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To the Earth(脚注及び説明)

作者: 石際幸輝

こちらは、私が別枠で投稿している短編〈To the Earth〉の注釈です。

https://ncode.syosetu.com/n3475em/

こちらから本文をまず読んでいただけると幸いです。

 SFと言えば硬派なものほどその詰め込まれた衒学(げんがく)さを楽しむ喜びがあると思います。ですが、それはひとたび肌に合わなければ鼻持ちならないことこの上ないです。

 本小説は自分の知識を高尚なもののようにひけらかす高慢さを目的としないです。もっとライトに共通理解を深めるノベルを目指したいのです。よって、本文中の意味深な言葉の一部の解説を、以下に砕けた文体で付け加えたいと思います。

 もう暫く余韻に耽りたい! はたまた、解説なんてなくていい! あるいは、作者の顔が見える文は読みたくない! という方にとっては蛇足になりますので、改めてブラウザバックをお願いします。



  * * *



 『ここは天体観測室~(window)OS(Windows)だけである。』

 窓はないけど窓はある、英訳しながら読めば少し笑える言葉遊びになるかなと。windowの向こうよりWindowsの向こうの方が重視されつつあるのは現代でも同じですね。


 『ちょっと前までは赤色になったり、青色になったり、キラキラして綺麗だったのになー/ この部屋で観測された赤方・青方偏移の写真はともかく』

 星虹(starbow)、 赤方・青方偏移です。スネ夫のナポリタンのコピペで今では有名。端的に説明するならば光のドップラー現象です。通常の部屋から観測できる現象ではないので、人によってはここで天体、もしくは部屋が超高速移動しているのだと気付くかもしれません。

 赤方偏移は現象の名前であって、そこに至る原因は光のドップラー現象の他にも超重力場や空間膨張など考えられますので、断定はしかねますが。


 『紙媒体の、ましてや昔の星の写真など、今や数ある資料の中でもフラーの部屋にしか存在しないだろう。』

 資源の限られた船内では紙資源も節約するべきなのでしょうが、フラーの趣味の産物です。珍しいのでケネスもよく見せてもらっているようです。

 また、円弧状の星の流れが過去のものとされているので、地球の自転の観測されない部屋であることが推測できます。放射状は流星群でしょうか。


 『今じゃここから見える星の光なんて、肉眼の可視光域の外なんだから/もう恒星の光なんてガンマ線(γ ray)くらい来てない/見に行くのもいいが、昔の太陽みたく(Ultra)(Violet)(ray)ケアじゃ対処できないぞ』

 いずれも青方偏移です。偏移は同じ電磁波であれば赤や青に留まらないはずです、理論上は。可視光の波長10ˆ(2)nmがγ線10ˆ(-2)nmにまで短縮されているので、現時点で光速の99.99%以上は速度が出ているのでしょうか。速いですね。

 単純な計算ならそこらの大学の工学部受験レベルなのですが、さらに詳細な亜高速飛行時の青方偏移に関する研究は実益がなさすぎるせいか、容易に論文が見つからなかったため、大体が個人的な推測です。分からなければフィクションで誤魔化せばいいんですSFなんだし。

 あと、「紫を(Violent)超えた(Ultra)」を「紫外」と端的に訳した当時の専門家の語彙センスは素晴らしいと思います、個人的に。

 

 『よくぞ聞いてくれました! さあこれ、クリスマスプレゼントです!/昔はクリスマスの頃になるとみんなこれを食べてたらしいよ』

 英国のゲテモノ料理と名高い例のコーンウォール発祥のパイです。実はこれを食べるのはクリスマスではなく23日らしいのですが、古風な趣味の2人ですらそこまで調べが至らなくなるくらいには未来という設定です。


 『ケネスは地球環境保存区域(Terrarium)に務めている。/(con)(servation)と聞くと(pre)(servation)と逐一訂正を求める』

 テラリウム、園芸技術の一つですね。保全は人のための、保存は自然のための自然保護らしいです。最後に言及される本艦(TotheEarth)の航行理念が個人の思想にしっかり行き届いているようです。


