第06話 急いで、帰宅すると「これから、よろしくお願いします」
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正直に言って、光希原先生による数学もビスマルクによる世界史も全く頭に入ってこなかった。
理由は簡単だ。
他に気になる事がある。
いや、気にしたくてしているわけではない。
気になってしまうのだ。
そう、転校生が気になるのだ。
それは、恋。
なんて事は無く、ただ俺の後ろの席になった転校生からの視線がビシバシ背中に突き刺さって授業どころではないのだ。
人間見られて気にならない人なんているだろうか、いやそんな人間はいない。
まあ、俺の憶測だが。
きっと、テレビに出ている芸能人だって見られている事は気になるはずなのだ。
テレビの前では仕事だから自分の役割に徹するのだろうが、いざプライベートになればマスコミから逃げる。
それはやっぱり仕事に影響が出るからとかも理由なのだろうが、自分の全てを見せられるなんて人はいないだろうし、見られたくない秘密の一つや二つだれでも持っていると思う。
おっと、話が逸れた。
まあ、何が言いたかったのかと言うと最初にも言ったように見られていると凄く気になる。
しかも、後ろの席なので何ともいいにくい。
『授業中だし前を向くのは当然だ』と言われればそれまでだし、俺が『あんまりじっと見られると気になる』なんて言い出したら、自意識過剰野郎*1みたいに思われる。
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*1:自意識過剰野郎とは、「俺マジいけて~る、そうだろア~ハン?」とか「そんなに見つめたら君の心がブレイクしちゃうぜ、ハニー」とか言い出すナルシスト野郎の事;補足事項:悠哉はこれに出くわした事があります。
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気になってしょうがないから、さっき消しゴムをわざと落として拾う事に見せかけて後ろを見たら、あからさまに目が黒板を見ていますよと言わんばかりの方に移動させられた。
怪しい。
怪しすぎる。
これが怪しくなくて、何が怪しいと言うのだろう。
ハッキリ言ってこれじゃあ勉強にならない。
しかし、俺は自分を褒めてあげたい。
こんな視線のレーザーに曝されても堪え切り、ついに昼休みに辿り付いたのだから。
そして、昼休みになったことで、彼女はクラスに一人はいる転校生に校内を案内したい奴らに校舎案内旅行へと連れて行かれた。
これで俺は一息つける訳だが、午後の授業も校で無いという保証はない。
もちろん俺は見られることに快感を覚える人種ではないので、これ以上見られ続けるのは勘弁してほしい。
ならば、どうするか。
答えは一つ。
午後の授業をサボって帰る。
もしかしたら、明日も見られ続けるかもしれないが、今日は逃げる。
今日は朝の自称死神見習い少女のことで無駄に精神力を削られているのだ。
これ以上は身が持たない。
しかし、明日ならば今日より疲れる出来事は無いだろう。
そう考え俺は、カバンの中に午前中に使った教科書やノートを机から取り出しカバンに放り込んだ。
「あれ? 悠哉君はもう帰るの? 学食行かないかなと思って誘いに来たんだけど」
「悪い、純。 今日の午後はサボるんで、昼飯は家で食べる」
「珍しいね、悠哉君がサボりなんて。 あ、もしかして、転校生のサクリシアさん?」
純は周りに転校生がいないか確かめて小声で言った。
「ん? 気付いてたのか?」
「まあ、あれだけ悠哉君を凝視してたらさすがにね。 授業中は悠哉君の心労の募り具合が目に見えて分かったから、大分きつかったでしょ?」
「・・・かなり。 ストーカーって絶対やっちゃいけない事なんだって初めて理解した気がする」
「まあ、ストーカーは置いておくにしても、何でサクリシアさんは悠哉をあんなに見続けてたんだろうね? 実は知り合いだったりする?」
「それが、全く身に覚えがないんだよな。 会った記憶がないし」
「悠哉君が覚えていないだけだったりはしない?」
「ん~それは分からないけど、俺の覚えている限りでは会ったことないと思う」
「そっか、分かった。 悠哉君が帰った後で、聞く機会があったらそれとなく聞いてみるよ」
