木のぼっこ
うんうんと唸りながらストーリーを考えていたら頭が熱いと思い、熱を測ったら・・37.5度!
知恵熱ってやつか・・
少し長め?
ぐにゃぐにゃとした空間で意識だけが漂っていた、次第に視野が戻り真っ暗な世界が目の前に広がった。
小さな雨粒が降り始めたかの様にポツポツと様々な色の光を放つ点が見えた。
自分の周りには何も無く、ただ小さな光の点を眺めていた。
それは宇宙と言われる世界だった、突然目の前に小さな点が現れた。
その小さな点は次第に大きくなりはじめ、ふと気づいた、その小さな点は大きくなっている訳では無かった。
自分が近づいているのだと認識した。
それは点ではなく、地表の形や色は違えど地球と同じだった。
そこからは一瞬の出来事だった、白く染め上げられ、薄れゆく意識の中で見えたのは巨大という言葉では言い表せない綺麗な球体に高速で吸い込まれる瞬間だった。
目を開けると光が眼球を刺激して視界が明滅した、目の前には後輩が居た。
「先輩?どうしたんですか?早くゲート潜りましょうよ!」
「あ、あぁ」
何かの夢を見て居た様な気分だった、 そして目を開ける前の自分が何をしていたのか、何を考えて突っ立って居たのか全くわからなかった。
後輩にゲートを潜るよう促され、後ろへと振り返ると鉄の枠だけで出来たゲートのはずが、枠内には白い霧の様な膜を張ったゲートの様な物だった。
「は?なんだこれ・・」
周りを見渡すと列を成している社員達は、その白いゲートを続々と潜っていた。
訳が解らず後輩を見ると、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「先輩?自分が先に潜っちゃいますよ?」
そう言った後輩は白いゲートを潜って行ってしまった。
「おっ!おい!」
後輩の背中を掴もうと咄嗟に手を伸ばした自分の手がやけにゆっくりと見えた、今までこんなゲートは無かったのに、何故他の人達は普通の日常を過ごしているかの様な平然とした顔で居られるのか、理解出来なかった。
唖然としながらも伸ばした手は後輩に届かず、ただ空をつかむだけのはずだった。
突如後輩に届かなかったその手は指先から黒く変色し、普段から着慣れたスーツと白いシャツの袖口まで達した瞬間、袖から肩にかけてスーツとシャツが黒い塵の様な粒子と成って消滅した。
あまりの事に何も反応出来なく、自分の黒くなった腕を見て居たら、黒い指先が鋭い針の様な形状に変化した。
黒く禍々しい針は自分の意思とは関係なく、自分の心臓当たりに先端を突きつけ、先端が深々と刺さった。
「やめ・・!」
夢の中でその言葉は最後まで発せなかった。
「ろぉお!」
「うわぁ!」
勢いよく起き上がった相良は、嫌な汗を体中に掻きながらも辺りを見渡した。
青々とした未踏の地を思わせるかのような広大な森と草原が広がっていた、そして初夏の心地よい風が相良を吹き抜けた。
「ここどこだ・・?」
自分の右手を見ても黒くないし、刺された心臓の辺りを手で触ってみてもそれらしい傷は無い。
「なんだ・・夢か・・」
どうやら恐ろしい夢を見て居たらしく、刺さる直前ではなく、刺さってから目覚めたのだった。
「何で刺さってから目が覚めるんだよ・・普通刺さる前だろうに・・」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ふと気づいた、うわぁ!って声が聞こえた事に。
後ろを見てみると右手に木のぼっこを持ったまだ幼い女の子が尻もちを付きながらこちらを見て居た。
状況が分からずに呆然としていると、すぐ近くから声が聞こえた。
「ルーシー?どうしたのー?」
目の前の女の子よりは大人びた声で、女の子はルーシーと言うのだろうか。
ルーシーと呼ばれた女の子は近くから聞こえた声の主に呼びかけた。
「おねえちゃん変なおじさんいるよ!」
変なおじさんって・・これくらいの小さい子からしたらおじさんだけどさ!やっぱり言われると、何かこう・・心にグサッと来るよな・・。
そんな事考えてる暇じゃ無さそうだ。
「ちょっとルーシー!その人からすぐ離れなさい!」
現れたのは金髪で如何にも村娘という感じの少女が、片手に小さな鎌を持ちこちらを怯えたような顔で睨んでいた。
「こっちに来なさい!」
「う、うん」
姉妹だろうか、怒気を含んだ声音で呼ばれたルーシーは困惑した顔で姉の背後に隠された。
「妹に何したの!」
鎌の切っ先を震わせながらもこちらを睨み問いかけてくる。
「いや・・何もして」
「なにもされてないよ?」
相良の言葉に被せる様に妹が喋り出した。
「ルーシーは黙ってなさい!」
