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勇者物語、その後に  作者: 背水 陣
第二章 水の精霊 編
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第十六話 ~水の精霊テティス~

 「兄様、お札がもうありません!」

 「なに? もうなのか!? ジル様! 申し訳ありませんが、裏にある木箱を持ってきてくれませんか!」

 「わかりました!」

 「はい、大事にしてくださいね。ありがとうございましたー!」


 荒れ狂う水の精霊、海神ことテティスを討伐した翌日のことである。疲れ果てた身体を起こすと、渦流家の前に、人だかりが出来ていた。


 「厄除けのお札をくれ!」

 「あぁ、伊織ちゃん。すまねぇ、お守りって売ってるかい?」

 「伊綱様、わたくしに御払いをしていただけませんでしょうか……」

 「お参りって、もう行ってきてもいいのかね?」 


 あんな大災害の後にも関わらず、朝の日課を行うより早く、ミズホの国民たちが彼らの所を訪れていたのだ。

 理由は至って単純だ。海神の怒りに触れたから、人々は災いを被ったと考えている。ここ数十年で、神様への感謝の気持ちが薄れていた自覚は、それなりにあったようだ。今まで必要ともしなかった、魔除けの札や、お守り、参拝を望むようになっている。

 事が起こってから対処に回るなど、常に神を信じていた伊織に顔向け出来ないほど現金な行為だが……それでもきっと、ないよりはマシなのだろう。


 人手が足りず、伊織と伊綱は心苦しい気持ちながらも、ジルとジャンヌに手伝いを頼んだ。乗りかかった船であるし、お世話になった礼が出来るならばと二人は快諾する。結果、楽しくも忙しい一日を過ごすことになってしまったのだった。


 「ところでさ、伊織ちゃん、伊綱さん」


 日が落ちた頃になって、やっと人がはけてくれた。参拝者は相変わらずだが、販売所を閉めるくらいは許されるだろう。神社から渦流家の帰り道で、汗をぬぐいながらジャンヌがふと質問をする。


 「なんでしょうか?」

 「三角島(デルタアイランド)の海底に、神殿とかが存在する話って聞いたことない?」


 海神との戦闘時、海底に叩き落された際に見かけた謎の建物。光を放っていた点も、非常に不可解である。

 更に、建物の形状が神社ではなく、大陸文化の神殿であった。これだけの内容ならば、何か伝説でも伝わっていないものか。


 「シンデン……ですか。伊織、何か聞いたことはあるか?」

 「いえ……ただ、海底に何かがあるということでしたら……」

 「何か知ってるの?」

 「そ、その、不確かなことですけれど……三角島(さんかくじま)の、海域の中心部の底には、海神様が居られるという伝説ならば、伺ったことがあります」


 でも、と伊織は呟き、言葉を止める。それもそうだ。伊織はずっと前から、そんな海底ではなく地表で海神を見て来たのだ。更に、その海神自身だって……。


 「……なるほど。もしかしたら、もしかするかもしれないね」


 何か、推測が立ったジルが口元に鉤状にした指を当てながら言った。


 「どういうことですか?」

 「うん。僕も、気にかかることが一杯あってさ。水の精霊様が、あそこまで不確かな存在なこととか、本当にあれで死滅したのか、とか」

 「でも、あたしは確かに……その、倒しちゃったわよ?」

 「わかってる。あの龍を倒したのは事実だ。でも、僕はあれが本当に水の精霊だったのか確証が持てない」

 「あのお姿も、お声も、わたしが大滝(おおだる)の儀式でお聞きしていたものと間違いはございません。本物の、水の精霊海神様であったはずです」

 「そうだね。多分、本物は本物で間違ってないと思うんだ。……ただ」

 「ただ?」

 「実体だった、とは思えないんだ」

 「??」


 ジル以外の三人は、首を傾げたり腕を組んだり、それぞれ動作の違いはあれど、皆が疑問符を頭に浮かべている。実際、ジル自身もまだ完全な理解には至ってはいないが、情報を使っての考察から導いた、その答えを言ってみることにした。


 「つまりは、あれは水の精霊様の思念体だったんじゃないか、って考えたんだよ」


 ――――――――。


 その次の日である。忙しさはまだ残っているものの、連日手伝いで日にちを潰しては申し訳ない。そう伊綱に言われた。

 せっかくの(いとま)なので、ジルとジャンヌは気になる水の精霊の実態を調べに行くことにした。少しの知識を備えており、海神との関係性も深い伊織も連れて。


 「本当に、あれは海神様ではないのでしょうか……?」


 心配そうに伊織が、小舟の中心でオールを漕いでいるジルに尋ねる。じんわりと帯びた汗をぬぐいながら、視線を後方に向けたまま答えた。

 ちなみに、この船は他の島の人が置いていったものだ。今後、この島は人が増えてくる。もっと交通の便を良くしなければいけない、という判断からだった。至急、与えられたものなので、今はお粗末なものだが、後日もっと良い船が停泊するそうだ。


