第十話 エアガン改造
数日後、俺は役所にいた。
ゾンビというモンスターのお陰で電動エアガンのパワーアップが出来る。簡単な講習会に出て、申請手続きさえすればいいのだ。
ただ改造後、どのように改造したか写真付きで事細かに書いた証明書を提出しなくてはいけない。
替えた部品名とメーカー名、それによって変わったジュール(パワー)計算もしないといけないし……結構、面倒臭い。
俺の場合、無職がネックになった。
「アルバイトとかでもいいんです。何かありませんか? 在宅でも収入さえ得ていれば……」
役所の担当者は申し訳無さそうに聞いてきた。
「動画投稿サイトで広告料を貰ってるんですけど、駄目ですか?」
「ちょっと、待って下さい」
担当者は上司と思われる人物に相談するため窓口を離れた。
担当者の話を聞きながら、その上司は怪訝な目つきで俺を見る。
収入さえあればいいとか言うから、つい言ってしまったじゃないか。ああ、言うんじゃなかった……
しばらくして、上司がニコニコしながら窓口へやって来た。
「あのね、ユーチューバーって聞いたんだけど、それだと自営業と同じ扱いになっちゃうわけ。自営の場合、年間に収める税金の額が定められていて、それ以下だと申請が通らないんだよねー」
そう言って上司は書類を見せてきた。
……無理だ。所得税払うほど稼いでない。
「ああ、ちょっと無理ですね……」
俺は落胆ぶりを気付かれないように半笑いしながら答えた。
「どこか会社に所属してれば、アルバイトとかでも全然OKだから。一回申請が通っちゃえば、バイト辞めちゃっても大丈夫だし」
上司はにこやかに教えてくれた。
結構適当なんだな……
バイト先を見付けてからまた来ることで了承すると、上司のおじさんはフレンドリーに話しかけてきた。
「何、今流行りのゾンビ狩りでもするのかな?」
「……」
何だよ?? ゾンビ狩りって!?……気持ち悪っ!!
そんなもんが今の世の中流行ってるのか?
俺はアンニュイな笑みを浮かべながら礼をいうのがやっとだった。
「ユーチューバーとか今時だよな。俺の孫も憧れててさ、おじさんの時代には無かったからね、そういうの」
「はぁ」としか答えようがない。
このおじさん、ちょっと面倒臭いタイプだったわ。でも、色々親切に教えてくれてありがとうございます。
がっかりして役所を後にする。
入り口に置いてあった地域情報誌が目に入った。
働くか……一年ぶりに……
仕方ない。背に腹は代えられぬ。
俺はエアガンのパワーアップのため、働くことを決意した。
何でパワーアップしたいのか?
人や動物を狙い撃ちにするつもりではない。危ないからサバゲーでも使わないし。
やってみたいから、としか答えようがない。
釣り人が浮きや竿を自分好みにカスタマイズする感覚と似ているのかもしれない。
パソコンだって、CPUを変えてスペック上げたりするだろう? それと同じだ。
パワーアップすることにより気分が上がる。
まあ、エアガンの場合、パワーアップと言っても人間を殺傷するほどの威力は出ない。
シリンダーやピストンまで代えれば相当な威力が出るかもしれないが、そこまではやらないし。俺に出来るのはスプリングを強くすること、バッテリーをニッケル水素からリチウムポリマーに代えることぐらいだ。
バッテリーは容量の大きい物に代えることで、弾道を安定させることができる。
これぐらいじゃ威力が爆発的に上がるってことはない。補助的な効果ぐらいだ。
スプリングに関しては、取り立てて言うまでもないだろう。要はバネである。
注射器の押し子は指で押されるが、エアガン(電動ガン)はモーターの作動でギアが回転し、ピストンは後退する。その後、圧迫されていたスプリングが解放されることにより、勢いよくピストンが押し出されるのだ。一気にシリンダー内の空気が圧縮され、その力でBB弾が発射される。
よって、スプリングを強くすれば必然的に威力はアップする。
問題はそれにフレームが耐えられるかだ。
フレームまで代えるとなるとかなりの大改造になってしまうが……そうだ。神野君に相談してみよう。
神野君というのは、毎回サバゲーを企画してくれる友人だ。
多方面に詳しく、ニックネームは「師匠」である。
それにしても様々な制限はあるにせよ、パワーアップが認められるとはすごい時代になったもんだ。
エアガンの改造がゾンビ退治にどれだけ効果あるのかは分からない。
だが、ゾンビ評論家、下先生によればゾンビの頭部は腐敗のためかなり柔らかいそう。
これは事実である。
実際に戦ってみて実感した。
強度いまいちの角材ですら、数回殴っただけでクラッシュ出来たのだ。
パワーアップ電動ガンで頭部を狙い撃ちすれば、離れた距離からの退治が可能になるかもしれない。
瞬殺は無理でも、怯ませるぐらいは出来るだろう。