怒られた妹はしゅんとした顔でまた姉の背後に隠された。
「正直に言いなさい!妹に何したの!」
今のこの状況から考えて小さい女の子に何かした変なおじさんにしか見えないよな・・。
とりあえず今の状況を自分の分かる範囲で答えるしかないな・・。
「本当に何もしてないよ・・ここで寝てて起きた所を驚かせちゃっただけだと思う・・」
銃を突きつけられ跪いて手を上げる、テレビでよく見る様な格好でありのままを伝えた。
鎌をこちらに向けつつジッとこちらを睨んでる姉は妹に真偽を確かめた
「ルーシー、あの人が言ってる事は本当なの?」
「ほんとうだよ?この木のぼっこであの人の体をツンツンしてたら、ろぉ!っておきたんだよ!」
どうやらあの恐ろしい夢は女の子が持っている木のぼっこのせいと言う事が分かった。
「そう、はぁ、すみません妹がお昼寝の邪魔をしたみたいで・・」
誤解は解けたが未だに鎌はこちらに向いている。
「あぁ、いや、別にいいんだけど・・鎌が怖いんだけど・・」
未だに鎌を突き出していた事に気づいた姉は慌てて鎌を下げた。
「す、すいません!こんな田舎に変なおじさんなんて居ないので慌ててつい・・」
姉にも変なおじさんって言われた・・やっぱりメチャクチャショックだ・・。
ショックを受けてガッカリしていた相良にルーシーと言われる女の子が問いかけてきた。
「おじさんのなまえはなんて言うの?なんでこんなところでお昼寝してたの?」
「あぁ・・あ?あれ・・何で・・だ?」
夢を見てたから寝てたんだよな・・?でも天界に居たはず・・だよな?あれ?んー?
うんうん唸ってる相良に姉が「もしかして・・」と言いかけた瞬間に思い出した。
そういえば女神に転移させられたんだった・・、どう説明すりゃいいんだ!
転移による影響で一時的に相良の記憶は曖昧になっていただけだった。
「もしかして、記憶が無いんですか?」
女神なんて言ったらややこしい事になるから、どうにか誤魔化す事にした。
「あ・・あぁ?そうなのかな?何か起きる前の事がよく思い出せない・・」
目の前の姉妹は痛ましい目でこちらを見て居た。
「たまにあるらしいんですよね・・モンスターに襲われて何とか生き残ったは良いけど記憶が無いとか・・あれ、でも体は何ともなさそうですね?」
怪しまれると不味いな・・何とか・・。
「んー逃げる途中で転んで気を失ったのかな?、そのまま草に埋もれて見つからなかったとかかな・・?」
苦し紛れに捻りだしたが無理があんだろこれぇ!
だが姉妹は納得した様だった。
「そうなんですかね、運が良かったんですね!」
「おじさんよかったね!」
「あぁ、この丁度よく伸びた草があってよかったァ!」
若干挙動がおかしくなりながら地面に生えてる草をポンポン叩く。
というかこの姉妹はこんな何も無い所で何してたんだろう?俺が言うのもなんだけどさ・・。
「てか、こんな何も無い所で何をしてんだ?」
怪しまれない為にも話題を変えよう。
「薬草摘みですよ、近くに村があるんです、よくここら辺に来るんですよ」
「そーだよー、ルーシーはおねえちゃんの近くでおさんぽしてた!」
どうやら村の近くに転移したみたいだ、薬草っていよいよ異世界って感じがして来たなー。
「そうなのか・・それより二人だけでモンスターとかって大丈夫なの?」
薬草摘みに来るって事は村の外だ、外って事はモンスターも居る訳で・・。
「ここら辺は村の子供達も来るくらい安全なんですよ」
「あんぜーん!」
もう既に見知らぬおじさんに興味を失ったのか木のぼっこを振り回し辺りをウロウロし始めるルーシー。
「そうなのか、村の子供達も薬草摘みをしたりするのか?」
ぶんぶんと木のぼっこを振り回しているルーシーを横目に見ながら姉に質問する。
「これと言って村の特産品も無いので寂しい村なんですよ、だから村全体で薬草摘みは大事なお仕事なんです、村にはまだルーシーと同じくらいの子供しかいないので薬草摘みは私か村の大人達くらいですね、今も他の所に薬草摘みに行ってる人達が・・」
ルーシーの姉が何かを思い出したのか、顔が青ざめてゆく。
「ど、どうしたんだ・・?」
「あの・・ここで倒れていたって事は・・ここら辺にモンスターが居たって事ですよね・・?」
「あぁ・・?そうなるな・・?」
せっかく話題を変えたのにまた戻ってしまいそうだ、だがさっきも聞いた通りここら辺にモンスターは出ない、恐らくそれが不味いのだろう。
「急いで村に知らせないと・・あの私すぐ村に戻ります!」
焦りだした姉はルーシーを急いで呼び戻し、村に帰る事を話していた。
「危ないのであなたも来てください!」
どうやら異世界初の村に行くことになった。