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トリップ人材の墓場へようこそ!

設定が不安すぎて短編にしました。ご興味頂けたら連載にしようと思います。



 さて、初っぱなからで申し訳がないのですがお尋ねしたい。


 仮にあなたが女性だとして、見目麗しい男性達に傅かれ、蝶よ花よと褒めそやされ、折に触れては甘い睦言を囁かれ、あまつさえ上げ膳据え膳の大盤振る舞い。

 どんなに世をひねた女性であっても、夢見る夢子ちゃん真っ盛りの思春期の只中でそんな扱いをされたとして、果たして貴女は揺らがないと断言できるだろうか。



 ちなみに私はばっちり転がされました。そりゃもう、もうゴロッゴロに。



 付け加えると、右も左どころか文字すらよく分からない異世界に放り出された先での話です。


 知らない世界。知らない空気。見たこともない生物が跋扈し、家族どころか知り合いすら存在しない、正真正銘の異境の場所。

 突然そんなところに放り出され、不安と孤独に苛まれる中、眉目秀麗を絵に描いたような男性たちが甲斐甲斐しく私を慰め、癒し、導き、時には優しく叱咤してくれるのだ。


 そりゃ懐く。雛の刷り込みだってびっくりだ。恋心だって抱いたりしても不思議じゃない。



 煽てられ、一大奮起した私は異界の地で『巫女』として役目をまっとうすべく日々を懸命に過ごしていく内、常に私を見守り、支え、励ましてくれた男性に淡い恋心を抱き――



 そいつに簀巻きにされて海に投棄されました。



 どうして!こうなった!


 いや、先にネタバレすると私の出荷先たる異世界での『巫女』っていうのは、『神のご機嫌伺いに定期的に捧げないとならない犠牲者』の総称だったのだ。

 ついでに、私がちょっぴり好意を抱いたのは私を招喚しくさった野郎である。


 そりゃ自分の家族がそんな生贄候補で、自分になんとかできるかもしれない力があったら試すよね。私でもそうする。

 誰だって家族が大事だ。できればそんなクソ重たい役目なんか他人に任せて安全圏に退避したい。


 当たり前だ。納得する。共感だって大いにしよう。


 ついでに周りの態度にだって理解は及ぶ。せっかく釣れた魚が、使用用途の前に逃げられでもしてはたまらない。なんせ国家存亡が掛かっているのだ。全力で『おもてなし』するに決まっている。たとえ相手が小娘だとしてもだ。



 でも一生許さない。



 日本人の底意地の悪さと粘着質を舐めるなよ。七生先まで恨んでやる。


 簀巻きにされ、不法投棄され、肺腑から全ての空気が抜け落ち全身から熱の逃げる嫌な感覚と共に――私は学習した。


 悪銭身につかず。


 素晴らしい言葉である。


 降って湧いたような幸運なんて、来るべき不幸への前振りなのだ。前座で、助走である。


 長ければ長いほど、高ければ高いほど、それだけ激しく落ちるのだ。



 だから――



「俺にはお前しかいないんだよ。お前じゃなきゃイヤだ。一緒にいてくれ、頼むから……!」



 都合三回ほど世界を救ってきた元救国の勇者が、死んだ魚めいた瞳を潤ませながらどんなに哀願しようとも。



「あのね、ボクは君を大事にする。大事にしたい。ボクの恋も、ボクも、ぜーんぶあげる」



 元魔法少女の男の娘が、星屑を振りまくように囁いても。



「お前くらい面倒で根性曲がってて生き汚いろくでなし、俺くらいしか務まんねぇだろうがいい加減にしろ!」



 元スーツアクターが情熱を込めて血気盛んに吼えたとしても。



「どんなことになっても、お前の頭蓋だけはかち割らないから安心しろ」



 元必殺系仕事人が堂々と世迷い言としか思えない宣言をしてきても。




「騙されんぞおおお!!」




 私は男の好意など信じない。

 だって信じたら死ぬ。絶対あとで殺される。上げて落とす作戦だ。そうに決まってる。世の中クソだ。



「信じたら終わりだ人生の。間違いない。私の勘がそう言っている」


「まぁ終わるっちゃ終わるかもねぇ」


「ほらやっぱり!それみたことか!」



 ギャン泣きして机に突っ伏す私の頭を友人がなでなでしてくれる。私の癒しは彼女だけだ。マジ天使。



「でもさ、このまま誰のルートにも入らないともっとまずいことになるかもよ~?」


「?私のルートなんて私しか知らないじゃん。てか私にも分からんけど、とりあえず覇道を極めたい」


「武将みたいなこと言うのね」



 最後に頭を軽く叩かれ、のろのろと顔を上げれば、頬杖をついた親友はにっこりと極上の笑顔を見せる。



「ま、ま、変人なんて腐るほどいるんだからもうちょいなんか頑張ってみれば?」


「なんか?」


「そ。選び放題だし、そしたら思わぬ隠し玉が出てくるかもだし?」



 その意味ありげな微笑みに、私は首を傾げるしかない。

 彼女は謳うように蕩々と語る。



「元某国の魔法使い。継ぎ接ぎの人工生命体。元貴族お抱えの死霊使いに殺人鬼。ほら、よりどりみどりじゃない」


「まぁ、クラスの半分は世界救ってるしね……」



 現状に満足しているかと言われればそんなこともないんだけど。世界はままならない。

 この場所について述べるならば、次に発した親友の言葉が最も的確である。



「トリップ人材の終着駅。誰が考えたか知らないけど、上手い言い回しだと思うわ」



 どっちかというと、墓場といった方がしっくりくる気がする。



「つっても、全員が全員じゃないけどね」



 曖昧に頷けば、始業開始のチャイムが鳴った。


 拾った命を大事にするため、私は今日も石橋を叩きまくって生き延びるのだ。





御拝読ありがとうございました!

軽い説明を致しますと、主人公達のいるところは何らかの理由で『移動』に失敗した人が行き着かされる場所です。一応諸々の理由により学園の体裁。どうにも不安があったので、短編での投稿にしました。もうちょっと固まったら連載にしたいです。

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