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今日も、朝は物語を連れてくる。

宇治橋の朝、名も知らぬ人へ

作者: TO
掲載日:2025/11/28

二回目の朝活が始まる——。

 

冬の空気は、今日も変わらず刺すように冷たい。


僕は京都に住む二十二歳の社会人だ。


朝活を始めたのは、つい数日前のこと。


ランニングに飽きて、ふと読んだSNSの本に影響され、朝の景色をインスタに載せてみようと思い立った。


それが、ただの気まぐれだったはずなのに、少しずつ日課のようになってきた。


今日は前回の大吉山から少し場所を変え、宇治橋を目指して歩く。


原付でも来られる道だが、せっかくの朝活だ。


今日は足で地面を踏みしめ、ゆっくりじっくり朝を味わいたかった。


家を出たのは朝の五時五十分。


東の空にはまだ夜の色が残っていた。


冬の空気は予想以上に冷たく、前回の反省を活かして、今日はダウンジャケットをしっかり着込んだ。


ネックウォーマー、手袋、帽子。


完璧な防寒装備だ。


リュックには携帯、少しの現金、そして温かいお茶。


前回、大吉山で喉が渇いた時の反省も忘れていない。


歩き続けるうちに、防寒をしているはずなのに耳がじんじんと痛くなるほど冷たい風が頬を撫でた。


だが、歩けば自然と体は温まる。


家を出た時には必要だった帽子も、歩き始めて十五分もすれば汗ばんできて、リュックにしまった。


宇治橋通りに差し掛かる頃、東の空がわずかに青を帯び始めた。


冬の空は明るくなるのが遅い。


けれど、そのゆっくりとした明るさに僕は不思議な安心感を覚える。


坂道の多い宇治に足を取られつつも、六時二十分、宇治橋に到着した。


橋の向こう側から、ほんの少しだけ太陽が顔をのぞかせている。


オレンジとも金色ともつかない、境界の色。


今日の朝活はそれだけで報われた気がした。


橋の上から宇治川を覗き込む。


流れは早く、冬の川らしく冷たそうだ。


携帯を取り出し、写真を数枚撮る。


橋桁の影、川の白い泡、すれ違う早朝ランナーの影。


それらを切り取りながら、僕は「朝って本当にドラマチックだな」と改めて感じる。


橋の横にある階段を降り、川沿いの小道へ下りた。


ここは川がすぐ目の前に迫る場所だ。


川面から立つ冷気が頬を刺し、吐いた息が白く揺れた。


冬の朝らしい静けさと、川の音だけが広がる空間は、まるで時間が少しだけ遅れて流れているような感覚を与えてくれる。


そんな静寂の中、ひとりの男性が川にある石を踏みながら、高そうなカメラを構えていた。


川へ身を乗り出し、石から石へと慎重に移動している。


見ているだけで肝が冷える。


朝の光と川の音に浸っていた心が、一気に現実へ引き戻された。


『あれ、滑らない?……大丈夫か?』


心配になって目を離せずにいると、案の定、彼は足を滑らせた。


ひやりとしたが、彼はとっさに踏み直し、なんとか石の上へ戻る。


僕は咄嗟に声をかけていた。


「そこ、足元滑るから危ないですよ!」


男性は振り返り、驚いたように笑った。


「ありがとうございます」


眼鏡越しに見える目元は優しげで、写真好きらしい繊細さを感じさせた。


「旅行の方ですか?」と、僕は自然と声を続けた。


彼はカメラを握りながら言った。


「いや、生まれ故郷なんです。宇治で生まれて、一歳の時に引っ越して……記憶には全然ないんですが」


「里帰りなんですね!」


僕は思わず手を叩いた。


凍える手のひらが少しだけ痛かったが、そんなことどうでもよかった。


「そうなんです。初めての里帰りです」


「え、じゃあおいくつなんですか?」


「二十代です」


「近いですね。僕も二十二です」


二人で笑い合い、自然と会話が弾んだ。


彼は鹿児島で暮らしていて、つい最近仕事を辞めたという。


その言葉に、僕は思わず親近感を覚えた。


僕自身も転職を経験しているから、人が人生の転機を迎える瞬間にどこか敏感になってしまう。


写真の話になると、彼は嬉しそうに愛用のカメラを見せてくれた。


僕がインスタを始めたばかりだと言うと、「基本くらいなら」と軽く教えてくれた。


手ぶれしない角度、光の入り方、被写体の位置。


『こんな朝に、知らない場所で、こんな出会いがあるなんて』


なんだか不思議な感覚だった。


彼は次に平等院へ向かうと話した。


しかし、早朝ゆえにまだ開いていない。


カフェを探していると言われ、僕はつい、


「宇治橋通りのお店は十時すぎからです。

そこの……ガスト、そろそろ開きますけど」


……言ってから、しまった、と思った。


初めての里帰りで、全国にあるガストを勧めるって。


「すいません!……」


慌てて謝ると、彼は笑って「いや、助かりましたよ」と言った。


その笑顔に救われた気がした。

 

彼と別れたあと、僕は橘橋へ向かった。


宇治橋全体を一望できる、知る人ぞ知る撮影スポットだ。


朝日に照らされ始めた橋は、美しく、それでいてどこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。


シャッターを切り、その光を心に刻みつけた。


そして元の道へ戻ると、なんと先ほどの彼がまだ写真を撮っていた。


「また会いましたね」


「本当ですね」


思わず笑い合う。


その流れで、二人で写真を撮ることになった。


顔を寄せて撮った写真と、手を並べピースした写真。


顔の写真はアップできないが、ピースの写真は「インスタに載せていいですよ」と彼が言ってくれた。


その言葉が嬉しくて、僕はお礼を言った。


本当に別れたのはそのあとだ。

 

僕は宇治橋へ、彼は平等院へと歩いていった。


冬の空はすでに朝の青へと変わり、僕の心は不思議と温かかった。


『名前、聞けばよかったな』


また少し後悔が胸に残る。


でも、それは同時に次への願いでもあった。


新しいことを始めたのだから、新しい出会いも大切にしたい。

 

名前を聞くのも、今日のような偶然を形として残すための一歩だ。


そう思うと、胸の奥がじんわり熱くなる。


朝活をしてよかった。

 

宇治橋に来てよかった。

 

彼に出会えてよかった。


冬の朝は寒いはずなのに、今日の帰り道はどこか春の気配を感じるほど温かかった。


これが、僕の二回目の朝活の記録だ。


そしてこれは、いつかまたどこかで会えるかもしれない名も知らぬ誰かへの、小さな祈りのようなものでもある。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


今回の物語は、僕自身が朝活で感じた景色や気持ちをもとに書きました。

もし少しでも「朝ってちょっと良いかも」と思っていただけたなら、とても嬉しいです。


僕は普段、Instagramで朝活や小さな旅の写真を投稿しています。

小説とはまた違う角度で京都の朝を切り取っていますので、

よければ覗いていただけると励みになります。


Instagram:https://www.instagram.com/solo_kyoto22_shorttrip?igsh=aWphZ2NqbXZhd2ph&utm_source=qr

※フォローしてもらえると本当に嬉しいです!


ブックマークと評価☆☆☆☆☆をよろしくお願いします。

みなさんの一つひとつの応援が、次の作品を書く力になります。


また次の朝も、どこかの景色でお会いできますよう


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