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門番さんはレベル50  作者: 梅野酢漬
これは勇者様、どうしました?
4/24

武器や防具がほしいなら中央通りに行けばいい

 ライムさんはイラストが付いた手配書の束を置いて帰っていった。討伐パーティの選考があるのだという。


「やっほ、ボッツ君。鎧がボロボロだけどピンピンしてるね」


「あ、アーディオさん。お疲れ様です」


 話しかけてきたフルプレートにフルフェイスヘルムの門番制式装備の男はアーディオ。勤続十二年で三つ年上の年長者だが、ですます以外の堅苦しい敬語は苦手らしく話さないし話させてもらえない。

 今はフルフェイスヘルムでわからないが自然に逆立つ赤い髪が特徴的だ。そういう俺も普段からフルプレートはつけているが。

 

 ボッツと同じ西門の門番で、精霊さんに対する感知力に秀でていたこととやわらかい物腰、武術においても優秀なことなどから抜擢されたらしい。


「やー、ごめんね。二階で月報書いてたんで気づけなかった」


「俺も十年目ですよ、このくらいは大したことじゃないです。でも装備損壊はまずいな…」


 それかな?とアーディオは立てかけてあったボッツのハルバードと剣を手に取って眺める。


「あー、溶解性の体液どっぷりで痛んじゃってるねー。とりあえず着替えてきなよ。門と焼却炉は見ておくからさ」


「すいません、助かります…すぐ戻りますんで」


 ゆっくりでいいんだけどなーと苦笑するアーディオに頭を下げ、門内通路にある武器庫へ向かう。

 馬車や大型魔物もすれ違える門内通路は普通なら通行人や兵士相手に商店が並ぶものだが、通行量の少ない西門においてはやはり閑散としている。


 空き店舗の並ぶ中、今ある店舗は兵士向けの量だけは多い酒屋『ジェムド酒店』くらいで、だだっ広い空間は少し寒々しい。二階のテラスにあるカフェ『精霊林のささやき』は味と量と店員のおかげで繁盛しているが、一階部分にまでその活気がもたらされることはない。


 それに、門を抜ければ平民が普段使う商店街もある。武器や防具がほしいなら中央通りに行けばいい。商売する側からすると人通りの少ない西門内に店を構える理由がほぼないに等しいのだ。


 そんな静かな門内通路の精霊林側出口近くにある木のドアの錠前に粗鉄のカギを差し込んで回すとずらりと並ぶ大小の鎧兜とよく整備された鋼の武器群が飛び込んでくる。

 文字通り、ボッツに向けて飛び込んでくる。


「うおわあああぁぁっ」


 長剣がボッツの脇を抜け、手斧が頭を割る軌道で回転しながら襲ってきたのでなんとか柄をつかむ。そして投てき用の鉄球が顔面に飛んできたので手斧で打ち返した次の瞬間。


 もう一つ低く飛んできていた鉄球が鎧越しに股間を直撃した。


 めしり。


「ぅはぁっ、ぐうあっ」

《ふふふ、大当たり》


 局部を抑えて崩れ落ち、悶絶するボッツ。その頭に直接聞こえてくる少女の声と共に頭上を鈍色に輝く短剣が舞う。宙を舞う短剣は回転しながら降下、床に突き刺さると光と共に少女の姿に変化した。


「まだまだね、ボッツ。アーディオなら扉を開ける前に私に気づくわよ」


「タマネ…あの人以外には無理だし股間を狙うなよ」


 ボッツを見下ろすアッシュグレイの髪に純鉄の「カンザシ」という髪飾りを挿した少女はタマネという名の精霊さんで、武器庫に死蔵されていた短剣が精霊林の影響を受けた結果生まれた短剣の精霊さんだ。

