可笑しいマトリョシカ
世界はどう足掻いても出ていけない。
地球からは出れないのかな。いや、宇宙に行けばこれは出て行ったなんて言えるのか?
でも、宇宙には一握りの特別な人しか行けないではないか。
つまり___
「それは無理っていうことかな」
ふらりと私の前に立つ男に目を向ける。そいつは笑って可笑しいねと言いながら私の耳元に囁いた。
「世界に別れを告げてどうするの。君を知る人なんて数えられる程の人数だろう?」
そんなこと知ってる
「なんてくだらない事なんだろうね、目的もないまま君はこの世界から出ていきたいんだ」
否定も肯定もしない。思っただけ。思うだけなら自由だから、そう思うだけ生きているから
「君が出ていきたいのなら私は手を貸そう。そう、異世界に行ってみればいい。簡単なことさ」
簡単…
「そうだよ。かっこよく英語で数を数えようか?」
流暢な英語で男は数を数え始めた。男は「まぁ、異世界に行くときはかっこつけて送り出したいとか思うんだよね」と、よくわからないが言っていた。
目線を上げると男がこちらを見て笑った。
「世界から出たとき君はどう感じるのかねぇ、面白いことはどんなことでも好きだよ。たまらない。」
その顔は甘く、歪んでいた。
「じゃあ、さようなら。地球から出ることを望んだ、可笑しなマトリョシカさん」
可笑しなマトリョシカ?…変なの
___ぷつん…
“面白いなぁ…本当に面白い また流れ着いたよ”
カフスをそろそろはめ直さないと…クスクス…
握られていたのは鈍色のカフス。また一つ着けられた