
とはいえ、モグタンの被っているパンティは穴だらけになった。
すぐに弾は尽きた。
隣を見ると青山君も頭を振っている。
どうやら二人同時に弾切れだ。
背後は葛の弦で作られた壁である。
ドームの中へすっかり追いやられてしまった。
ヤバい……詰んだ
銃撃以外で倒しては失格になる。
何よりこの新品のライフルを汚したくない。
……いや、それ以前にこんなプラスチックで叩いたぐらいで倒せるのだろうか。普通より丈夫なプラスチックを使っているとは思う。だが──俺は重量感を確認しつつ、ライフルを持つ手に力を入れた。
今はゴチャゴチャ考えている場合じゃない。やらねば命に関わる。
「ぐぁあああああ」
叫びながら突進してくるモグタンにライフルを構えたその時……
軽い発砲音が聞こえた。
「グチャッ」と柔らかい物がクラッシュする音と共にモグタンの頭部が吹き飛ぶ。
崩れ落ちるモグタンの背後にいたのは、神野君だった。手にはハンドガンを構えている。
「ごめん、ガシュピン。これ、改造ガンだから俺、失格だわ」
神野君はがっくり肩を落とした。
そこ、ガッカリするとこじゃねーだろ!!
今、命を救われたというのに言いようのない脱力感に襲われる。
俺は礼を言うべきか分からず、困惑するだけだった。
街道沿いのファミレスで俺達は今日の反省会をした。
ゾンビの頭部が柔らかくても、通常のエアガンで破壊は出来ない。神野君の改造ガスガンでようやく倒すことが出来た。
威力は五ジュール程度。通常のエアガン五倍の威力である。海外製のガスガンに高圧ガスを使い、ハンマースプリングを替えたという。神野君曰わく、
「パワーアップした改造ガンじゃないと、ゾンビを仕留めるのはやっぱ難しいと思う。せめて二ジュール以上は必要」
「パワーアップガンを使う場合、ヘルメットを着用した方がいいと思う」
と、これは俺と同じチームだった清原君の意見。
確かに……流れ弾が当たる可能性もあるし、危険度は確実に上がる。
「安全面には細心の注意を払う。来月はパワーアップガン持参でハンティングしたいな」
誰も反対する人はいなかった。
ハンティングは危険が伴う分、スリルもある。
危ない目にあったものの、楽しませて貰った。通常のゲームより緊迫感があり、面白かったのは事実。
問題は改造ガンである。
簡単に作れるもんでもないし、許可を取らねばならないし、色々と手間がかかる。
「理想としてはフィールド上にゾンビを二十匹くらい放して、倒した数を競い合いたい」
ワクワク感を滲ませながら言う神野君に仲間の一人が苦言を呈する。
「師匠、パワーアップはハードル高いよ。初心者の青山君もいるし」
「ライフルじゃないけど、使える改造ガンは三丁ほどある。それにガシュピンも改造予定だし」
「その三丁と何人かパワーアップしたとしても全員分の数は用意できない」
神野君は肩をすくめた。
サバゲーの参加人数は十人から十二人である。
それにしても神野君、普通に改造ガン三丁持ってるって言ってるけど、それって違法じゃ……
法改正で所持が認められる改造ガンは二ジュール以下の一丁のみである。
さっきモグタンを倒した銃も五ジュールぐらいだと言うし、一体どうなってるんだ?それに改造したエアガンは許可申請取った本人でないと、使ってはいけないはず。
でもまあ、人殺しする訳じゃないし聞き流す事にした。
「皆が同時にフィールド内へ入ると、誤射や流れ弾のリスクがあるから交代制にするのは?」
青山君が発言した。
「それだ!」
嬉々と叫ぶ神野君。
なるほどね。交代で改造ガンを使い回せば、皆で楽しめる。待機時間が発生するのは難点だが。
俺達は大量に頼んだファミレス料理を食べながら次のサバゲーをどうするか話し合った。
朝、七時に集合して今は二時。腹がすごく減っていた。今日はいつもと違うイベントも加わり、肉体に緊張という負荷がかかったせいもある。
何でも食べたいものが食べれるのは、ファミレスのいいところだ。ハンバーグ、うどんにカツ丼に……パフェまで何でもある。
俺は大盛ラーメンを食べた後、延々と山盛りポテトを食い続けていた。
ゾンビ狩り、おもしれぇーーー!!
テレビで人がやってるのを見た時は最低だなと思ったけど、実際やってみるとかなり楽しかった。
普通では味わえない緊張感とリアル感。
初めてジェットコースターに乗った時以上の衝撃かもしれない。
テレビに出てた不良とはやってること全然違うしな。これだけは断言させてもらいたい。
テレビでゾンビ狩りをしていた連中はただ残虐行為のみを楽しんでいるようだった。
俺達は戦略的に行動し、狩猟を楽しんでいるのだ。一緒にして貰っては困る。
「やっぱ、ガシュピン、楽しかったでしょ?」
神野君がしたり顔で覗き込んでくる。
「うん。最高だった! そういや、ライフルの改造なんだけどさ、威力アップした時、フレームが耐えられるか心配で……」
「フルメタルじゃないの?」
「違う。でもカスタムし易いのにした」
「カスタム用のパーツが手に入ればいいんだけど……」
「それは調べて買ったから大丈夫。でも、組み立てに若干自信ない」
「全然手伝うよ? 月末でなければいつでも俺は大丈夫だよ。弾速計も貸すし」
さすが、神野君。
弾速計は元々借りるつもりだったけど。
個人的にもっと色々聞きたかったが、来月のサバゲーについて詰めるので一旦話を中断した。
来月も通常ゲームの後、ハンティングをすることで全員一致。
更に、ゾンビ一体だけだと物足りないので、一人一体以上ゾンビを用意することになった。
ゾンビをフィールド内へ放ち、殲滅戦を行う。その際、ヘルメットを着用し三人か四人一組で固まって戦う。
バラバラになると、誤射する危険性があるからだ。そして、時間内にどれだけ倒すか、チームごとに競い合う。




