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薬草学の本、毒物の本、数々の植物、フラスコ、ビーカー…。この研究室は、とにかく物であふれている。よく言えば…、いや、悪くしか言えない。汚い。
昨日はこんなにひどくはなかった。昨日の夜中、王宮から出された課題をせこせここなしていた結果、朝にはこうなっていたのだ。
本と書類の山の中に、黒髪が埋まっている。魔法使いであり、私の同僚であり、家族であるロナルドだ。
「ロナルド、起きてちょうだい。そんなところで寝ないで。」
動く気配はいっこうになかった。
カサンドラ王国の民は、魔法とは無縁の生活を送るものが多い。魔法使いや魔女や、そういった者は数が少なく基本的にひっそりと生きている。
そんな国の民でもマザー・ヘレンディアのことは皆知っている。美しく聡明で偉大な魔女だ。何百年、何千年と生きているとも言われている。詳しいことは聞いてはいけないのだ。たぶん。
私やロナルドは彼女の弟子だ。ロナルドは三番弟子で私は五番弟子。マザーには弟子がたくさんいるけれど、王宮に仕えているのは三人。一番弟子のチャールズとロナルドと私だけ。
王宮に仕えているといっても、チャールズは騎士としてで、私やロナルドは治癒や解毒など医療班としての仕事しかない。そもそもマザーの教えで、人を苦しめるような魔法は使えないのだ。