「助かる。 じゃ、また明日な」
「うん、また明日。 あっ」
そう言って教室を出ようとすると純に腕を掴まれた。
「? どうした純?」
「今思い出したけど、サクリシアさんの事はいいとしても、水無月さんの機嫌もちゃんと直しておかなきゃダメだよ」
「・・・すっかり忘れてた」
「うん、だと思った。 帰ったらメールでも電話でもいいから謝って仲直りしなよ?」
「サンキュ、出来る限り努力はしてみる」
「頑張って、じゃ」
「おう、じゃあな」
そう言って、俺は教師や転校生に見つからないように学校を抜け出したのであった。
そして、急いで帰宅した俺の目の前には、今朝の自称死神見習い少女がやはり玄関のところでぶっ倒れていたのだった。
しかも、顔が見えないうつ伏せの状態で。
これはわざとやっているんだろうか。
もしかして、踏まれたりしたいという願望を持つ世にも希少なドMという存在なのだろうか。
ドM死神少女。
ジャンルが新しすぎる。
普通死神ってもうちょっと鎌持ってたりと攻撃的なイメージと言うか威厳がありそうなものなんだが。
なんだ、このガッカリ感。
いや、確かに鎌を持って襲われたいわけではないが、こうも死神らしくないと・・・
まあ、死神らしさなんて空想の領域を出ないのだが。
しかし、こうも玄関の前に倒れられて入り口をふさがれていては見て見ぬふりはできない。
今朝のように、死んでくださいなんて言ってくる相手に関わりたくはないのだが仕方がない。
「お~い、もしかして死んでいるのか、自称死神見習い?」
「・・・・・・」
返事がない、ただの屍のようだ。
まあ、ただ返事が返ってこなかっただけなんだが。
死神ってそもそも死ぬもんなのか?
そもそも、そこからして分からないが、これで死んでいたらコイツが死神である確率は大幅に下がる気がする。
しかし、こいつがここで死んでいたら、その原因が俺にあると思われる可能性が大幅に上がる気がする。
しかも、何の理由もなく学校を抜け出してきている俺はかなり怪しまれるんじゃないか?
コイツが死んでいて、俺が警察に事情聴取でもされたら言い訳なんてできない。
『コイツが自称死神だったんです』って言っても、『学校で転校生からの視線が気になって早退したんです』なんて言ってもなんの言い訳にもならない気がする。
いま、分かる事は一つ。
コイツが死んでいては非常に困る。
ヤバい気がしてきた俺は、本格的に自称死神少女が生きているか確認する。
そのために彼女をうつぶせの状態から仰向けの状態に体を起こし、肩を揺する。
「おい、おい、ホントに死んでるんじゃないだろうな。 生きてるなら返事をしろよ?」
ゆさゆさと揺らすとうっすらと死神少女が目を開いた。
「あ、あれ、私にキスして口の中に息を吹き込んだ、私のターゲットの神宮寺悠哉さん?」
「嫌な思い出し方をするな―――! そして、なんでそんな説明口調なんだよ。 今の聞き方で人違いだったら、この地域での俺の評判がガタ落ちだろ!?」
そう突っ込むとあははと自称死神少女は、うっすら笑った。
しかし、それだけで動こうとしない。
それに、抱きかかえるように体を起こしている俺の腕の中から体を一向に持ち上げようとしない。
全体的に見て今朝よりも明らかに覇気と言うか元気さというか生命力が感じられない。
見るからに弱っている。
「お、おい。 ホントにどうしたんだよ。 茹でたホウレンソウみたいにぐったりしちまって」
「ゆ、茹でたホウレンソウは、女の子を表現する言葉じゃないと思いますが、そんなにぐったりしてますか、私?」
相変わらず、うっすら微笑みながら聞き返してきたが、自覚していないはずがない。
ハッキリ言って、死にかけていると言われても肯けるほどだ。
「してますかって・・・君の今の状態を見れば、誰だってぐったりしてるって言うと思うぞ」
今の彼女と比べたら、生まれたての仔馬の方がまだ元気があるだろう。
「そ、そう、ですよね。 分かっちゃいますよね」
「当たり前だろ、何があったんだよ」
彼女は長い銀髪を揺らしながら首をフルフルと振ると、
「なにもありません」
「なにも・・・って、何もなくてこんなになるわけないだろ」
「いえ、何もなかったからこそ、こうなっているんです」
本格的に分からない。
何もないからこうなった?
