2
―2012年(現代)―
「ヒカリは強い女性だよな、俺もこんな子を恋人に欲しいよ…はぁ」。
ため息をつくと、主人公が活躍するハイライトシーンを書き終え、テーブルのコーヒーを一口飲んだ。
「よ~し、出来た!!」。
たった2日間で書き上げた小説が完成した。
この物語は、今まで書いた自分の作品の中で一番いい出来だ。ネットにアクセスして、小説をアップロードすると、どこかの有名作家のようにタバコを一本吸って体を反らせた。
俺のペンネームは アオノリ
インターネットのホームページで自分が書いた短編小説を載せている。もうかれこれ20作品が公開されたが、反応は・・いまいちだ。やっぱ俺には文才がないのだろうか・・・。
主にSF的要素の漂う作品を書いているが、自分にとってはそれが一番書きやすいからだ。SF小説は、ほぼ自分の想像の世界が常識になるから、学が無い俺には、難しい事考える手間が省けて助かる。
今書き上げた小説も、SFだ。内容はというと…
時は2013年、コンピューターが作る本物そっくりの仮想現実の装置、
―ブレインコントロール―
が世界で流行し、人々は自分の理想とするその世界に入り込み、様々な欲望をみたしていく。しかし一方で、そのリアルな仮想現実から戻って来なくなってしまう者が数多く現れ、そのためにブレインコントロールに入る入り口、ブラックボックスが世界中に存在し、人々はその入り口に気付かず、地球全体が仮想と現実が入り交じった世界になってしまう。そんな世界を取り締まるブレインマスターという組織で働く主人公がヒカリという女性。
ヒカリは、ボーイッシュで男勝りだが、やはり根は女の子。時折弱さや女らしさも見せる。芸能人で言うと・・・誰だろう似た人がいないなー。
「俺、不思議とこの子の姿しっかり頭にあるんだよなー、まるでどこかで会ったことあるように・・・いや、きっとモデルとなる女性がいるのだけど、それが誰なのか思い出せないんだよなー」。
ま、そんな彼女のかっこいい生き様を描いたストーリー。この物語のヒントはアメリカの昔のテレビドラマ「スタートレック」からヒントをもらった。あのドラマ、俺は好きだ。物語がとても良く出来ていて、様々な未来の出来事も科学のデータに基づき、まるっきり不可能ではないように描かれている。近い未来、きっと起こりそうな物語に作り上げているのだ。大変勉強になる。
「すいません、注文お願いします」。
俺はウエイトレスに声を掛け、コーヒーを頼んだ。テーブルいっぱいにノートパソコンと資料を置き、コーヒー2杯で3時間も座っている俺に店員は良い顔はしない。彼女は黙ってコーヒーをテーブルに置くと、早く帰れ!と言わんばかりに会計表を引ったくって奥に去っていった。
時計を見ると午前5時を回っている、もう始発は走っている。
「これ飲んだら帰るとするか」。
俺は早々とコーヒーを飲み干し、喫茶店を後にした。
…そして一週間後…
最近、バイトから帰って来てメールを見るのが楽しみになってしまった。毎日数十通ものメールが届いているからだ。その内容は、先週ホームぺージに乗せた“ブレインマスター”が大好評で、それを見てくれた人からの「面白かった!」や、「がんばって下さい!」などの励ましのメールだった。
「やっぱ、俺って文才あるのだろうか?」。
そんな事思っていると、一通、気にかかるメールが目に止まった。
「この小説って本になっていたのですね。私、早速この本買いました」
そう書いてあった。
「本を出した?」。
俺は本を出した憶えは無かった。
俺はすぐに本屋に走った。街の適当な本屋に入り、探す事5分で俺の本が見つかった。
「ブレインマスター…」。
題も、内容も、全くのコピーだ。そして本の表紙には、作者アオノリとまで書いてある。表紙を一枚めくると、写真は無いが作者の、つまり俺のプロフィールもあり、そこには適当な、しかし何となく当たっている自分の事が記載されてあった。
「どういう事だ」。
俺はこの本に複雑な心境になった。もちろん、俺に黙って本を作るなんて腹立たしいにも程があるが、自分が夢にまで見た処女作が全国的に本屋に置かれている。この現実を目の前にして嬉しく無いわけがない。複雑な心境である。とりあえず最後のページをめくり、出版した会社を見た。
