表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィブリオ  作者: 白影
6/8

4冊目「ソワン」

珍しい騒がしさ。

彼らに久しぶりの「客」がきていた。


4冊目「ソワン」


「いやぁ、悪いな」

「構わん、どうせ働くのは彼奴だからな」

仄暗い空間に映える緑髪、久しぶりに来た真面な客は、梯子に登り本を探すルツを見て苦笑いしていた。

「いや、彼奴、お前の兄弟か何かだろう?」

「…奴隷だ」

確かこいつの名は「フォル」といったか?、彼はそれからしばらく沈黙してしまった。


フォルに頼まれたのは、治癒学の本。

どうも即効で治癒術を使うには(以下略)とかのようで、イマイチ理解できなかったが、今までの方法だと発動に時間がかかるらしく、重傷者の場合 発動する前に手遅れになる…と言っていた。

「まぁ、既に出版された本にそんなこと、載ってるとは思ってないんだけどな」

彼は虚空を見つめ、何かを追憶しながらそう呟いた。


「足掻くのか?、どうせ無理なものを」

想像より冷たい声、内心 自分でも驚いてしまう。

フォルは少し困ったような表情をして、数分の沈黙の後に答えた。

「なんだ?、絶望は経験済みって言い方だな」

口調こそ軽いものの、フォルの表情は暗く重い。

「……これ以上聞くな」

過去を思い出しかけて…、催促を拒絶する。

フォルも理解したようで、これ以上は聞いてこなかったが、代わりに自分の過去を話し出した。


「親友を……失ったんだ」

苦しさを吐き出すように紡ぐ言葉、普段なら人の話など聞く耳を持たない俺ですら、フォルの話に聞き入っていた。

「シオンっていうんだ、冷たい性格でな、俺のこと嫌ってたな」

「とは言っても実際はそこまで悪い関係じゃないんだけどな、ほら いわゆるツンデレってやつだ」

微かに微笑むが、やはり表情は暗い。

「……で、2年前ぐらいにさ、殺されたんだよ」

「…誰に?」

問い、そして少し後悔する。

フォルの表情を見て察する、その顔からは先程の僅かな笑みすら消えていた。


暫くの沈黙の後に不意に答えた名前、それは聞き覚えのある名前だった。

「……イリスっていう奴だ」

思考が一瞬停止する、少ししてから鈍い音が聞こえ、それがルツが本を落としたからだと気付くのに、数秒かかった。

「どういう…こと?」

ルツの問いにフォルは少し驚き、何処か虚空を眺めた後、逆に問いかける。

「彼奴のこと、どこまで知ってるんだ?」

「どこまでって……」


ルツが説明している間、俺は1週間前のことを思い出す。

知っているもなにも、俺達の前に彼奴は現れた、意図の分からないことをするために。

そして彼奴は「合格」と言った、それの意味することは分からないままだが、これではっきり分かった事がある。

なんにせよ、彼奴に関わると面倒だと。


フォルは、説明し終わったルツを暫く見つめ、そしてシンプルに答えた。

「彼奴には、これ以上関わるな」

「言われなくてもそうするつもりだ」

だが、と続けて言う。

「彼奴からここに来るなら、どうしようも無いが…」

俺達がいくら拒んでいようと彼奴には関係無い、前回でもそうだった。

「そうか……」

そう呟いたフォルの表情は、思っていたより暗く、助けられないことを悔やむような、そんな表情だった。



それから数時間経ったが、結局 本は見つからなかった。

「すみません、結構探したんですが…」

「いや、普通にあるじゃないか…」

そう答えるフォルの手には、8冊ほどの治癒学の本。

ただ、治癒術を即効で使う方法は見つからず、ルツはそれを悔やんでいた。

「いいんだよ、俺が頼んだのは治癒学の本だから、…後は俺が探すつもりだったし」

不意にこちらを向き、そういえば と切り出すフォル。

「ヴァイスって、何処かシオンに似てるんだよなぁ…ほら、冷たいところとか」

俺と同じほど冷たい奴がいるのか、それは是非とも会いたくないものだ。

こう口に出そうとして、やめる。

最も、シオンは既に死んでいるんだった と。


「本を探してもらって、お礼の一つもないっていうのもあれだし…俺の住所でも教えようか?」

「何でそうなる」

別に迷惑でもないが、お礼に住所を教えるという発想が分からん、大丈夫かこいつ。

「何かあったら助けてやるってことだ、こう見えて上級魔術までなら使えるだぞ?」

上級魔術が使える、なるほど確かに相当の実力者だ。

その言葉に嘘がなければの話しだが、住所を教えるぐらいだ、嘘ではないと思う。



扉が閉まる音。

住所を教え終わると、フォルはすぐに帰って行った。

「住所を教えてもらったはいいが…随分遠いな」

いつもの静寂の中、俺達はフォルに教えられた住所を確かめていた。

ヴィブリオがあるこの街アガット、そこから北西にある隣国クリゾリート、さらに北に北に何国か先やっとたどり着くのが、フォルの住んでいる王都リュミエール。

「フォルさん、どうやって来たんだろう?」

「上級魔術が使えると言っていたから、転移魔術でも使ったのか、あるいは…」

「いや、この距離歩くのはとてもじゃないけど無理だよ、普段歩かないヴァイスには分からないだろうけど」

となると転移魔術が有力説か、そもそも そんな事には興味ないが。



[次の日]



記録帳を開き、昨日借りられた本の欄にチェックを付ける。

貸し出し期間は1ヶ月、8冊の本を16日かけて読むとして、のこり15日。

やはり転移魔術で来たんだろうな と推測を立て、いつもの作業に戻る。
































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