第十四話 サバゲー②
(登場人物)
田守太郎→ 俺。主人公。ニート。
青山君→ ショタコン。痩せてる。
神野君→ 通称師匠。サバゲーリーダー。
モグタン→ 神野君がペットにしてるゾンビ。
青山君と俺は同じチームになり、神野君とは別れた。五対五でシンプルな殲滅戦をする。ちなみに初心者の青山君は数に入れられていない。
場所は関東最大河川近くの沼地。
住宅が密集している首都圏では、自然が残っている河原付近が最適な戦場なのだ。
起伏のある広々としたフィールドは草木が生い茂っているため、見晴らしが悪かった。
こういった地形の場合、先に敵を見付けた方に軍配が上がる。
中心に小規模な沼があり、その周りに葛が繁茂していた。更にその周りを囲っているのは雑木林だ。戦闘フィールドはこの林に囲まれた葛のジャングル。
沼を中心に赤と黄の腕章を付けた俺達は北と南に別れた。
一応、俺はリーダーなので戦略を決め、皆に指示を出す。
そう、リーダーなんだよね、俺。
ニートだけど。
沼の周りには所々、低木が生えていてそれを覆い隠すように葛が繁茂している。低木に覆い被さった弦は絡まり合い、空洞を作る。
所々に小さな洞穴が点在している状況だ。
見通し悪い上、隠れ場所なら沢山ある。
敵兵を見つけるのは困難だ。俺達は囮を使っておびき寄せることにした。
まず、囮の一人に先陣を切らせる。
他の仲間達は少し離れた位置から後を追う。敵兵が現れたら左右から匍匐しながら近付き、挟み打ちにするという算段だ。
囮一人、それ以外は半分に分かれ、沼の東と西から回り込んだ。
囮はジャンケンで決める。
ただし、青山君は初心者なので免除。
何とかジャンケンに勝った俺は清原君という神野君の友達、青山君の二人と沼の東側から敵陣へと入った。
結果は惨敗だった。
神野君のチームは陣地から出ず、葛で作られたドームに潜み待ち伏せしていたのである。
味方を分散させず、敢えて一カ所に固めることで少数に分かれた俺達を狙い撃ちした。
葛のドームは隠れ家として役割を果たし、外にいた俺達は格好の標的となってしまったのだ。
完全に俺の作戦ミスだった。
しかし、しょぼくれる間もなく今日の肝であるハンティングを始めることになる。
ルールは簡単。
要はモグタンを討ち取ればいい。
ヒットは自己申告のみになってしまうし、カウントしない。最終的にモグタンを討ち取った者の勝利となる。
勝利者は昼飯を皆に奢ってもらえる。
エアガン以外の武器は使用禁止。
普通のエアガンでゾンビを倒せるかどうか懸念があったが、神野君いわくモグタンは相当腐敗していて頭部が柔らかいので数発打ち込めばイケるだろうとのこと。
俺達はハンティングの前に下準備をすることとなった。モグタンがフィールドを越えて林へ行ってしまうと厄介だ。
ゾンビの嫌がる臭いを林の手前にスプレーで吹き付ける。これも神野君がホームセンターで見付けてきた代物である。効果のほどは不明だ。
この作業には結構時間がかかったし、効果あるか分からなかったので全部はやってない。
「ヴヴゥ……ヴヴヴヴ……オグゥァ……」
木にリードを結ばれたモグタンはずっと唸り続けていた。
暴れることはなく、歩ける範囲をヨロヨロとうろつくだけだ。
躾ればペットに出来るというのも少し頷ける。臭いはスプレーで何とかなるし。慣れというのは怖いもので、準備する間、モグタンの唸り声や動きは全く気にならなかった。
淡いピンクのパンティを被ってるため、モグタンの表情は分からない。
これから何をされるのか知らないのだと思うと、微かに胸が痛んだ。
次に先ほどの戦いで消耗したBB弾をマガジンに補充する。
最後に神野君がモグタンに襲われた時の対処方法をレクチャーした。まあ、皆知っていることだけど、何人かはゾンビを倒した経験が無いので念のためだ。
頭部を固いもの、俺達の場合は手持ちのエアガンになるが……で強打して破壊すること。
この場合、勿論ヒットにはならず失格となる。だが、生死に関わる問題なので危ない時は迷わずモグタンを破壊しようと注意喚起した。
当然、噛まれると命に関わる。近くに引きつけ過ぎないこと。
後ろから襲われた時の護身術などを神野君は教えてくれた。
まあ、ゾンビは呻き声を上げているし、背後に忍び寄られる危険性はあまりないと思われる。
全て念のためである。
準備もそこそこに、神野君が沼の近くでモグタンを解き放った。
青山君は初心者なので一緒に行動した方がいいと思ったが、本人が一人でいいと言うから別れた。
さっきの対戦ですぐヒットされたのが相当悔しかったらしく、ハンティングで一矢報いたいらしい。
見晴らし悪い場所でもゾンビ一体だけだし、問題ないだろう──そう思い、俺は好きにさせた。
モグタンを解放した神野君が雑木林の手前まで走って来る。
合図のピストルが煙を吹いたら、それが合図だ。雑木林の前にいた俺達はそれぞれ好きな所から葛のジャングルへ入っていった。
ゾンビは聴覚と嗅覚を頼りに獲物を追うらしいので、音には注意する。
恐怖感はなかった。
期待感は大きい。先にモグタンを見つけた者が勝利する。神野君の言う通り、俺はこのハンティングを楽しんでいた。
周囲の気配に注意しながら、まず俺はモグタンが放たれた沼近くへ向かった。
自由になったモグタンはきっと動き回っているはず。
問題は先ほどのゲームで作ってしまった獣道とモグタンが通った道を判別するのが難しい点だ。
可能性を求めて誰かが通った跡を追跡していく。
動くたびに擦れる草の音が煩わしい。
草と湿った土の匂い。
俺は五感を研ぎ澄ました。
ちょっとした物音に緊張し、伏せて様子を窺う。背中を脂汗が大量に流れた。
一歩踏み出すたび、大量の小バッタが逃げていった。たまに横から飛び出てくるバッタにビビる。
ちょっとこの緊迫感は通常のゲームでは味わえない。
でも、嫌いじゃなかった。
時代が時代なら、いや異世界転生したなら俺は優秀な兵士。
敵兵やモンスターを蹴散らし、世界を救うのだ。そして美少女ハーレムで幸せにキャッキャッしたい……
あっという間に一時間が経過した。
落ちているBB弾に気付いた俺は落胆した。
これはさっきの殲滅戦で俺達が作った道だ。モグタンの通過跡ではない。
一時間の労苦が全て無駄だったのである。
俺は大きな溜め息をついた。
その時──
エアガンを連射する音が鼓膜を打った。
かなり近い!
再び緊張感が走る。俺は音の方へ身を屈めながら向かった。
音の主は青山君だった。
葛が低木に巻き付いて出来たドームの中、地面に向かってライフルを連射している。
モグタンはいない。一人だ。
「何やってんの?」
思わず聞いてしまった。
「音で誘い出そうと思って……」
照れ笑いしながら答える青山君。
いや、それぐらい見れば分かるけどさ……
「そのドームの中にモグタンが突進して来たらどうすんの? 弾無駄遣いしてるし、 一、二発じゃ、多分撃退は無理だよ」
「やっぱ、危ないかな……でももしもの時はライフルで殴ろうかなって」
おいおい、それ、俺が貸したやつだろうが。腐った体液で汚してくれるなよ。
苦い顔をする俺を半笑いで見ていた青山君の顔が急に変わった。