「PSC出版か…」。
聞いたことがない会社だが、これだけ立派な本を全国的に置けるような会社だからそれなりの資本力はあるはずだ。とにかく電話して、事情を聞き出すことにする。この会社は東京、新宿にあるらしい。
「はい、PSC出版です」。
受け付けだろうか、色っぽい女性の声が聞こえた。
「もしもし、私、貴社の出版したブレインマスターの本の事でお話したい事があるのですが、担当者の方はおられますか?」。
「どういったご用件でしょうか?」。
「私は、ブレインマスターを書いたアオノリという者ですが…」。
とりあえず、そう答える事にした。
「はい、少々お待ち下さい」。
少し慌ただしい口調になったようにも感じたが、まんざら気のせいでもないだろう。受話器からは、“エリーゼのために”の電子音が響いている。一分くらい経って、そのメロディーは止んだ。
「お待たせしました、あなたがアオノリさんですか?」。
突然そう言ってきた、まるで俺の電話を待っていたかのようだ。実際にそうかもしれない。
「勝手に本を出版してしまって申し訳ありません、インターネットのホームページ上ではそちらの連絡先など、全くわからなかったものですから…」。
電話の声は少しぎこちない。何か違和感のある声だった。
「そうですか、しかし、メールを投書する所も設けていましたし、何らかの連絡を下されば…」。
「申し訳ありません、失礼ですが、あなたの本名と、生年月日、教えていただけないでしょうか」
さっきから何かと無機質な質問を繰り返し、答え急かしている。それ重要なことじゃないだろう。
「それよりも貴社に私からお伺いしますよ」。
「ええ、それはありがとうございます、その前に名前と生年月日を教えて下さい」。
名前は分かるが、生年月日をどうしてそんなに知りたいのだろうか?
「私の名前は、青木隆です。生年月日は…」。
あまり若くするとなめられるかも知れないな…10歳ほどさばを読んだ。
「昭和40年10月24日です」。
そう答えた瞬間、突然電話が切れた。
「おかしいな、切れちまったよ」。
再度電話をかけてみる。
「この電話番号は現在使われておりません、番号を…」。
間違った、再度かけなおす。
「この電話番号は現在使われておりません…」。
「は?…」。
どういう事だ。さっき電話をかけた場所に、もうつながらない。何度かけても同じだった。
「どういうことだろう」
しばらく考えたが、この状況がどういう事か解らない。とりあえず、この会社に行ってみることにする。
「新宿区、北大久保8丁目14番地…」。
おかしい。電話帳を調べたが、やはりそうだ。北大久保は6町目までしか無い。この住所は架空のものだ。とすると、このPSC出版も架空の会社だろう。俺は騙されていた。しかし、どうしたらいいのか解らない。
新宿の本屋でも俺の本は売れていた。そしてどの本屋へ行っても、ブレインマスターはベスト10の中に入っている。いつ出版されたのだろう。ベスト10になるって、俺はこの物語りをインターネットで公開してからまだ数日しか経っていないのに、どういう事だ。
「これ面白いよね、でも誰が書いたか良く分からないんだって、それにこの作者、テレビとか雑誌なんかの取材にも応じないみたいだし」。
本の前で高校生が立ち話している。
そりゃそうだよな、出たくても出られないよ、俺は出たいけど…。
俺はいつもの喫茶店で作戦を練るように、考え込んでいた。しかし、どうにもならない。俺の職業が探偵だったらどうにかなるだろうけど。探偵に依頼を申し込むなんて金もないし、でもいったい捜査料はいくらくらいなのだろう…。俺が調べるにしても、暇は多少あるのだけどな、技術がないよなー、聞き込みとかやったことないしな…。
「あの、何になさいます?」。
店員が知らない間に俺の横にいた。
「あ、すいません、アイスコーヒーひとつ」。
無言で水と、お絞りを置くと、店員は去っていった。注文の内容はともかく、常連さんだというのに相変わらず横柄な態度だ。まあ、コーヒーひとつで長く居ても「出て行け」と言われないだけましか。
