表舞台の切れ端話
凪波もろくに進まないジョーカーです。作ってみたかった能力物です、平行して進めやす
―――音が、聞こえる。目障りなまでに大きな建築物がコンクリート塊へと崩れ変わり、自分の視界を、空を覆い隠した
(あぁ、これもきっと偶然なんだろう、この世界に必然は存在しないんだから)
――――また、音が聞こえる。何なんだ喧しい、幾重にも重なった群衆の声は雑音に、騒音に姿を変え意味も無く自分の脳を揺らした
たとえ机の上に偉そうに書かれた理論の上では100%だとしても、現実では偶然生まれた想定外の不確定要素に振り回され、引きずり回され、引き千切れるのだ。もし仮に万が一、不確定要素が現れ無かったともしてもそれこそ「偶然生まれなかった」だけに過ぎない
―――――――そして、音が響く。今の今まで聞こえていた音とは違う小さい小さい、渇いた音。脳がそれを認識するのが合図だったかのように、自分の視界が不愉快なまでに鮮やかな赤に染まり、音が途切れた
結局はそんなものなのだ。理由も価値もありはしない。唯々、得体の知れない偶然によって世界は廻る―――
――――だとすれば今しがた、数多の悲鳴と共に自分を染めた血も世界を廻すために必要なものだったのだろう
『偶然頼りで、悪趣味な演出』
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50年前か、100年前か、1000年前か。あるいはそれより遥か昔から、人間が文化を得る以前からなのか―――具体的にいつ、というのは分からないが、少なくとも自分が生まれるより前からこの世界には何やら摩訶不思議な面白手品が存在している
最も魔法、超能力、呪術、外法……etc.etc――多種多様な呼び名こそ人々の間に流通したがそれらの存在を本気で信じる人間、ましてそれらを扱える人間は極々一部に過ぎない
だがその極々一部、つまり『それ』を扱える人間には何故か、自分―「咲間逆」も含まれていた
全ての全て、自分を形作るが平凡。そして逆自身、平凡であることを悪しからず思っていた。そんな逆にとって大それた『手品』の力は無用の長物でしか無い。自分という存在を平凡に『偽造』する手間が増えただけである
今まで普通の家庭に生まれ、普通に学校に通い、普通に友人を作ってきた。そんな平凡を享受するために、自分の身に宿った異常な力を仕舞い込んできた。そんな彼は今―――
――――自殺志願者を引き留めるという異常事態に立ち会っていた
「き、君!そんな馬鹿な事は止めなさい!」
今どきドラマでも見かけないようなありきたり極まる常套句を誰かが大声で口にした
「うるせぇぇ!!!そうだよ!馬鹿だよ!馬鹿じゃなきゃこんな事になってねぇ!」
―――なるほど、ありきたりもありきたり。そう簡単に退かないのも定番と言った所だろう
うん、とりあえず現状を説明しよう。現時刻は午前10時、場所は日本の某都市部、の中でも比較的に人の多い街のある一角。その一角に無数に建ち並ぶビル群の内の1つ、そこの最上階では一人の若者が飛び降り自殺を絶賛遂行中である。
そしてそのビルを取り囲むようにしてできた人の群れが若者に対して
「そんなことは止めなさい!」
だの
「自殺しても何も変わらないぞ!」
とか
「お袋さんは泣いてるぞ!」
等とお決まりの台詞をわめき散らしているわけである
「死んだってあの世は無いよー」
周囲に合わせてとりあえず自分も似たような事を言ってみた、があまりにもつまらない。かと言ってそのままここを立ち去るのはあまり一般的な振る舞いでは無いかもしれない、そう判断した逆はもうしばらくこの退屈な三文芝居を眺めている事にした
「君が死んだら悲しむ人がいるはずだ!」
逆が考え事をしている間なおも群衆は声をあげ続けていたらしい。事態は好転する気配すら無いというのによく飽きないものである。というよりビルの屋上階にいる人間に道具も使わずに、それも大勢の人間がそれぞれ違う言葉で同時に呼び掛けた所で聞きとれているかどうかは怪しいと言わざるを得ない
いや、これだけの大騒ぎ、しかも都心であるにも関わらずいつまで経っても警察が来ない辺り誰も連絡していない、もしくは今になってしたばかりなのだろう。そういう意味では群衆の呼び掛けも派手なだけのパフォーマンスだと見るべきなのだろうか
「老若男女、どいつもこいつも考えることは同じなのかね」
お前等は量産型かよ、心の中で密かに毒づいた。最もこの騒ぎの中であれば余程の大声でもない限りは口に出しても気付かれることは無かっただろう
周りを見渡す。目には入るのは人間の群れと高層建築物、そしてその隙間からわずかに見える嫌みなまでに蒼い空。これだけである
耳を澄ませてみる。耳には入るのは群衆の放つ雑音。これだけである。
ありきたり―――と言うか手抜きだな。そう認識を改めた。どんなシチュエーションでも変わることのない使い回しの背景とBGM、これが手抜きでなければ何だと言うのだろうか?
無くても同じな産廃、使っても使わなくても周りは平温。身振り手振りを周囲に合わせて変えるだけでやっていることは、考えていることはいつもと何ら変わらない
―――平穏が良い、と言ったつもりなんだけど
―――どんな異常事態でも平温なのは平凡でも平穏でもないでしょ
大きく溜め息をついた。周りでは相も変わらず群衆が同じ事を同じ対象に吐き続けている
「キモい、つまらない」
そう小さく呟いた逆は踵を返してその場を立ち去ろうとした。群れもだいぶ数を増してきた、自分一人が立ち去ったくらいでは誰も気付きはしないだろう。そうして一歩、その場から離れたその時
「え、あぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁあ!!!」
群れが騒ぎ出した。なんだ、とうとう飛び降りたのかな。そう思って振り返った逆の目に映ったら光景は―――――
砕けながら、崩れながらコンクリート塊へ姿を変えていくビルだった
群衆が何が起こったかを理解するより早く、ビルだったコンクリート塊はその場に居た人間の内約半分を飲み込んだ
コンクリートが血飛沫を舞い上げる
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ あぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁあ!!!!!!」
ようやく目の前の事態を脳が認識し始めたらしい、血飛沫が合図となったように、人の群れが鳴き始めた
そんな中、逆はその「不自然極まる」崩落を、スローモーションのように舞う血を、そして自分に降りかかるコンクリートを冷静に、そして訝しげに見つめていた
――あの崩落でよく血飛沫の舞う隙間があったな―――
―――後コンクリート塊でかいな―――
――これも全部偶然かな、それにしては不自然だけど。本当――
『偶然頼りで、悪趣味な演出』
自分の視界が赤く染まり、再び人が騒ぎ出す。騒ぐばかりの群衆の声は逆には届かず、また群衆の中には彼の呟いた言葉を聞いた物は居なかった――
「つまらないよ、それ」
彼は再び目を開けた
はい、なんかごちゃごちゃしててよく分からないですね。改善点が増えました←
凪波の方も忘れてないですよ!ちゃんとやりますよ!