大したことない?
二人はしばらく無言のまま、早足で歩いていた。
男子生徒から十分離れても、麻由は腕を組んだままだ。
二人は身長差があるので見た目のバランスが悪く、あまり絵にならない。
(っていうか、これ絶対あらぬ誤解生むやつなんだけど……)
どちらかと言えば、悪い噂だらけの友梨奈には今更影響は無く、
一方的に麻由が損をするだけだろう。
けれど当の本人は、鼻歌混じりでやけにご機嫌そうだ。
その様子を見ると友梨奈からは腕を振り解きにくかった。
代わりに麻由に話しかける。
「さっきのタイミングって……」
後ろに隠れて待機していた麻由が、あのタイミングで出て来たのは間違いなく意図的だ。
「あの手とか慈念の能力のこと、他人には絶対話さない方がいいよ。どういう風に周りに流されるかわかんないし」
小さく頷く友梨奈。
これまである事無い事色々噂を流されて来ただけに、その展開は絶対避けたい。
とはいえ、橋桁のエンカウントポイントのことを知られてるとなると、今後の影響は避けられないだろう。
あの辺りをうろつくと僧侶風の老人に追い返されるかもしれないが、それを当てにするわけにもいかない。
あいつは『沢山の手』と言っていたが、もしやあのバス事故のタイミングで橋桁で遭遇したのだろうか。
二人は麻由の家の方向に行く通りと交わる十字路を過ぎたが、麻由は曲がらずにまだ一緒に歩いている。
「麻由、もう過ぎたよ」
「うん、だってこの後碧さんに相談でしょ?」
「え? う、うん、そうだね」
「梨奈に任せると『あの人苦手』とか言い訳して聞かなさそうな気がしたから」
(うーーん、麻由には色々読まれ過ぎ……)
「それって、ただの弱い念能力でしょ」
ダイニングキッチンで友梨奈達に背を向けて夕食の準備をしている碧。
調理の手を止めずにあっさり言い放つ。
「…『ただの』…『弱い』?」
「こういう感じだったんじゃないの」
碧が振り返って友梨奈を見つめると何かが肌を撫でるような、嫌な感覚が一瞬走った。
「そう! この感じ!」
呆れた表情を浮かべる碧。
「こんなの霊能力の初歩よ。あなたは修行や訓練なしで高等な神通力発現しちゃってるから、順序が無茶苦茶なだけ」
「じゃあ梨奈も普通に使えるんですか?」
「使い方を覚えれば、ね。こんなのの遥かに強いやつを。他人に向けて使っちゃダメよ」
麻由と友梨奈は複雑な表情で顔を見合わせている。
新学期早々大トラブルかと思ったが、能力自体はなんか大した脅威では無いっぽい。
まぁ碧視点だとどんな事態でも大したことない判定をされてしまいそうだが。
問題は、このままクラスで不可思議現象が起きると、また友梨奈の呪いのせいにされるだろうし、あいつにマークされた友梨奈や麻由が次の攻撃対象になるかもしれない。
何よりエンカウントポイントでの接触が一番面倒なことになりそうだ。
「麻由ちゃん、たまには晩御飯食べて行く? 今日ちょっと作り過ぎちゃって」
「わぁぁ、良いんですか? ちょっと家に連絡入れます」
友梨奈の不安をよそに、麻由と碧は一段と仲良さげに談笑している。
(こんな穏やかな時間が、長く続けばいいのに)