「…次のニュースです、東京都、板橋区在住の会社員、青木隆さん47歳が、今日昼過ぎ、自宅近くの道路脇で、頭を打って死亡しているのがみつかりました、警察の調べによると、隆さんは、ひき逃げにあったものと思われ、今後、詳しく調査を行うとともに、ひき逃げした車両の特定と…」
「青木隆?俺と同じ名前だ…」。
テレビから自分の名前が出ると、ドキッとするものだ。俺と、同じ名前の人が交通事故にあって死亡か…。まあ、ごくたまにはあるか。これで年も同じなら両親や知人が見たらびっくりするだろうな。47歳か…。40年か、41年生まれだな…。まてよ、あの時、電話で生年月日を聞かれて40年10月24日と答えたけど…。まさか、まさかな、火曜サスペンスじゃあるまいし…。俺を殺そうとして、この人が殺された…ってそんな内容は、確か映画であったなー、ターミネーターだったっけ・・・。
小説を書くような人間だから、こんなふうに考えるのは得意だった。いわゆる考えすぎというやつだ。しかし、あんな事があった後だけに、少し気になる。警察に電話して、ひき逃げに遭ったその人の誕生日を聞くくらい、訳ないかもしれない。電話して知り合いと名乗って、誕生日を聞き出し、
「ああ、この人の誕生日は1月1日だよ」
そう言われれば、この胸のモヤモヤは取れる。
俺は新宿警察署に電話を入れてみた。
「はい、新宿警察署です」。
受け付けの女性の声がした。
「あ、すいません、先ほどニュースを見たのですが、青木隆さんがひき逃げされたという事故の件です」。
「はい、どうなさいましたか?」。
「友達に同性同名の者がおりまして、確認を取りたいと思っているのですが、担当の方は…」。
「少々お待ちください」。
「タラタラタララララ…」。
ここのオルゴールも エリーゼのために だった。やはり無難な名曲はどこも使いたがる。
オルゴールを2周ほど聞いて、男の声がした。
「はい、交通課です」。
「あの、青木隆さんの件で伺いたいのですが、友達で同性同名の者がおりまして、確認をとりたいのですが、彼の誕生日でいいのですけど、教えていただきたいのですが…」
「誕生日、お宅の知り合いの人はいつなの?」
「はあ、10月24日なんですけどね、人違いですよね?」
俺はそう答えると、しまった!と思った。もしそうだったら不審に思われるかも知れない。
「あ、この人も10月24日なんだけど、もしかしてお知り合いの方かもしれないね…、君、ちょっとお話聞きたいのだけど、今何処にいるの?」。
「え、いや、いいです、分かりました、すいません」。
電話を慌てて切ると、胸は張り裂けそうに脈打っていた。
「俺と同じ誕生日だ、それよりも、ちょっとまずかったな」。
そう言えば、ひき逃げの犯人はまだ捕まっていないのだ。俺のこんな電話に警察が疑問を感じない訳がない。事実、警察の態度は、少し変だった。
「俺と同じ名前で、誕生日も同じか…偶然だろうか・・・」。
電話ボックスを出て、しばらく考え込んだ。偶然だろうか?それとも、俺は狙われているのだろうか?だとしたら、あの出版社に違いないだろう。さて、どうしたらいいのか…。しばらくすると、パトカーが3台、電話ボックスに向かって走って行った。
「逆探知されてたんだ」。
しかし、数分しか時間が経ってないのに、もう警察が反応している。ずいぶん厳重な警備体制をしいているように思われる。
「いったいどういうことだ?」。
電話ボックスは、すぐに鑑識の囲いが作られ、立ち入り禁止にされていた。受話器についた指紋も調べられるだろう。俺は何気なく確認しながら、その場を足早に去った。普通に生活していたら、俺が捕まってしまうのも、時間の問題だ。だが、警察が俺に容疑をかけているのが、ひき逃げの件だけだったら、警察に行って事情を説明すれば問題は無い。しかしもし、PSC出版が絡んでいたら…。もし、PSC出版を名乗る組織が、とてつもない大きな組織で、警察とグルになっていたとしたら…。考えすぎだろうか?考えすぎだろうな…。しかし、現に何もしていない俺が警察に追われる羽目になろうとしている。ただ事じゃない事は確かだ。考えれば考えるほど頭が混乱してくる。
一体どうしたらいいのだろう….
