第十一話 青山君
(これまでのあらすじ)
ゾンビのお陰で、エアガン改造が法律で許されるようになった。
その事を知った俺は喜び勇んで、役所へと向かう。
だがそこで残酷な現実を突きつけられる。
無職はエアガンの改造すら許されないのだった。
その日の夕方、俺はコンビニバイトの面接を済ませた。
役所からの帰り、駅前のコンビニでバイト募集の張り紙を見たのである。
早速尋ね、店長がいる夕方に面接する運びとなった。
夕方までの間は登録している日雇いバイトの派遣会社に寄り、仕事の予約をしておく。
改造用に新しく電動エアガンを購入したい。
中の部品を変えるだけでなく、メタルフレームに改造して強度を高くしたい。
今まで使っていた物でも改造は可能。しかし、欲が出てしまった。
目的が定まれば、行動は早い。
面倒なことはとっとと済ませたいタチだ。
バイトは明日からでも来てほしいと言われたが、来週からにした。
日雇いで即座に現金をゲットする方が優先だ。
ウキウキしながら帰宅する。
母ちゃんはもう帰って来ていた。
コンビニのバイトが決まったことを話すと嬉しそうな顔をする。
家でゴロゴロされるよりマシだからな。
どうせ、またすぐやめるけど……
部屋のベッドに横たわり、そこにあったスマホを手に取った後、ようやく着信があったことに気付いた。
──まさか、久実ちゃん!?
少しときめいてみてから、画面のロックを外してみる。
「あ、違った」
SNSにメッセージが届いていたのは大学時代の友人、青山君からだった。
青山君は確か大手ゲーム会社に就職したはず……
俺の前勤務先と同じくらいブラックで、社内に仮眠用の部屋とシャワーまで設置されているような会社だ。
フレックスなのか、いい加減なのかよく分からないが、午前十一時くらいに出社して始発で家に帰るような生活をかれこれ二年以上続けているらしい。
──田守君、今年も〇ミケ行くの?
何故、唐突にそんなことを聞く?
今、四月だから、だいぶ先だぞ。
某同人誌イベントがあるのは八月だ。
一緒に連れてってほしいとか、そういう話か。
俺は毎年、サバゲー仲間の神野君達と一緒に行っている。
「勿論、行く予定だよ」と返すと、青山君から思いがけない言葉が飛び出してきた。
来月、小規模な同人誌即売会で薄い本を売る予定だという。
個人サークルで申し込んだはいいが、こういった事に疎く詳しい俺に色々教えてもらいたいとのことだった。
ふーん、そういうことか……
それにしても、ブラック企業に勤務しているにもかかわらず、同人誌を書く暇がよくあったな……
俺の疑問に青山君はすぐ答えてくれた。
会社は半年前に辞めて、それから同人誌を書いているのだという。
うむ……俺と同じ無職か……
──何なら、ついて行こうか?
その提案に青山君は感激した。
青山君が参加するのは某有名漫画の同人イベントで、俺の好みとは合致しない。
それでも手伝おうと提案したのは、ちょっと面白そうだったからだ。
実は買う事があっても、販売したことは俺もない。販売の手伝いをすることによって、色々学べることがあるかもしれないと思った。
──じゃあ、当日前に一回会って打ち合わせしよう
青山君が提示した日はサバゲーの予定日と合致した。
俺がその日、サバゲーに行くことを伝えると……
──いいなー。行きたい
と返って来たので、神野君の許可を取ってから同行することになってしまった。
青山君はサバゲー初心者である。
装備は適当に自分で用意してもらうこととして、電動ガン(ライフル)は俺のを貸すことにした。
まあ、改造用に新しく買う予定だからな……
同人誌即売会とサバゲーと……日雇いで即金を稼がねばならないし、コンビニバイトもあるし、急に忙しくなったな。
青山君は結構な曲者だ。
見た目は小柄、ガリガリでショウリョウバッタのような顔をしている。
そして生まれ育った環境のせいで、生粋の右翼である。
尚且つ、某美少年子役俳優を知ってしまったために強烈なショタコンでもある。※ホモではない。
好きな番組は密着警察24時とNHKスペシャル。
喋りだすと、趣味の話で止まらなくなる。実生活では役立たない知識を山ほど持っているのだ……まあ、それは俺も一緒か。
上階でまたプロレス騒ぎが始まったので、俺は新品の耳栓を付けた。
二日連続で出かけて疲れた。少しだけ寝よう。




