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プロローグ

 この物語はフィクションです。

 この物語の舞台はこの世界とよく似た別の世界であり、実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。


「ニュースの時間です。昨夜未明、東京都北区の路上にて男性の変死体が見つかりました。事件のあった現場は見通しが悪く、あまり人の通りが少ない場所ということもあり、捜査は難航しているようです。

 警察からの発表では今日こんにち、世間で騒がれている連続殺人事件の可能性が非常に高いとして、付近の住民の皆様に注意を呼びかけています。もしこれが本当であれば、一番初めに起こった事件が二ヶ月前の二月十五日になりますので、今回の事件で十七件目。何故、平和な日本でこの様に凄惨な事件が起きるのでしょうか。

 そこで本日はゲストに、心理学の権威である宮楚辺解螺みやそべかいら教授をお呼びしております。宜しくお願いします」

「ええ、宜しくお願いします。まず、事件の概要ですが、これまで全ての被害者は刃物で執拗に、それこそ過剰とも言えるほど傷つけられて殺されているのが確認されています。これらの情報は既に一部でありますが、警察からの発表で明らかになっています。

 そしてこれらの事件に一連する共通点が、もう一つあります」

「それは、なんでしょうか?」

「事件は基本的に平日、夜間となる二十二時から零時の間を狙っての犯行だということです。世間ではこの犯人を『勤勉なる殺人鬼オーヴァータイム・マーダー』と揶揄しているようですが、あながち間違った名前でもないと思われます」

「間違っていないと言いますと?」

「犯人は――会社員、もしくは学生だと思われます。歳は十代後半から二十代半ば、部活動などでは運動部に所属しており、身体能力も平均より上に位置する人物。男性、女性かで推測するのであれば、これまでの犯行から男性の可能性が非常に高いと、私は考えています」

「それは何故でしょうか?」

「被害者が殺害された時間から分かります。被害者の死亡推定時間なのですが、全て夜の九時から十二時の間に殺害されたことが検死の結果から出ています。犯人は昼間、何らかの拘束を受けていることが、これまでの犯行から分かります。考えられるのは朝から夕方まで勤勉・・に学業へと従事する学生か、朝から晩まで勤勉・・に勤める会社員かの何れかだと私は判断します。

 次に犯人の性別についてですが、ここで皆さんに再度思い出していただきたいのが、殺人を犯す上で避けられない不確定要素が存在するということです。簡単に言えば、被害者の抵抗です。しかし、犯人は老若男女ろうにゃくなんにょ問わず、その手にかけている。しかもその犯行は誰にも見つかることなく、迅速に行われている。被害者の中には確か、男性で、尚且つ格闘技の経験者の方がいらっしゃったはずです。どうやってこのような不利な状況から殺人を行うことが出来たのか。もちろん、スタンガンなどを使用してからの犯行ということであれば、若い女性と言わず、誰でも犯行が可能となりますが、スタンガン特有の火傷の痕跡も現段階では見つかっていない模様。ならば犯人は、その被害者よりも身体に秀でた能力と体格を有していることが分かります。まぐれでこの十七件の犯行が成り立つほど、幸――ん、悪運にでも恵まれていない限りは、ですが。

 仮説という範囲内での話ですが、これらの状況から私は犯人が学生、又は仕事に従事した青年であると述べたのです」

「なるほど、確かにその仮説は犯人解明に於いて有力な情報となりそうですね。では今までに起きた事件現場との、被害者の関連性についてお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「ええ、これらの事件は全て東京都内で起きているように――」



 私はテレビを消すと、一切の光の届かない暗闇に身をゆだねた。

 今日のニュースはとても面白く、見る価値のあるものだったと思う。

 そう、彼らは私のことを題材にして語り合っていた。


 人の生は喜劇にして、悲劇である。誰もがその役割を当てられて、その役どころを意識、または無意識にこなしている。

 だから人は生まれ、死ぬのだ。私が人を殺せば、何処か知らぬ場所で新たな人が生まれる。

 輪廻。素晴らしい言葉。私がこの言葉を初めて知ったとき、神の啓示にも似た強烈な感情の揺さぶりを受けた。

 私はその真理に従って、人を殺める。悪循環に留まった人の流れを正すのだ。それが私の生きがいでもあり、殺す意味でもある。

 ああ、人よ。人の子よ。どうか苦しんでおくれ。悲しんでおくれ。そして、今にも降りようとする幕に絶望しておくれ。その絶望に比例して、次に生まれ変わるとき、人は輝けるのだから。

 ああ、人よ。人の子よ。輝かしい生に祝福を。輝かしい死に喜びを。

 神よ。今日も一人、あなたの身許に参ります。この迷える魂を救い、新たなる生へと導きたまえ。



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