彼女の言っている事が分からない。
「どういう事なんだよ、それ」
真剣な顔で聞くと、
「本当は話すつもりはなかったんですけどね」
と、自称死神見習いの少女は困ったような顔でうっすら笑った。
「私たち死神って言うのは、人間の命を、魂を奪う存在です。 この世界において私たちの存在理由はそれしかありません。 そして、もともと私たちはこの世界、つまり人間の世界の生き物ではありません。 ですから、存在理由である人間の命を奪う事をしない死神は世界から役割なしとみなされて拒絶さてしまうんだって聞いています。 世界に拒絶された死神は世界の拒絶反応の影響で徐々に衰弱して最終的に消えるんだそうです。 そして、私たちの死神になるための試験と言うのは死神見習いが死神になるために必要な力を秘めた人間の魂を回収する事です。 だから、最初に手に入れる魂は誰のものでもいいわけじゃないんです。 ですから、死神見習いによって、回収する魂は違うんです。そして、私はあなたがターゲットだったって訳です。 そして、私は死神見習いで完全な死神になれていないので、世界からの拒絶反応に対する抵抗力も小さくて。 こんなありさまってわけです」
最後は自嘲気味に言う彼女に俺は問いを投げる。
こいつが死神であるかどうかなんて気にしている余裕はなくなっていた。
俺と話しているこの間にも、どんどん弱っているのがわかる。
こうして抱えている今でさえ彼女がどんどん質量を失って軽くなっている気がする。
いや、気だけじゃないかもしれない。
笑えない状況だ。
どこにも怪我なんてしていないのに、血を流し続けているかの如く弱っていく。
「世界の拒絶反応だったか? そいつを和らげる方法は無いのか?」
「・・・ありません。 私は私、あなたがあなた、その事実が変わる事がないように死神と言う存在に掛かっている拒絶反応も私が死神である限り無くなる事はありません。 死神が人になったっていう噂もありますが、そんなのは御伽噺でしょうしね。 そもそも、方法をしりませんから」
「何かないのか? なんでもいい、言ってみろ。 出来る限りのことはしてやるから」
「何かあるんだったら、こうなる前にどうにかできるでしょう?」
その通りだった。
どうにかできる類の物なら対策は講じるはず。
それがないって事はどうにもできないってことだ。
でも、殺せば。
俺を殺せばどうにかなったはずだ。
ターゲットである俺の命を刈れば、どうにかなったはずなのだ。
「なあ、なんで俺を殺さなかったんだよ」
「言いませんでしたか? 怖いんですよ。 人を殺すって事が」
「だって・・・だって、そうしなきゃ消えるんだろ? 自分が消える事より怖いのか、俺を殺すことが」
聞くしかなかった。
いや、聞かずには居られなかった。
自分の命が失われるような、こんな状況にまでなってそれでも笑っている少女に対して。
それでも俺の腕の中で軽くなっていく少女は笑って、
「はい」
はっきりとそう答えた。
「なっ・・・なんでっ! 見ず知らずの人間だぞ。 死神にとって刈るのが当然の命じゃないのか!?」
俺の問いにどんどん衰弱していく少女は思い出すように答える。
「気付いちゃったんです」
「私もここに来るまで死神は人間の命を刈って当然。 そこに疑問すら持っていませんでした。 でも、ここにきて、あなたを探す間にあなたたち人間を大勢見ました。 みんな、笑って、泣いて、怒って、悲しんで、喜んで、そういうのを見てたら私たち死神と何が違うんだろうって思いました。 ただ生まれた世界が違うだけなんじゃないのかって。 そう考えたら、もう殺すのが怖くなってました。 だから、あなたに死んでくださいって頼んだんですけど、でも、最初から分かってたんです。 自分から死ぬ人なんてめったにいませんし、そんな人は元々ターゲットになったりはしません。 だから、もう途中からこうなる事は分かってたんです」