 鉄や鋼の扱いに長け、本体である短剣はミスリルすら切り裂き貫くらしいが彼女を握った者はまだいないそうな。


 ボッツにとっては武器や防具を壊してしまったときに怒られたり時折命にかかわるいたずらをしてくるものの、武器庫の管理人をしてくれている気の置けない精霊さんである。

 オビとキビよりも生誕が早く、幼さの抜けた少女の姿をとっている。武器庫で力を高めたのか一般人にも見え、声を聴くことができるようになる実体化(アラワシ)もできる。


「見事に直撃したわよね。どれどれ、見せてみなさいよ」


 割と本気でボッツを脱がそうとするタマネがまずはボッツの手をはがしにかかる。手はやわらかいのにその力が門番として武器を扱うボッツが押し負けるくらい物凄い。


「いやいや大丈夫だって。おいこらやめろ、やめてください、やめてぇーっ」


「よいではないのよいではないの」


 門内通路にボッツの悲鳴とタマネの楽しげな声が響く。静かな上、トンネル効果でそれはもうものすごい響く。


 ボッツをひとしきりいじって満足したタマネが股間を守り切ったボッツを見下ろしたまま首をかしげる。


「あれ?ボッツ、鎧どうしたのよ。ハルバード持ってないし帯剣もしてないし」


「ああ、ティブルカワズと戦ってな。武器を大事に使うべきなのはわかってるんだけど」


「またダメにしたのね、っていつもは怒るところだけど」


 タマネが手のひらを武器庫に向け、常備してあるいつものハルバードと長剣、胸甲を呼び寄せ、ボッツの近くに落としてくれる。大盾も武器庫の奥からガラガラと端を擦りながらやってくる。重いんだな。

 珍しい気配りにタマネを見ればその顔色があまり良くない。


「精霊林から鉄の…いえ、血の匂いがするわ。ボッツ、気をつけなさい」


「タマネ?」


「私個人としては実体化がないと私たちを感知さえしない奴らには何の感情も持たないけれど、精霊林がヒトの血で汚れるのを嫌う精霊はヒトそのものを嫌うこともあるからよ」


 ボッツが精霊さんを視認できるようになって約七年。門番は精霊林の哨戒もするので交流のある精霊さんも多いが、精霊林は広い。先輩のアーディオでも知らない精霊さんだっているだろう。


「じゃ、さっさとこれ書いて帰りなさい」


 そういって差し出されたのは装備の出入りを管理する帳簿である。書類に必要事項を書くのは国家に奉仕する立場として当然のことなのでおとなしく書くが、記録を見る限り最近になって装備の消耗が激しくなってきているようだ。

 ペンを置いたボッツがしばらく記録を見ているとタマネがのぞき込んでくる。


「やっぱり、最近の消耗の速さが気になるわね。ハルバードだけ見ても月に一本の勢いで全損しているわ。」


「タマネが手入れしてくれるから去年までは年単位で使えたんだけどな」


「そうね。今日みたいな部分溶解や欠損、劣化なんかもちゃーんと修理してあげてるのだけれど。いつも壊れて帰ってくるわね」


 鉄と鋼の精霊さんであるタマネの整備と修理があるにもかかわらず全損が出るのは主に武器の柄などに使われる木材部分の修理が専門外であることもあるが、魔物との交戦頻度が増えていることが大きい。


「武器も防具もいつかは壊れるものよ。でも、できれば長く使ってあげてちょうだい。壊れなければ精霊になる可能性だってあるんだから」


 帳簿を提出するとそれきりタマネは武器庫にこもってしまったので(鍵は閉めてくれた)、溶けた胸甲を交換し、長剣を剣帯に。ハルバードと大盾を手に持ってアーディオの元へ戻る。

 

「すいませんアーディオさん。ボッツ、戻りました」


「おかえりー、いきなりだけどボッツ君。今夜哨戒行くよー」


「本当にいきなりですね、どうかしました?」


 問うと、アーディオは破損したボッツの装備を足でつつく。


「これよ、これ。何年も前から意見具申してるんだけどねー」


「言いたいことはわかりますけど、鋼製の装備は門番の制式装備ですよ。西門は予算削減され続けてますし厳しいんじゃないですかね…」


「でも、精霊林の中じゃ弱い部類のカワズの少量の溶解液で正面装甲が溶けるとかさぁ、ありえなくない?門番に死ねって言ってるようなもんだよねー」


 昔は鋼の装備でもなんとか門を守れていた。精霊林の力に耐えきる魔物の数が少なかったからだ。

 それが最近、冒険者ギルドの発達によって発生している魔物の狩りそびれや撃退によって精霊林に逃げ込む魔物が増えてしまった。

 手負いの魔物、つまり倒しきれなかったということは通常よりも強力な個体であることが多い。生き残る確率も依然低いとはいえ増える。


「と、いうことで。予算がないなら稼ぐよ、ボッツ君。具体的には『錆びたゼルド』を狩るよー」


タマネは外見年齢15歳くらいを想定してます。

実年齢は5歳くらい。躊躇なく股間を狙えるのは精神的にやや幼いところがあるからです、マネしちゃだめ。

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