 「あくまで、推測だからね。そういった契約を結べる秘術はあるし、無理な話ではないんだけど」

 「じゃあ、別に倒すことは、死滅させることとは違う、ってことで良いのかしら?」


 揺れる船の後方で、今度はジャンヌが問う。海神を止める唯一の方法だったとはいえ、水の精霊を倒してしまったという罪悪感は、少なからず彼女にもあった。


 また、精霊というのは、世界のパワーバランスを守ってくれていると言われている。

 例えば風の精霊ヴァーユは、あの谷を守りつつ微量ながらも、実は風の結界で大陸全土を守っているのだ。人間を守るため、もちろん自分たちも守るために。大陸全てを覆うのは非常に労力を要するので、完全に進行を止めることは叶わずとも、居ると居ないのでは歴然とした差が出てしまうそうだ。


 水の精霊の場合は、この隔離された三角島(デルタアイランド)一帯を守ってくれていたのだろう。


 人ならざる彼女らが、人を守るのは理由がある。魔族に対抗できる種族というのが、人間だからだ。公にはなっていなくとも、必ずどこかしらで共存関係を築いているものなのである。


 「そうだね。死にはしないと思う。ただ、何かしら本体に影響は出てしまうはずなんだ」


 それが何かまでは、ジルもわからない。何を、どんな契約であの思念体を顕現していたかで、そのリスクなども違ってくるからだ。何か、身体に障ることでなければいいのだけれど。ジルは、仮定の話と理解しつつも、心配してしまっていた。


 「あ、この辺りだったはずよ」


 ちょうど三つの島が、ほとんど同じ大きさに見える場所。地図でいえば、三角形の中点の位置である。


 「あの、どのようにして海底へ……?」


 当然の質問を伊織が投げかける。陸から離れた海域では、足はつかないのは当たり前として、潜るにしても相当な技術と肺活量が居るだろう。水圧の問題もある。済んだ美しい蒼色の海であっても、底を見透かすことはできない。


 「ま、見てて」


 得意げにジャンヌが笑うと、(おもむろ)に立ち上がった。そして、不安定な船底を軽く蹴り飛ばし、海面へ飛び込んだ。

 ――――様に見えた。しかし、着水の瞬間にジャンヌは風魔軽鎧(ヴァルハラ)を発現させたのだ。風の護りが、優しく身体を包み込み、水面に立つという不可能を可能にさせる。

 その奇怪な行動に、寿命を縮められた伊織は胸をなで下ろす。隣では、ジャンヌも意地が悪いことをするものだ、とジルが困ったように笑っていた。


 「風魔軽鎧(ヴァルハラ)の結界を強くすれば、水の中にも入れるわ。さ、おいで」

 「は、はい……きゃあっ!?」


 おずおずと手を差し出した伊織の手を握り、ぐいっと引っ張る。身体を倒し、肩と膝に腕を入れてジャンヌは少女を抱き上げた。凛とした顔つきのジャンヌがこの抱え方をすると、まるで姫を守る騎士に見えてくる。


 「僕はどうすれば?」

 「んー、じゃ背中に捕まって」


 くるりと振り返り、背を向ける。


 (普通は逆の立場な気がするんだけどなぁ……。)


 華奢ながらも、鎧の隙間から触れる肌の柔らかさを感じつつ、ジルは負ぶさった。


 「一気に行くから、離さないようにね!」


 軽く水面を弾き、余白を作る。その隙に、風の結界を強く発動してから、海中へと突入していった。


 普段では決して見ることのない、その景色。目の前を泳いでいく魚や、遠ざかっていく太陽に、びっしりと苔の生えた岩肌と、見慣れない海藻等々。息をしたまま、こんなものが見えるなんて珍しい経験をした。伊織もジルも、もちろんジャンヌだって、同じことを思いながら潜水していく。


 「あったわ」


 海の底に降り立ったジャンヌが、目を凝らしてから呟く。視線の先をジルも追ってみると、そこには確かに神殿があった。

 木製ではなく、白い石製の柱。凝ったレリーフの掘られた屋根など、作りは神社と全く異なる。


 ジャンヌが小さく合図をする。向かう、とのことだろう。

 結われた金髪の隙間から、じんわりと汗ばんだ首筋が見える。周囲に、強い防護結界を発動しつつ、二人の人間を抱える。いくらジャンヌであっても、これだけの行為を一度に、そして継続的に行えば疲労もするだろう。

