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勇者物語、その後に  作者: 背水 陣
第五章 真なる終焉へ
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エピローグ ~平和な世界~

 世界に平穏が戻ったその日。


 服は汚れて身体も傷だらけだけども、はっきりとした意識のある、世界を二度も救った勇者が祖国オルランに戻った。


 父も母も家臣も国民も両手を挙げて、はち切れんばかりに絶賛し、称えたけれど



 共に出たはずの、王国で選定した聖魔術師の姿がないことに深く深く絶望し、無念の涙を流した。



 その後しばらくは口も利けず、身体も動かない娘を療養させ、落ち着いた頃に凱旋式を行う。



 何か月も後の、大体的な『魔王討伐』の発表。



 二回もそんなことがあるだなんて、国民や世界は理解することに時間はかかったけれど


 ハッキリとした力強い瞳の、『大勇者』の言葉に耳を傾けると次第に確かな真実として納得していった。



 また、これらの言葉や足跡は歴史本としておこされ、伝記が著されると、次なる世代にも伝達される。



 それを全て執り行ったのは、他でもない大勇者当人だった。


 代筆も頼まず、時間はかかるけれど……必ず書き認めたい。教えてあげたい。


 その一心で、一年後には製本は完了した。


 

 一年もの制作時間がかかったのは、別に彼女に文才がなかったからではない。


 執筆期間のうちに、彼女は出産を経験したからである。


 金色よりも薄い茶色の髪の毛、灰色の瞳をもった元気な男の子。

 誰が言わなくても、その父親は理解できていた。


 だからこそ、彼女も涙を流して、壊れてしまうのではないかというほど、赤子を抱きしめて喜んだ。


 『ジン』と名付けられた子は、魔術も武術も秀でた、歴代でも類を見ない最高の人望と高い能力を持つ君臨者として、その後のオルランを背負っていった。




 勇者物語の書籍が売れ、伝説が残るとオルラン王国はますます発展していく。


 全大陸を含めても、揺るがない世界最高峰の王国として後世に続いていくのであった。


 その始まりを作ったのは、もちろん……彼女と……彼のおかげ。


 オルラン王国に住まうすべての民が、同じことをいつまでも口にしていた。




 ――――。


 月日は流れ。


 息子家族や孫娘に囲まれたジャンヌは、ベッドの上でゆっくりと息をしていた。


 段々と弱くなる鼓動と意識を感じながらも、ハッキリと見える。


 今、ここでこうしていることが、やり遂げた世界の末。


 もう出来ることは何もない。満足だ。

 

 自分の、自分たちの全てを伝え。


 父がいなくて寂しい思いをさせた息子も立派に成長し


 それを受け継いだ至高の孫娘を持った。


 歴史が残り、素晴らしい家族を持てた。


 思い残すことは何もない。


 皺だらけの手で、息子と孫娘の頭をゆっくりと撫でると。


 柔らかな笑顔のまま、彼女は静かに息を引き取った。





 最後の最期に、大勇者は息子のジンをじっと見ていた。


 その面影に、最愛の人を重ね合わせたのだろう。


 幸せな表情のまま、事切れる彼女を見送る誰もが、そう思わずにはいられなかった。





 オルラン王国、女王。

 大勇者ジャンヌ・ド・アーク。


 背に負った責務を全て下すことのできた彼女は、その日。



 自分の護った、最高の希望に囲まれて……


 歴史から静かに幕を引いた……。

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