とにかくその日は急いで家に戻り、必要なものを持ってすぐ家を出ようと考えた。
「俺のアパートの周り・・・まだ異常はないようだな」。
注意して自分のアパートまで来てみたが、なんら変わった様子はない。
部屋に入ると、荒らされている形跡もなかった。まだ見えざる敵はここを突き止めていないようだ。
「歯ブラシと下着と、銀行の通帳…、あとは何を持っていけば…」。
ふと机の上を見ると、自分が書いたものでない、何かメモ書きのようなものが置かれてあった。
{歌舞伎町のトールコーヒー、2階の窓側席の一番右に座っているから、とにかく来て}。
メモにはそう書かれてあった。
「どういうこと?」。
このメモがいつ置かれたかは分からない。しかし、心当たりのないメモが机の上にあるということは、勝手に誰かがこの部屋に侵入したということだ。
「ち、ちょっと、いったい誰が…」。
このメモの書き方は友達みたいな書き方だが…。
全く心当たりは無かった。友達がいないわけではないが・・・いや、友達という友達は彼にはいなかった。
そしてこのメモの書き方もおかしい。
この人はトールコーヒーにいつから座って待っているのだろうか?訳がわからないが、タカシはとにかくそのメモをポケットに押し込んで家を出た。
新宿のよく行く場所でもあった。それを知っているということは、やはり知り合いだろうか。
指定された喫茶店が近づいてきた。何かの罠かもしれない。だいたいあのメモは、カギのかかった俺の部屋に侵入した奴が置いていったものだ。普通じゃあない。それに、時間も指定しないで、喫茶店で待っているって…?じゃ、その人はいつ来るかも分からない俺を待って、ずっとそこに座っているのか?
「じゃ、早く行かないと悪いな…」。
って、そういう問題でもない。
そしてもし、その人物にあったとしても、自分には映画のワンシーンのように格好良く相手を問いただすことも・・・出来ないだろう。しかし、とりあえずそこに行き、様子を伺うしかない。
待ち合わせの喫茶店は、すぐにみつかった。
「アイスコーヒー1つ」。
カウンターでコーヒーを受け取って、2階へ向かった。
「2階の一番右の席か…」。
二階に上った所で目的の席を見ると、一人の女性が座っていた。店内は人で一杯だったが、彼女の隣の席は彼女のだろうか、ちいさ目のリュックが置かれ、空けてある。
「彼女かな…?」。
すると彼女は時計を見るような素振りをして、それから振り返り、部屋の隅にいる俺の方を見た。まるで、俺が今来る事を分かっていたように、こっちを見て少し微笑んでいる。初対面だというのに。
やっぱり罠か…?とりあえずどうにでもなれ!俺はもうやけくそな気分だった。たとえ罠であったとしても、彼女に話を聞かなければ、この先の進展はないのだ。
俺は勇気を出して彼女のいる方へ近づいた。まるで落とし穴に自分から落ちようとしているような心境だ。
「や、やあ…」。
そう挨拶すると、俺はとりあえず彼女の隣の席に座った。
彼女は無言で窓を見ている。何かを考えているようだった。
「き、君は誰だい?」。
「私は…ヒカリ」。
彼女はそう答えると、突然、俺の持っていたコーヒーを一口飲んで、顔をしかめた。そのコーヒーが、よっぽど口に合わなかったようだ。
「よくこんなもの飲めるわね」。
そう言って、隣にあった氷水を持ち、一口飲むと、気に入ったのか、一気に飲み干してしまった。
「はー、これ、おいしい水、もう一杯持ってきて!」。
「は、はい」。
俺は彼女の言う通り、水を入れに行った。初対面の女性に、自分のコーヒーをいきなり飲まれて、文句を言われた挙句、水持ってきてくれって頼まれ、素直に持ってくる俺って・・・、可愛いな。
って、そんな事じゃない、何かおかしい。
彼女は仲間が来るまで時間稼ぎしているのだろうか?いやまてよ、もう囲まれているかも!!だとしたら早く話を切り出そう!
