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門番さんはレベル50  作者: 梅野酢漬
これは勇者様、どうしました?
9/24

なにやつ!

 推定第三級指定モンスターが認定から一日足らずで討伐されたという噂は冒険者ギルドだけでなく王都住民にもすぐに知れ渡った。


 討伐のあかしとして通常の鉄殻蠍(メタルピオ)の五倍はある尻尾を持ち込んだ聖銀騎士団の男が、わざわざ街中を人目に付くように歩き、冒険者がぞろぞろと並ぶ早朝の受付にその長大な尻尾を持っていったからである。


 王城の門を抜け、広場を通り市街地を冒険者ギルドまで突っ切ったのだ。多くの民と冒険者がその異様な光景を目撃し、野次馬根性あふれる者は何事かと彼らの後を追う。ちょっとした行列になった住民は冒険者ギルドに突撃した一行のリーダー、騎士グリックの叫びを確かに聞くことになる。



「第三級指定モンスター『錆びたゼルド』を屠りしは!ノルヴァ王国第二王子、ウェルアーク様であるっ!」



 冒険者ギルド王都ラミディア支部は討伐パーティの選考を中断、その場で報奨金の半額と懸賞金全額、合計して金貨三〇枚を引き渡した。

 騎士グリックは単純に金目当てで行動していたが、実のところは王都住民の間で第二王子ウェルアークの名を高め、王位継承権争いにおいて一歩先んじること。さらに旅をする冒険者が噂を運び、武勇が世界に知れ渡ることを狙った聖銀騎士団の策であった。


 …のだが。民や冒険者を侮るあまりに考えが足りなさ過ぎた。


「信じられんな。王族がノコノコ討伐に行くのもそうだが、等級指定されたのは昨日の昼だ。騎士サマが動ける夜から森に入って索敵、さらに討伐してあのデカいのを担いで朝までに出てくるってのは早すぎる。まさか大部隊が動いてるってこともねえだろう」

「確かにな、それに全員に戦いの痕跡がねえ。誰一人傷一つついてねえ、新兵かよ」

「野次馬の話じゃあわざわざ王城から持ってきてるらしいぜ。偽モンなんじゃねえか?」


 様々な情報をもとに信じない者。


「あんな大声出す必要ないし、名を売りたいだけでしょ。相手する必要もないわ」

「第二王子って。序列低いから継承権狙ってるのバレバレじゃない」

「みーなさぁーん!策に溺れたバカがいますよぉー☆」


 持ち前の洞察力で策を見破るもの。


「ああん?ベルマーク?誰だそりゃ」

「ウェルアークだバカ野郎。どうせ王子とやらは後ろで石でも投げてたんだろ」

「バカだとぅ?やんのかてめえ!」

「上等だコラァ!てめえのケツにあの尻尾ぶちこんでやるぜ!」


 そもそも興味がない者など、様々な冒険者がこの一件を噂として広める気皆無であった。


 ギルド長および熟練冒険者、解体屋、薬術師などの検分により騎士の持ち込んだ尻尾は鉄殻蠍のものであることが公表されたので偽物説は下火になったが、尻尾を切り取った本体の遺骸に案内してくれというギルド側の要請を騎士グリックは拒否した。


 誰がどう考えても怪しい。

 だから、冒険者ギルド王都ラミディア支部総合事務部次長ライム・コルトハートは西門に来た。



《ボッツ、おきる》

《おきる、ボッツ》


 ボッツ、オキテル。セイレイサン、トモダーチ。


「ダメね。装備全部鉄球に替えてあげようかしら」


 寝てはいない。意識もある。ちょっと疲れてはいるけれど、私は元気です。


「あら、誰か来るわね。いそいそ…」

《もそもそー》

《ごそごそー》


 もうすぐ昼だ。アーディオが起きてきて交代してくれたら俺、ゆっくり寝るんだ…


「あ、ボッツさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


 白スライムの光で傷は回復しても眠気と疲れはどうにもならないことが実証されたわけだ。できればあまり食らいたくはないが。

 ところで先ほどから我が眠りを妨げるものは誰だ、いや寝てないんだけど。


「寝てる!?門番が寝てる!?ボッツさん!起きてっ!」


 反応のないボッツをゆすり、頬を叩き、流れのままに足を払う。本人はド忘れしているが、ライムは元高ランク冒険者である。鍛え上げた武術と身体能力は決して人を裏切らない。


 反応のないボッツをシェイクして脳震盪を起こし、往復ビンタで意識を睡眠ではない方向で奪い、足払いで宙に浮いた体が冗談のように一回転して着地したのち、膝から崩れ落ちる。