 緑色に染まっている岩肌を踏み込み、飛翔する。神殿と思われる建造物の手前で着地をし、改めて中を見る。


 全方位を、大きな柱が等間隔に並んでいる構造のようだ。人間くらいなら、通れる隙間はあるだろう。しかし、その狭間から中は窺えない。水面が反射をするようにぐにゃぐにゃと景色を歪んでおり、目視できない仕組みらしい。元々、海上からの光がわずかしか届かないせいで視界が悪いのも、原因の一つだろうが。


 意を決し、三人は歩いていく。抵抗は何もなく隙間に入ることが出来た。

 そして、驚くことに建物内は明かりが存在し、空気もあった。外からは見えないが、柱と同じ素材と思われる床そのものが、淡く光を放っているみたいだ。


 伊織をおろし、ジルを立たせて、ジャンヌは武装して進んで行く。遠くに、何か大きな影が見えたからだ。

 長方形の物体の上に、人影に似た何かがある。頂点と思われる先には、小さな棒があり、その先には形状の不確かな、布のような素材が揺らめいていた。

 ジャンヌの後ろで、目を凝らすジルが考えるに……あれは……天蓋付きのベッド……?


 「いたっ!?」


 鈍い音がして、ジャンヌが小さく叫びをあげた。直後、床にも高い音が響き渡る。何事かと、その物体を見ると、蜷局(とぐろ)を巻いた貝殻であった。荘厳な雰囲気の中での、突然の攻撃行動に流石のジャンヌも回避することも出来なかったようだ。


 「あんたか! アタシを起こしたのは! しかも、とんでもない起こしかたしやがって! ふざけんなよ、バカ!」

 「えぇ!?」


 ベッドの、そしてこの神殿の主と思われるものが突然罵声を浴びせた。頭に攻撃を受け、更に突然の、思いもよらない言葉にジャンヌはもちろん、ジルも伊織も戸惑う。

 すると、床の光が強くなりまるで地上に居るような明るさになった。おぼろげだった、その先が見える。


 ベッドに、両手をついて乗り出すように座っていたのは、女性だった。年は、伊織より少し年上くらいだろうか。長くウェーブのかかった水色の髪に、金色の単調なサークレット。大きな白い布を、折り返して着る、キトンという服を着込み、透明なショールを羽織っていた。

 特に、目立つのは肌の色と耳。どの大陸でも見られない、髪の色よりもっと薄い肌で、耳には魚のヒレのようなものが飛び出ている。

 端整な顔立ちに、意志の強さが全面に出るつり上った金色の瞳。大きく開いた、八重歯の目立つ口からは、やはり怒声が飛び出ていた。


 「気持ちよく寝てたっつーのに、なんてことしてくれんだよ! その鎧、その剣! 絶対やったの、あんただろ!? 謝れ!!」

 「……もしかして……あなたが水の精霊、テティス様?」


 わけがわからず、涙目になりながらオロオロするジャンヌを見かねて、ジルが一歩前に出る。

 こんな、子どもみたいな亜人が……あの、海神を生み出す水の精霊なわけがない。ほのかな期待を込めて、質問をしてみた。

 一瞬、ジルの姿を見て何かに反応するテティスだったが、すぐさま頭を切り替えて返答をする。


 「ああ、そうさ! アタシがそのテティス様だよ!」


 やっぱり……。

 ジルは肩を落とす。いや、別に性格面は問題ないだろう。力があるならば、それでいいじゃないか。

 脳裏に、同じ精霊という立場であるヴァーユの、おっとりとした顔と口調をちらつかせつつ質問を続ける。


 「とりあえず……何故(なにゆえ)怒っていらっしゃるのか、説明していただけますか?」

 「なにゆえも何も! アタシは、ミズホの国の連中と、そういう契約を結んでんだから。それを勝手に破棄されちゃ、当然怒るでしょうに」

 「契約?」

 「ミズホの人間が、祈りや願いを込めることでアタシに力を付与する。代わりに、アタシが一帯の海域を守る防護結界を貼って、更には食いっぱぐれのないよう豊漁の加護を授けるって契約さ」

 「なるほど。ずいぶんと気前のいい契約ですね」

 「でしょ? でも、最初は良かったんだけど、段々面倒になってきてね。代理を立てることにしたんだ。寝てても、同じような効果が得られるやつ」

 「あの龍ですか?」

 「そうそう。で、本体のアタシは一年に一回だけ起きて、信託を授けるようにしたんだ。随分前からだけどね。人間の寿命なら、三世代は交代するんじゃない?」

 「そうですか。大体わかりました」


 物ぐさな精霊も居るんだな。ジルの感想はそれだった。

 予想が当たっていたのも幸いし、そこまで驚きはしなかったが……契約内容までは考えられなかった。

 つまりは、その一年に一回が大滝(おおだる)の儀式で、それ以外の時に起こされたから、話が違うと腹を立てているわけなのだ。

 あの龍はテティスの夢であり思念体であり、やはりミズホの守り神であったらしい。本体が、ここまで喧嘩腰な姿勢を取る精霊だとは想像だにしなかったが。


 大体、思念体の暴走を止めるには、倒すしかないと言ったのはテティスだ。それに従ったら、逆に怒られたなんて理不尽もいいところである。


 「ちなみに、寝ている間の記憶はおありで?」

 「まー、なんとなくはね。ここ最近で、ミズホの人間共の不信感もわかってたし、制御できずに暴走しちゃったのもね。けど、そこまで悪いとは思ってないよ。招いたのは、あんた達人間なんだから」