俺と朝話していた時にはコイツの中でもう死ぬ覚悟が決まってたって事かよ。
それはどれほどの覚悟なのだろう。
自分の命よりも他人の命を優先する覚悟って言うのは。
「・・・・・・死ぬなよ」
「えっ?」
「死ぬなよ。 ・・・お前は死んじゃダメだ。 お前は死神らしくない変な死神見習いだけどな、それでもお前の見たこと感じたことは間違ってないと思う。 でも、だからってお前が死ぬのはおかしいんだよ。 それに、死神が人を殺すだけの存在で人を殺さないから、世界に殺されるなんて間違ってんだろ」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうにふぅと息を吐いて、目を細めて笑った。
「私が変な死神だったら、あなたも私に負けないほど変な人間ですね。 死神を助けようとする人間なんて聞いたことないです」
そう言うと今度は一転して真剣な声で、
「でも、私が生き続けるためにはあなたを殺すしかないんですよ。 そして、私は消えるとしてもあなたを直接殺したりはしません。 どうしようもないですよ」
こいつは俺を殺さない。
死んでくださいなんて言ってはいたが、こいつのために死んでやったとしても人間を殺せないこいつの事だ、きっと気にする。
だから、俺が死んでやるわけにもいかない。
だったらどうするか。
「俺たちが生き残るためにはどっちかが死ななきゃならないならさ。 人を殺さなきゃ、死神は生きていけないっていうこの世界の方に変わってもらおうぜ」
「な、何を言ってるんですか。 そんなこと出来るわけ―――」
「死神のお前がいるんだ、この世界のルールを作った神様とやらが居るんだろ? そいつに頼む。 拒否されたら、力づくで認めさせる」
「無理です! 神様は確かにいますけど、この世界のルールを変えてくれたりしませんし、力づくでなんて勝てる訳ないじゃないですか。 そもそも、私には時間も力もたりません無理なんですよ」
「時間がないっていったが、あとどれくらいお前の時間は残ってるんだ?」
「・・・そんなに長くはないでしょうね。 もって、後1時間くらいだと思います」
「神様んとこまで行くにはどれくらいかかる?」
「・・・天界の最深部にいるはずですから、少なくとも数日はかかります」
「じゃあ、時間的に無理か」
「時間に余裕があっても、無理、ですよ」
彼女の息もだんだんと荒くなってきた。
考えろ。
考えろ。
何かあるはずだ。
こうして考えている間にも無情にも時間だけは止まらずに進んでいく。
「ッ、予想より、はやかった、みたいです」
それは唐突に訪れた。
俺が考えていることを無駄だとでも言うように、彼女の体が限界を迎えようとしていたのだ。
透けているのだ。
彼女の左腕の色が抜けおち、透けている。
これが消えるってことなのか!?
くそっ!
こんな後味が悪い結末があるかよ!
考えろ。
考えろ。
何かあるはずだ。
何かぬけ道が。
時間稼ぎでもいい。
何か。
・・・
・・・
・・・
まてよ、時間稼ぎ?
この世界のルールは、存在理由である人間の命を奪う事をしない死神は世界から役割なしとみなされて拒絶さてしまうと彼女は言った。
人を殺さない死神は。
だったら、殺す予定がすでにあるのなら?