 『固形完全栄養食(ration)が主流の今や、 生き物の形を想像させる食事すら忌避される風潮がある中、珍しい趣味である。』

 現代でも例えば沖縄料理のチラガーがゲテモノ扱いされるのですから、この未来に限った話ではないですね。生の魚を捌けないタイプの人はカロリーメイトや点滴でしか栄養を取れない人と同じ穴の狢だと思います。程度の差。ヴィーガンもびっくり。


 『ニシンのパイ包み焼き。フラーはこれを20世紀末の極東アジアのアニメ映画で見た覚えがある/映画の中でも、宅配便は届け先から受け取り拒否されてはいなかったか』

 魔女宅ですね。


 『確かに、(Star)見るひと(gazer)である~/ 夢想家の天文学者さんにはぴったりでしょ?』

 星をみるひとは知る人ぞ知るファミコン時代の神ゲーです、色んな意味で。その結末は本小説に近いものがあります。stargazerという英単語は個人的に好きな英単語トップ10に入ります。


 『残念ながらこの部屋にパイの付け合せになるようなものは置いてないが、保存の効く紅茶くらいは常備してある』

 パイの材料である小麦粉と同じく、普段のこの船の食生活の偏りが垣間見えます。


 『ノンカフェインじゃない紅茶があるけど~/味の濃そうな料理だし、English breakfastにしようかな/じゃあ僕はAfternoon tea』

 現代のアルコール程度に、この船ではカフェインも依存性のある嗜好品として取り扱われている設定です。その中でも濃い種類の紅茶を惜しげなく飲ませてくれるあたり、フラーなりにケネスを気遣う描写のつもりです。イングリッシュブレックファーストは名前の通り、朝に飲むらしいですが、味が濃い目です。やり手のサラリーマンが起きがけにコーヒーを一杯飲むのと同じ感覚なのでしょうか。


 『あと何年間、あと何回、この部屋でクリスマスを過ごすんだろうね/私たちの地球に着くのは、この船の時間で何年後なんだろうね』

 本文ラスト。ここまでで天体観測室の正体が亜光速船と気がついてくれた人はどのくらいでしょう。個人的に、ミステリ的なギミックを文に盛り込むときは、自分だったら読み解ける程には伏線を盛り込むよう意識してます。とはいえ、まず答えありきでなければどこが伏線かも分からないのでズルですが。

 光速に漸近するほどの船の時間の遅れは少しの計算ミスで数世代分もの誤差が出るので、フラーが答えをぼかしたのも仕方ないですね。



 『人類の乗ったカルネアデスの板は、ふと気がついた時には取り返しのつかないほどに腐朽してしまっていた』

 今じゃすっかり有名なギリシャの哲学問題ですね。昔のギリシャの人はよく考えます、暇だったんでしょう。板そのものが使い物にならなければ、上で何人突き飛ばしてもみんな沈みます。


 『太陽が赤色巨星になり地球を飲み込むまではまだ60億年以上あったが、地球の水の寿命は10億年。生命居住可能(habitable)領域(zone)、地球が私たちの知る地球の姿でいられる時間はさらに短かった』

 太陽の中心で核融合反応を起こしている燃料である水素が尽きると、核融合による膨張と重力のバランスが崩れ膨張し、真っ赤な星になります。それまでの過程で地球の気温は100度を超え、液体の水は存在しなくなるらしいです。住めないですね。


 『そして、 悲劇(disaster) の寿命は我々の地球の寿命より長かった。』

具体的な言及は避けますが、数億年単位の汚染となると放射線がメインでしょうか。擬人法と意訳のパレード。

 disaster(大災害)は否定の意味のdisに星を意味するラテン語のastrumやギリシャ語のasterなどを合わせた単語のようです。凶星は悲劇のサイン、もとは占星術の単語なのでしょうか。ほかにも、astronomy(天文学)astronauts(宇宙飛行士)と同じ系統のようですね。

   * * *

 ↑また、本文の区切りで用いている行間のこれもasterisk(星印)で、同じ派生だったりします。*や☆を用いようとも思いましたが、それだと露骨すぎるかなと。星型を人類が共通で五芒星や六芒星などに見える理由は人の目の構造が......脱線が過ぎますね。