 視線を、ジルの後ろへ飛ばす。常に睨んでいるような瞳を更に鋭くし、ジャンヌの影で縮こまっている伊織を見据えた。それに気づくと、伊織は小さく悲鳴を上げてジャンヌの服の裾を掴みながら、ガタガタと震えた。


 「だいたい、シキ島の人間の布教のレベルが落ちたのが問題だったんだよ。もっと他の島に対して、干渉すりゃーいいのにさ。アタシの声が聴けるのは、シキ島のやつらくらいなんだし。偉そうにしてりゃよかったんだよ」

 「……と、いうアドバイスはされなかったんですか?」

 「ん? ああ、いつも寝ぼけてたし。早く寝たいから、結局必要事項を伝えるので精一杯だったんだ」


 ダメだこりゃ。すっごい面倒くさがり屋だ。責任感の低いタイプの人種だ。すっかりジルは呆れてしまっていた。この精霊は気まぐれで、国一つを滅ぼす気だったのか。


 「そこまでアタシも、適当じゃないよ」


 そもそも、暴走の引き金となったのは伊綱が原因だったらしい。シキ島の人間は、どんどん神社を売り払うし、信仰心も薄れていっている。そして、唯一残された渦流神社すらも売り払うと決めたと知り、遂に怒ってしまったそうだ。必要ないなら、いっそ無くしてしまおうという、直結な思考はまさに神様らしいといえば、らしいが……。

 島の、ミズホの国の情景は全て見えているそうだ。思念体の時は、島の結界内ならどこであっても可視できる。ただ、よほどのことが無い限りは大体見過ごすらしい。視線には入るけれど、脳内では認識していないように。伊綱の件だけは、その『よほどのこと』だったようだが。


 「まぁ、それでも」


 長々と原因などを語ったテティスは、衣擦れの音を立てて、ショールの端を握りつつ立ち上がった。細くも肉付きの良い足で、ゆっくり歩いていく。ジルを横切り、ジャンヌの前に立ち、そして顔を下げて、伊織の前へ。

 気の強いテティスの顔もちで、ここまで接近されては誰だって涙目になりそうなものだ。泣き出しそうな伊織は、恐怖に怯えながらただひたすら行動を待つ。


 「最後まで、信じてくれたのはアンタだけだったね。ありがとな、伊織」

 「え……」


 ニッと笑い、伸びた爪が当たらないように優しく手を伸ばす。伊織の小さな頭は、乱暴な言葉遣いとは真逆に、優しくゆっくりと水の精霊によって撫でられた。

 何がなんだかわからず、為すがままにされる伊織だったが、事態に気づくとぽろぽろと、涙をこぼし始めた。嬉しいのか、緊張の糸が解けたのかはわからない。ただ、何とか笑おうとしようと努力している様子だけは、その場の三人みんなが見て取れた。


 「さて、じゃあ次はこっちが質問しようか」


 最初の激昂ぷりはどこへやら。多分、もう忘れてるのだろう。語気の強さは変わらなくとも、余分な感情がこもっていない言葉で、テティスはベッドに戻りながら聞く。


 「こんなところに、わざわざ来た理由はなんだい? ただの観光で、来るわきゃないよな。龍の幻影をぶっ倒してまで、して欲しいことでもあるんかね?」


 流し目の行く先は、伊織でもジャンヌでもなく、ジルだった。ベッドに腰をかけ、足を組み、両手に体重をかけるように広げた体勢で、問う。

 その態度を見て、想像しているよりは洞察力のある精霊なのだとジルは秘かに感心する。


 「ええ。実はですね……」


 きっと何か知恵を授けてくれるのではないか。第一印象は捨て、古くから存在する水の精霊として扱うことにしたジルが、つらつらと現状を語っていく。


 「――――なので、ここに伝わる魔除けの儀式、大滝(おおだる)の儀式を利用させてもらおうかと思ったのです」


 結論を述べたジルに対し、テティスは無反応だった。けだるそうに、爪や髪をいじりながら聞いてたが、そこまで言っても何も反応が変わらなかった。

 もしかして、聞いていなかったのだろうか。不安にかられながらも、言葉を待つジルの前で、テティスが動く。

 ゆっくりと立ち上がり、腕を組み、眉間に皺を寄せながら目をつぶり……そして、ため息交じりで、ジル達の要件に対する返事を口にした。

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