プロローグ 川辺で視えたもの
あのバス事故と、ほぼ同時刻。
市内を流れる大きな川にかかる橋。
そのコンクリート製の巨大な橋脚の周りに広がる河川敷で、
四匹の犬が戯れ合って遊んでいる。
十代前半と思われる私服姿の少年が、川の土手からふらふらと河川敷へ
降りてきて、
何かに惹きつけられるように橋脚の方へ近づいていく。
次の瞬間、
少年の視界の先――橋脚の辺りの空間が歪み、
その割れ目から、十数本の腕が出現した。
それらは長さも太さも形もまちまちで、
老若男女、それぞれ別の人間のもののように見える。
ただ一様に、手は十本の指を大きく開き、
まるで救いを求めるように、
何かに縋るように、宙へと伸びていた。
異様な光景に、少年は恐怖で目を見開き、
身体を硬直させたまま立ち尽くす。
その時。
橋脚の陰から、僧侶姿の老人が姿を現した。
足元には、先ほど戯れていた四匹の犬が、ちょこんと座っている。
「おい、小僧。
この辺りは気が乱れている。
下手に近付くと、この世では視えてはいけないものが出るぞ。
むやみに近付くな」
「?! 視えてはいけないもの……?これは一体、何なんだ……」
恐怖で引き攣った顔のまま、少年は老人を見つめた。
直後、地面から数個の小石が、僧侶姿の老人に向かって飛んでいく。
見かけによらぬ機敏な動きで、
老人は数珠を巻いた左手でそれらを叩き落とした。
「こ、これは……。
面妖な能力を使いよって……」
その隙に、少年は逃げるように走り出し、その場を離れていく。
先ほどまで大量に発生していた腕のビジョンは、
いつの間にか、すべてかき消えていた。
第二部の物語は、ここから始まります。