 衝撃で起きたボッツの足は生まれたての小鹿、あるいはスライムのごとくプルプルしている。


「な、なにやつっ!」


「わああ!すいませんすいません!冒険者ギルドのライムです!」


《面白いわねこの子》

《ボッツだいかいてん!》

《もっかい、もっかい!》


 もう一度やれば永眠するんじゃなかろうか。

 謝り倒すライムにとりあえず椅子を持ってきて座らせる。元冒険者こわい。


「えーっと。また等級指定モンスターですか?」


「い、いえ。そうなんですけどそうじゃないんです。」


 仕事モードに入ったライムさんが申し訳なさそうではあるものの居住まいを正し、口を開く。


「今朝、冒険者ギルドに推定第三級指定モンスター『錆びたゼルド』のものと思われる尻尾が持ち込まれました。討伐人はノルヴァ王国第二王子、ウェルアーク様とのことでしたがご本人ではなく聖銀騎士団の方々が報酬の受け取りに来られ、ギルドは討伐を認めてギーク金貨三〇枚を支払いました」


「はあ。そうですか」


 もう終わったことだ。蒸し返されるだけうっとうしいが、あの場の出来事は誰も知らない。ライムに当たるのは筋違いだ。

 しかし本当に金貨三〇枚もらえたのか…あいつらさえいなければ装備の補充と品質の向上ができたのに。


「ですが遺骸まで案内してほしいというギルド側からの要請を聖銀騎士団は拒否。ギルドは等級指定モンスターの遺骸の回収を断念したのですが…」


 一息おいて、ライムが真剣な目つきでボッツを見据える。


「私としては、ボッツさんがゼルドを倒したのではないかと思っています。もし、遺骸の場所を知っているのなら教えてくださいませんか?」


 うーん、言っていいのかな。ああいう形で決着させたのに掘り返すのはなんだし、もしかしたらゼルドの遺骸の情報はアーディオが切り札として秘匿していたんじゃないのか。

 決めた。真実を明かすのは後でもできる。今はすっとぼけよう。


「や、やだなぁ。買いかぶりすぎですよ。昨日は精霊林に哨戒に行きましたけど何にもいませんでしたよ、なーんにも」

《あんた演技ヘタね…》


 タマネさんうるさいです。門番は権謀術数も舌戦も演技も苦手でいいの。

 やっぱり演技が下手だったのかライムさんから謎の威圧感がにじみ出ている。元冒険者こわい。


「ボッツさん。聖銀騎士団にいくらもらいましたか」


「いやいや、なにももらってなんかいませんって」

《ぎんかななじゅうまい!》

《おおあかじ!》


「今回の一件で彼らは等級指定モンスターが金と名声を得ることに使えると認識したかもしれません。幸いと言っていいのかわかりませんが、お金はもっていかれたものの不審な点が多いため名声に関してはそれほど高まってはいません。」


 第二王子ウェルアークは確か今年で十五歳になったはず。成人として認められる年齢だが体はまだ未発達だろう。等級指定モンスターと戦うには実力も経験も怪しいものだし、王族がそんな危うい戦いに乗り込むはずもない。


「精霊林は一種の暗黒地帯です。住民はおらず、広大な割に活動できる冒険者も少ない。今回のことも精霊林だからこそできたことだといえます。人目につかずに等級指定モンスターを討伐するだけなら騎士にも不可能ではないですが、荷物を担いで無事に生還できる人がボッツさん以外に居るとは思えません」


「それはそうですが、私も巨大なモンスターの尻尾なんか担いでたら無事では出てこれませんよ。大型の魔物でも調教して連れていければ別ですけど、そんな金は西門にはないですね、あはは…はぁ」

《気を確かに持ちなさいボッツ。なんかオーラが出てるわよ》


「ええっと。そう、お金です。遺骸まで案内していただければ冒険者ギルドが買い取り交渉に応じます。尻尾の大きさから逆算して通常のメタルピオの十倍はある個体なので…えーっと」


 メタルピオは甲殻に多くの金属・貴金属を含むほか、体液には防錆作用があり、様々な武器の手入れに用いられる。

 肉は淡白な味で、東のラオ大陸との交易でそれなりの利益が出るらしい。通常の十倍にもなる鋏は好事家がどんな値段で買い取るかすらわからないそうな。


「ということでもろもろ計算すると交渉開始額は金貨七枚くらいになるかと…わあっ!?」


 頭の中で解体料金や売買ルートと税金、交易利益にギルドの純利益を計算したライムが推定金額を口にすると同時、門の中から謎の影が飛び出してきて、ライム(とボッツ)の前で止まって叫ぶ。


「委細承知した!遺骸への案内、このアーディオにお任せあれ!ボッツ君、もうちょっと頼むゾ☆」


 なんなんですかこの人!?と困惑するライムの襟首を掴んで一旦街へと去ったアーディオは大容量の馬車で戻ってきて草原を突っ切り、再び戻ってきた時には八枚の金貨を手に謎の高笑いをしていた。


「はっはっは、どうかねボッツ君。まぶしいだろう」


「落としますよ?」


 この後本当に一枚落として半日探し回ったのは別のお話。

尻尾がなく、脚も三本ないし体液も流れちゃって少なめ。なのでゼルドの遺骸はちょっと安いです。

ギルドとしても金貨三〇枚払っちゃってるので利益を考えると交渉開始金額に金貨一枚くらい上乗せするあたりが落としどころ…かな?

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