「おい、契約を結ぶのはどうだ」
「契、約?」
「ああ、お前たちは特定のターゲットの魂を最初に回収することで死神になるんだろ? そして、死神としての役割を果たさなければ、世界に消されてしまう。 そうだよな」
「は、はい」
「だったら、俺が寿命なり病気なり事故なりで死んだときにお前が俺の魂を回収するという契約を結んだら、人を殺さないっていう役割の放棄から外されるんじゃないか?」
Ama○onで品物を買うにしたって予約注文の機能はある。
アレだって、立派な商売だ。
あらかじめ予約して後から魂を貰う、それだって死神としての役割に数えられるかもしれない。
ネット通販と死神との命のやりとりを同じように考えるのは普通じゃないが、でも出来ないかどうかはやってみなくちゃ分からない。
「どうだ? 出来ないか?」
「えっと、私にもわ、かり、ません。 でも、あなたがいい、なら、試すことは、できます」
そう言って、彼女が消えていない右腕を前にかざすとチリーンと風鈴のなるような音と共に彼女の大鎌が現れた。
喋るのも辛そうな彼女に体を動かせるのは酷な話だが、そこは変わってはやれない。
死神である彼女と人間である俺の契約だから。
彼女は俺の顔をもう一度みると、
「本当にいいんですね?」
「ああ、俺から持ちかけた契約だ。 文句なんてないさ」
「分かりました。 いきます」
そう言うと、彼女は大鎌の刃に近い方の柄に持ちかえた。
そして、柄の刃の付いていない先端を俺の胸に押し当てる。
しかし、押し当てると言っても実際には体に触れてはいない。
大鎌には実体がないのか柄の部分が体を透過している感じだ。
だが、触れていないが、異物感は感じる。
そして、大鎌の柄がゆっくりと俺の体に沈んでいく。
痛くはない。
ただ、幽霊が体を通り抜けるっていうのはこういう気分なんじゃないかという感覚がある。
徐々に鎌の柄が体に沈み込み、ちょうど体の半分くらいのところで止まる。
「今、あなたの、魂に、接触しました。 名前と契、約内容を、あな、たが言葉に、してく、ださい」
「神宮寺悠哉は、この体が生命を失ったとき、自身の魂をこの死神見習いに譲渡する」
俺が言葉を言い終えると、俺の体に沈み込んでいる鎌の柄が、俺の体側から光を放ち、徐々にそれが広がっていく。
その光は、ゆっくりと鎌の柄を伝って広がり、彼女の手に触れるか触れないかというところで止まる。
「契約、完了です」
その言葉と共に鎌の柄を伝っていた光が彼女の手に触れ、俺と彼女と大鎌全体を包み込んだ。
その瞬間、彼女との間に契約者同士のリンクというか繋がりのようなものが形成された感覚があった。
「なあ、契約自体は成功したんだよな? 体の方はどうだ? 治ったか?」
「・・・・・・」
「だめ、だったのか・・・」
やっぱり、こんな思いつきでどうにかなるほど世界は甘く―――
「・・・な、治った。 治りました! 拒絶反応もなくなってます!」
世界甘かった―!!
「本当か!? 可能性がなくはないとは思っていたけど、言っちゃあ悪いが思いつき以外の何物でないぞ!?」
「わ、私もびっくりしてます。 でも、見てください。 ほら、私の左手」
そう言って、彼女は左手を俺の目の前にかざした。
さっき消えてしまていた左手がそこには確かに有った。
しかし、俺は少し変だとも思った。
こんなに簡単に助けられるものなのかと。
「なあ、お前の体が治ったのはよかったけど、なんかおかしくないか? 何で、死神のことなんてほとんど知らない俺の思い付きで助けられたのに、今まで他の死神たちは気がつかなかったんだ?」
「そ、そうですね。 死神の絶対数がとても少ないっていう理由も関係していると思いますけど、一番は、」
そこで、言葉を止めると、死神少女はふふっと俺の顔を見て笑うと、
「普通死神を助けようとする人はいないからだと思いますよ?」
「それを言うなら、人間を殺すのが怖いなんて言う死神もなかなか居ないと思うけどな」
「じ、じゃあ、私たち二人が変わりものだったから出来たんですね」
「そうだな」
二人で笑いあう。
玄関先でこんなに笑っていたら近隣の皆様方から注目を浴びてしまうかもしれない。
でも、今はそうなってもいいような気がした。
そして、ある程度笑い終わったとき、死神少女が俺の方を向いて不思議そうな顔をした。
「そ、そういえば、あなたはどうして私を助けてくれたんですか? あなたの命を狙っていた、しかもまだ会って数時間の私を」
「充分だろ? だって、キスまでした仲じゃないか」
「ッ・・・!」
そういうと、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんなに真剣に受け取られたら、逆にこっちが恥ずかしくなってくる。