 個人的に面白いと思ったのは、同じく大災害を意味するCatastropheはcat-astro-pheのような語源なのかと推測していたのですが、調べてみると遡ること印欧語由来のkat(下方へ)-strehうねるで、星要素はないみたいなんです。似た意味合いを持つ単語同士、astroという26^5=11881376通りの文字列が揃う偶然、ホントにそうなのかと疑いたくなりますね。katstrehという音にdisasterに引っ張られる形でastroという表音を当て嵌めたのではなどの推測が捗ります。言語学者気取り。


 『人工(Artificial)新生代(Lives in) 生物(Cenozoic) (Era)、通称Alice』

 古代ギリシャ語-英語-日本語で、ceno-new-新、zo-life-生にera-代で新生代のようです。Artificialは後に続く4単語の節全てにかかるって感じの英文法です。 頭文字(initial) だけ取って作った通称が何か別の単語になるのはかっこいい言葉遊びですよね。英語は苦手ですが遊び道具としては好きなので、無理やり作中に突っ込みました。

 ceにはcenozoicの他の候補として、celebrate(祝福された。セレブの派生)の頭文字も考えていましたが、人類規模の計画中の単語に「祝福」という宗教の限定的な意味を含む単語を使うのはどうかと思いやめました。不確かなものへの命名ほど意味を極力排したがるのは理系のサガ。

 しかし、国際規模の公的な式典演説の英文を読むと、少なくない頻度でcelebrateという単語は出てくるので、英語圏の人からしてみればそれほど宗教上の重い意味合いはないのかもしれません。そもそも、公的な式典というのも改めて英訳すればcelebrationですしね。厳粛な祝賀会、儀式。


 『ならば、地球より時間の進みが遅くなるよう航行すればいいだけだった。光速で動く物体の時間は時間の経過の影響を受けないが、そんな物体は現代の理論上存在しない。けれども、亜光速であれば理論上は不可能ではなくなる。不可能ではないのならば、どんな空想でも成しうるのが科学という奇跡である』

 SFここに極まれりって感じです。どんな技術で加速してるのでしょう。


 『ガイア(Gaia)理論を踏襲した――地球を一つの生命と捉えた場合の、その遺体の小分け保存計画――カノプスの壺計画だ』

 ギリシャ神話由来のガイアにエジプトの宗教観を当ててますが、カノプスはギリシャ由来なのでそんなに違和感もないでしょう。カノプスの壺がキーアイテムとされる映画のうち、日本で有名どころは『ハムナプトラ』でしょうか?


 『方舟(Noah's ark)――生物全般の保存』

 旧約聖書、創世記6章13節あたりの有名な話です。本小説の自業自得な地球汚染を、聖書中の大洪水は神様の行いになぞらえるとは、なかなかに涜神的な責任転嫁ですね。


 『亀の(Turtle)背中(back)――詳しい方法は明らかにされてないが、現人類をAliceに適応させる玉手箱(Blackbox)を載せた船』

 浦島太郎です。 玉手箱は原典を辿ると、仙人、鶴、老いで死亡など様々な説ありますが、 「玉手箱を開けてお爺さんになったのは、浦島を元の世界での年齢に合わせたから」という説を採用してます。つまり、浦島太郎を新世界へ順応させるための救済装置。


 『(Rip)(van)(Winkle)――有事の際の対策を講じる首脳』

 日本の寓話の三年寝太郎から。普段は寝てるだけの穀潰しかと思われていたけれど、実は村を大災害から救う手段を考え続けていたという話。リップヴァンウィンクルは米版浦島太郎という感じのお話です。


 『冷凍船(timereefer)――極限まで加速し、時の進みすら凍らせた人類の冷凍保存(backup)

 time-reefer、直訳で時の冷凍船、語感がかっこいい。



 『そして、この船は地球環境保存船、To the Earth。亜高速の宇宙船地球号』

 ――宇宙船(Spaceship)地球号(Earth)――

 本小説はこの言葉から始めた空想劇です。

 地球を閉じた環境、人が管理すべき華奢な存在であることを端的に表した言葉です。人類が月に到達する前頃に、人々の地球への未開拓地(frontier)としての認識は終焉に向かい始めました。詳細は再度、後述。



『フラーのまとめた星の記録は、製本の工程を経てはいないので、あくまで単なる調査資料の体裁に留まっている。しかし、各写真には彼の載せた注釈が付いており、星に関する神話や歴史、当時の人々の様相やその思想まで詳細に記載されていた』

ところで、このフラーの天体観測室、ケネス以外の誰か訪れることはあるんでしょうか?

