見られてはいけないもの
その日の放課後。
麻由には例の生徒の名前を伝え、そいつに見つからないよう後ろから来てもらうことにした。
正確には、友梨奈がマークした人物の席位置を伝えたところ、麻由が持ち前のコミュ力で名前を事前に把握していた、という流れだ。
(まさかクラス全員の名前をもう覚えてるんじゃ……)
逆に新しいクラスメイトの名前をコミュ障友梨奈が覚えているはずもなかった。
学校を出てしばらく歩いた頃、麻由からメッセージが届いた。
それを確認しながら、友梨奈は考えを巡らせる。
(さて、どう出てくるかだけど……)
もし交戦的に来られたら、意生身を戦いに使うのはアリなのだろうか。
こっちはダメージ無しで相手を叩ける。
でも意識が抜けた本体がそばにあると、そっちの防御面が心配だ。
何より、自分の意思で都合よく意生身を出せる保証もない。
木花家にある武器系の持物を取りに行く?
いや、そんな物を持ち歩いたら通報されかねないし、使えば過剰防衛扱いになりそうだ。
学校から離れ、人通りが少なくなった頃に来ると想定していたが――
周りの景色を見回すとそろそろ怪しい。
「お前、あれ、どうやった?」
横道から、例の男子生徒が現れた。
なぜか友梨奈に絡んでくる男子は、いつも上から目線だ。
毎回敵対関係だからかもしれない。
たまには甘酸っぱい恋愛イベントでも起きてほしい。
「なんのこと?」
「とぼけるなよ。影みたいなのがドアのところに行ったの、見えてたんだからな」
「なにそれ。幻覚じゃないの? わたし朝は眠くて机で寝てたし」
男子はじっと睨んでくる。
同じ列の前方の席にいたやつで、麻由曰く井上なんとか。
これまでに面識もないし、お前呼ばわりされてる相手を名前で呼ぶ気もない。
「お前って、ゲゲゲの友梨奈とか、トイレの友梨奈さんとか言われてて、霊が見えるんだろ? 絶対なんかやったよな!」
(黒歴史をぐりぐり掘り返しやがって……)
事実ではあるが、今言われると腹が立つ。
「とにかく、わたしはクラス委員でも正義の味方でもないから。あなたが教室で何をしようとどうでもいいけど……」
一瞬言うのをためらったが、あの時の怒りが蘇り、その顔を睨む。
「もし次に麻由に何かしたら……絶対許さないから」
言うことは言った。
そのまま歩き出す。
一瞥もせずそいつの横を通り過ぎようとした、その時。
「なぁ、橋桁のとこに出てきた沢山の手、あれ何なんだ?」
予想外の話題に、足が止まる。
「やっぱり、何か知ってるんだな?」
思わず口を開きかけた瞬間――
「梨奈ー! こんなとこにいた! 約束してたのにスマホに返事くれないんだもん」
後ろから麻由が現れ、友梨奈の腕を取ってそのまま歩き出す。
ズンズン前へ進み、二人はその場を離れた。
取り残された男子は、ただ呆然と見送っていた。