「冗談だって、倒れてる奴がいたら助ける、当然だろ? それが死神だろうと人間だろうと、な?」
「やっぱり、変わった人ですね」
「それに死神は人を殺すだけの存在だって言うのを聞いてさ、そんなのおかしいと思ったんだ。 そして、お前が感じたことを伝えれば、きっと感銘を受けてくれる奴だっている。 そしたら死神はただ人を殺すためだけの存在じゃなくなって。 共存だって、きっとできるようになる。 お前ならその架け橋になれる可能性があるんじゃないかって思えたんだ。 だから、そのためにも生きて欲しいってそう思ったんだ」
「そ、そんなことまで考えてたんですね。 じゃあ、そんなあなたに助けられてしまった私はその恩に報いるためにも出来る限りのことはしなくちゃいけませんね」
「ああ、そうしてくれ。 ところで、俺が死んだら魂を君に渡すって言う契約をした訳なんだけど、不慮の事故でもない限り、俺は多分あと少なくとも50年くらいは生きると思うんだが、君はどうするんだ? 一度冥界に帰ってから、50年くらいたった後にこっちにくるのか?」
「い、いえ、冥界には帰れません。 死神見習いはターゲットの魂を持ちかえらなければ、冥界には戻れないって言うのが原則です。 もちろん、それを破ったから消えてしまうと言う事もありませんが、そうですね人間界で言う法律違反みたいなもので罰が与えられるんだそうです」
「ってことは、今現在」
「は、はい、私は今、絶賛家なき子状態です」
「で、どうするつもりなんだ? 冥界にも帰れなくて、かと言って行き場のない死神見習いさんは?」
と、いじわるっぽく聞くと、『うっ』と言うと上目使いで見上げられた。
顔のつくりとかが整っているためかそんな顔をされると、凄く加虐心を刺激される。
「で、できれば、その・・・あなたの家に泊めてもらえたらいいな、なんて」
言葉がどんどん尻つぼみになっていく。
その間も、ちらちら、こちらの様子をうかがっている。
「う~ん、駄目」
「ガ、ガーン」
駄目だしすると、死神見習い少女はこの世の終わりのような顔になった。
やばい、この子を虐めるのが凄い楽しいかもしれない。
本格的にSに目覚めそうだ。
魂の抜けたような顔で、落ち込んでいる彼女に俺は言う。
「あなた、じゃない、悠哉だ。 あなたって呼ばれるのはなんかくすぐったいって言うか気持ち悪いって言うか、何か嫌だから。 悠哉って呼ぶんだったら家にきてもいいぞ」
すると彼女は、今までの愕然とした表情から驚いたような顔に変わった。
「え、えっと、じゃあ、ゆ、悠哉さんの家に泊めてもらっていいですか?」
「ああ、俺の両親もほとんど帰ってこないしな。 大丈夫だと思う」
「あ、ありがとうございます」
「そう言えば、君は―――」
「? どうしたんですか?」
契約を持ちかけたときはどもり癖が直っていたのに、またどもり癖が再発しているので、『君はまたどもっているんだな』と言おうとしたのだが、それ以上に気にかかる事が出来てしまった。
「そうだ、まだ、名前を教えてもらってない。 いつまでも『君』って呼んでいるわけにもいかないし。 名前を教えてくれないか」
「そ、そう言えば、まだ名乗っていなかったんですね。 えっと、私の名前は、クゥリシュア=ユグドラシルっていいます。 職業は死神見習い。 年は16歳です。 気軽にクゥって読んでください。 これから、よろしくお願いします、えっと、ゆ、悠哉さん・・・」
なんか、転校生の自己紹介みたいな名乗りだったな。
だが、名前を呼ばれるのは少し嬉しい。
そんなことを感じていたこの時の俺は知らないのだ。
この出来事が俺の人生を波乱万丈にさせる出来ごとの最初の一つにすぎなかった事に。
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天使と悪魔と死神と(オリジ)、とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-(2次)、魔法少女リリカルなのは AnotherStory(2次)、就職魔王 (オリジ)、Rewrite overwrite(2次)、誹弾のアリアの2次創作、その他etc、同時進行は辛いっす。
その上、保険の手続きだの、期末テストだの、卒業研究だのとても忙しい、他にも、やりたいことも多くて困る。
最近クラスメイトが一人首吊って自殺してしまったのが、ひどくショックです。
結構、恩もあったのですが・・・
皆さんも、私の友人のご冥福をお祈りください。
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たくさん、評価していただけると嬉しいです。
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