ケネスが来ないで完全に自分個人のための天体観測資料ならわざわざ注釈を付けるなんてことはしないでしょうし、もしかするとケネスが読みやすくなるように、事前に一生懸命フラーは注釈つけたのかも知れませんね。

自分の書いた注釈に相手がコメントしてくれてるのに「そう」なんて呆気なくスルースキルを発揮するのは気恥しさ故か、鈍感すぎて自分の心持ちもよく分かってないか。

どちらにせよ、フラーは凄まじい不器用な心の男のようです。正直、書いていて、とてももどかしいキャラですね。


本当は無骨な一面だけでなく、細かい気配りや窮地の男気などの面から彼の優しさも描きたかったのですが、後半の不慣れなやりとりだけで勘弁してやってください。


修辞技法(rhetoric)を混じえないモノクロの論文調ながら~』

レトリック。二字熟語に当て嵌めるなら文彩、でしょうか?

本文中では伏せていましたが、後に続くモノクロという表現はそれと対比してのものです。読み込むタイプの読者なら、「モノクロ」という表現から改めて「修辞技法」を返り読みして、修辞技法を彩りと暗喩する綺麗さに官能を刺激されてくれたかも知れません。

というより、私は「文彩」というこの単語がシンプルで完成度高くて好きなので、その感動を読者のうち誰かと共感したかったのです。

熟語の綺麗さを噛み締めてるときは、三島由紀夫が辞書を読み物としていた気持ちがわからないでもない。心理学上の官能検査の方の意味での官能という単語は、風俗画くらいは風評被害を受けてますよねーと考えたあたりで閑話休題。


『亜光速の宇宙船地球号。

 未来の地球に向かって、厳寒の銀河系を宙船は巡り続ける。

 願わくば、その旅路が平和と喜びに満ちていることを願う。』

後述の演説を意識して短くまとめ直した締め文句。

改めて登場させたこの――宇宙船地球号――。


 フラーとケネスはそれぞれ、この言葉にまつわる思想を残した建築家と経済学者の名前だったりします。実は序盤に登場する登場人物の名前が一番核心を突くわかりづらい伏線だったのです!



もう一つの案としては、『船』という詩を書いた昭和初~中期頃の詩人から、山之口ちゃんと獏くんにしようとも思いましたが、その詩の内容は悲痛なアイロニーと訴えに塗れて刺々しいのでやめました。本小説からは少しでも陰りを取り除きたかった。


 それでは、折角なので――宇宙船地球号――という単語の入った演説で、この脚注の締めにしようかと思います。以下、1971年3月21日の日本の式典における、国連事務総長の演説を原文抜粋と、稚拙ながらその私訳です。



『“Mankind’s eternal aspirations for good instead of evil, for peace, instead of war, have reached world wide dimensions during this century.

 At long last the concept of EARTH DAY, of world patriotism and of the family of man, have come into being.

 May there only be peaceful and cheerful EARTH DAYS to come for our beautiful space ship Earth as it continues to spin and circle in frigid space with its warm and fragile cargo of animate life." 』



 「今世紀中、悪を却って善へ、戦争を却って平和への、人類の永遠の願いは世界規模に達しました。

 遂に、アースデイの、世界の愛国心の、人間という一族の概念が人類の中へ宿るようになってきています。

 願わくば、平和と明朗に満ちたアースデイだけが、我々の美しい宇宙船地球号に来ますように――温かく儚い生物という積荷とともに、極寒の宇宙を回り、廻り続ける地球号へ」


いかがだったでしょうか。読者様の心に留まるものがあれば幸いです。

それでは、ここまで読んでくださり、重ねて、どうもありがとうございました。


(参考・出典サイト)

※ページ下部のランキングタグ、あるいは本URLから閲覧ください。

『アースデイ:過去、現在、未来(海外サイト。原題EARTH DAY:PAST,PRESENT,FUTURE)』

http://www.wowzone.com/mc-lee.htm

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