そう決意しながら、二つのコップに水を注いだ。一つは俺の分だ…。
-2012日本宇宙開発企業団、極秘事業部-通称Fエフ
「極秘で開発してきたブレインコントロールだが、ある男性がその真相を知っていることが分かった。どんな形で情報が漏れたかは分からないが、彼は、何らかの形でブレインコントロールに関する物語をインターネットで発表し、世間にその真相がばれてしまった・・・マスコミはもう感づいているだろう。そして、どうして情報が漏れてしまったのか」。
「私どもも、調査は続行しております。しかし、この計画は、我が研究所以外にライバルはいません、アメリカのウォル・ディズニーも開発に興味を示していますが、こちらの完成を期待しているほどです。この研究所の独壇場の開発になっている今、情報が漏れたことに危惧することはないと思われます。逆に、発表を半年後に控え、宣伝効果に利用できるのではないでしょうか?あくまでも小説の内容という事で世間に公表されたのですから、マスコミをコントロールすれば、問題ないのではないですか?」。
「それもそうだが、インターネットで最初に小説を発表したアオノリという人物、本名は、青木隆、年齢は27歳。この人物を早急に探し出すことが今の我々の仕事だ。ここまで細部に渡って我々の情報を知っている人物ならば、彼は誰かに情報を聞き出す事が出来たか?あるいは、何らかの形で我々のメインコンピューターに侵入し、情報を入手したか、いや、しかし、これは考えられない。コンピューターには浸入の痕跡はないし、外部の回線には繋がれていない。 一番、私が興味を示す仮説は、彼がブレインで、情報を伝達されたという可能性だ」。
この部署の総責任者である川村たけしは、一呼吸おいて続けた。
「つまり、ブレインコントロールは、現在の我々では無理だが、近い将来、情報を過去に伝える事が理論上可能な装置だ。この装置で彼にどういう意味を持って、ブレインコントロールの存在を明かしたのか?この装置がほぼ完成してしまった現在、この装置の世界に与える影響がどういうものなのか?その謎が彼を見つけることで分かるかも知れない…」。
「しかし、そんなSFじみた話は・・・もっと現実的な理由を考えて対処した方が良いのでは?」。
「君はこの研究に携わっていないからそう思うのだよ。この発明は、まさに今までの常識を越えた革命的な発明なのだ!私の言っていることはもう不可能ではないのだよ。現に実験でもこの機械で0.3秒過去にファイルを転送する事に成功している。つまり、その時点で私達の歩む未来が今までの未来とは違うものになったということなのだよ。当然、考えうる常識も今までとは違うのだ!情報が世に知れたことに対してとやかく言う気はない、その理由に興味があるだけだ」。
「わ、わかりました・・・」。
「すでに公安には彼を保護する手続きを要請した。大至急、彼の行方を探してくれ、そして彼に直接会って話しを聞き出さなくてはならない・・・みんな、行ってくれ」。
日本宇宙開発企業団には、研究部門の他に、アメリカのCIAに匹敵するような公にされていない情報収集機関が存在した。所員たちは、おのおの与えられた仕事に取り掛かった。
「君、ミネルバ博士に連絡を取って、この事を報告してくれ」
ーこれは彼が気にしていた事だー
「そして、私の考えすぎだったら、それにこした事はない・・・」。
川村は、灰が長く溜まったタバコを気付いたようにもみ消しながら、そう小さくつぶやいた。