超能力の日常風景(大惨事の翌日)
1ヶ月あいてお久しぶりです忘れてた訳じゃないっすよマジで
「ねぇ、聞いた!?」
「聞いた聞いた!てかスマホのニュースで見た!」
「え?何の話?」
「決まってんじゃん、昨日のビル倒壊の話だよ」
「あ~、あれね。すぐそこのでしょ?」
「自殺者止めようとして人がたくさん巻き込まれたんだろ?」
「てゆーか昨日からニュースそればっかなんだけど」
「手抜き工事の疑いがうんたらかんたらっても言ってたね~」
「あ、そうだ知ってる?あのビル建てた会社とこの学校建てた会社って同じらしいよ?」
「え?じゃあ点検とかで近々学校休みになったり!?」
「馬鹿、笑い事じゃねぇよ、怖ぇよ」
「………………………………」
ビル倒壊の翌日、都内に存在するとある県立高校、のある一教室にとある少女の姿が有った。セミロングの茶髪、規定通りに着こなした制服と特に周囲と変わることの無い少女である。そんな彼女に強いて周囲の生徒と違うものを見出だすとしたらそれは大きく分けて2つ
1つ目、これは見たまま。つまりクラスの話題が昨日発生したビルの倒壊事件で持ち切りになっている中、彼女はそれに関わる話題を一切持ち出さない、どころかその会話の中に入っていく事すらしないと言う事
念のために書き加えておくと彼女は別段このクラス内で孤立しているわけでもなければ他人との会話が苦手な訳でも無い。むしろコミュ力は日本人の平均から言ってかなり高い部類に入るはずの人物で、たかだかクラスメイトとの会話程度何の苦でもない筈である
にも関わらずこの話題について一切クラスメイトと話をしないのは一重にこの件について興味が無い、と言う事である。現に彼女がスマホで何をしているのかというとビルの倒壊とは一切関係の無いソーシャルゲームである。ちなみにこの2分後、彼女の元にデータ通信の速度制限に関するメールが届きスマホ弄りを中断する事となるのだがそれは後程
とりあえず今の要点を纏めると、クラスメイトほぼ全員が参加している話題に全く興味を示さず会話に入れるコミュ力を持っているのに入ろうともしない。と言うことである
最もクラスの人間の大半は彼女が学校生活においてそれほど口数の多い人物ではないと理解おり、一切話題に反応を示さないことについても同様の人物が他にも僅かながら居ることから特には違和感も抱いてはいなかったのだが
そして2つ目、こちらについてはパッと見で分かるものでは無い。もし彼女の言葉を借りて言うならば
「『これ』を知ってる人はクラスって言うよりは今まで私の人生に関わった人間全員を調べたって片手で数えられる位しか居ない」
彼女がそう断ずる他の人間との相違点。それ即ち――
伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝伝
「なぁ!咲間君!」
教室に入るなり、唐突に男子生徒に声を掛けられた。少なくとも自分の記憶では殆ど会話を交わした事の無い相手である。その上、何故かやけに鼻息が荒い
「何?どうしたの?」
今まで交流の無かった人物から話しかけられた事と彼の異常なテンションに多少訝しみつつ返事を返す
「咲間君、君さ、昨日あの事故の場所に居たんでしょ!?」
「…………え?」
驚きのあまり一瞬硬直する。いや、確かに逆はあの時あの場所に居た。しかし何故名前すらよく知らない彼がそれを言えるのだろう。まさか彼もあの場所に居たとでも言うのだろうか、という逆の思考をよそに彼は自分の胸ポケットをさぐり始めた
「ほら!これ咲間君でしょ?」
そう言って彼が見せてきたのは1台のスマホ。画面の中では今日放送されたものと思われるニュース番組が流れている。おそらくどこかの動画サイトに上がっていたものを持ってきたのだろう。映っているのは撮影スタジオと2人の出演者である
『はい、これは昨日東京の〇〇区にて発生したビル倒壊事故、その瞬間を捉えた映像です』
というアナウンサーの声とともに映像が切り替わり、ビルの周囲の映像が映し出される。時刻はビル倒壊の2分前である。
その映像はどうやら付近の建造物等に設置された監視カメラのものであるらしい。人間では到底不可能なアングルからの映像が4つ映し出されている。件の自殺志願者に大勢の人間が呼び掛けているようすが映像が3つ、ビルをやや遠目がちに撮した映像が1つである
この時点で、正確にはスマホを出された時点で逆は何か嫌な予感がしていた
「…………まさか?いやそんな訳……………」
そんな事を呟いたその瞬間、画面の右斜め上の映像に動きが見えた。映し出されていたのは―――人混みを抜けてその場から去ろうとする逆の姿であった
ちなみに他にその場を去る人物は殆どいなかった
「……………………………」
見事に画面の中心付近、しかも冷めきった表情までしっかり確認できる大きさである
「ね?これ咲間君でしょ?」
と彼が声を発すると同時、スマホの中から3つの映像が消え、代わりに遠目にビルを撮した映像が画面いっぱいに映し出された。おそらくはこの直後にビルが崩壊するのでそれに人が巻き込まれる様子を映さないための配慮と思われるが正直言ってあと5秒、いや、3秒早くそれをやってほしかった
「ね?そうでしょ?」
と男子生徒がしつこく問い掛けるが逆はそれどころではなかった。しまった。やってしまった。ジーザス。いや、別に自分が何かやってはいけない事をしでかした訳では無いのだが究極的な平穏を求める逆にとってこのシーンは決して見られたいものでは無い
だって考えても見て欲しい。事故の起こる直前にここまで平然と現場から1人離脱する奴なんて正直怪しすぎるだろう。この直後の大惨事が起こることを知っていた、もっと言えば爆弾か何かでこれを引き起こした張本人だと思われるやもしれない。考えすぎ?否、超能力者という非実在性の塊みたいな存在が実在する時点で何時、何処で、何が起こってそれが周囲にどういう風に認識されてもおかしくないのだ
そんな訳で現在逆の脳内はどうやって言い逃れをしようかと脳内会議の真っ最中である。最も目の前の彼は超能力者が実在する事も逆が超能力者である事も知らず逆がこの事件に関与している等と言うことは微塵も考えていないのだが、更に言うなら例え彼が(超能力の存在を知らない人間にしては)ブッ飛んだ考えの元、逆を本気で疑っていて追求するつもりでこの話題を持ち出していたのだとしても教室の窓や屋上から飛び降りるなりして死ねば『一週間以内』の出来事である事故への鉢合わせを無かった事に出来る筈なのだが――哀しいかな、考えすぎる癖にいざというときにパニックになるのが咲間逆という超能力者なのだ
「えっと………これは………」
考えもろくに纏まらない内に何かの弁明をしようとする逆だった――が、それは話題を持ち出してきた彼によって遮られた
「あっ!ごめん咲間君!」
「え?」
「今日提出の課題途中までだった!やんなきゃヤバい!ごめんね!」
と言い終わるか終わらないかの内に彼は慌ただしく自分の席に戻っていった
「…………は?」
あまりに突然の話題放棄に逆が呆気に取られていると突然、彼の脳内に『メッセージが届いた』
『やっほー、逆君。あんまり興味無い話だったけど何でか焦ってたから口出しちゃった』
「………………この人に助けられるとか………最悪」
脳内に響くメッセージに悪態を吐きながら目をやった廊下には、隣のクラスの茶髪の少女が居た
浮島茜 能力名――『脳内チャット』
顔を知る相手にテレパシーを行う能力
三人目の超能力、浮島茜さんの登場です。どんな人物なのか、詳しい説明はまた次回