それぞれの迷い
「なんか……昨日、あんなに悩んで打ったのがバカみたいだなって」
言いながら、麻由の表情は膨れっ面から半笑いに変わった。
今まで見たことがない麻由の感情表現に対して戸惑う友梨奈。
(……なんかその内容、見たくない、聞きたくない……でも気になる……)
校内はスマホ禁止だからこの場で麻由にスマホチェックさせられることはない。
(帰りが怖いなぁ……。どうするのが正解なんだろ……)
昨日のシーンが頭に再生されて思わず頭を振る友梨奈。
能力の使用は極力避けたいのだが、それを使って人助けをすると
麻由は喜ぶと思っていた。
まして今回は麻由本人を助けている。
『普通』とか『友達』ってなんなんだろう。つくづく難しい。
午後の授業中あれこれ悩んだ末(といっても半分は睡魔に屈服して熟睡していたのだが)、とりあえず帰りは速攻で逃げよう、と友梨奈は心を決めた。
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あかねは、いつかと同じように友梨奈の後ろに膝立ちして
自分の額をその後頭部にあて、両手を友梨奈の目の上に当てていた。
友梨奈は両手に羂索を握りしめ、床に座り込み足を広げて目一杯
踏ん張っている。
あかねのビジョンには車輪の根元に何重にも巻き付いた羂索から青白い火花が
大量に飛ぶのが視える。
思わず眩しさに瞼を閉じる。
悲鳴のような甲高い摩擦音が徐々に低くなり……
バスは速度を無くし……止まった。
その直後友梨奈の頭がゆっくり前に落ちていく。
数秒後部屋の中にスー、スーと寝息が聞こえ出す。
両手を友梨奈の目から離し、あかねは立ち上がった。
碧が帰ってくる前にあの部屋に羂索を戻さなくてはならない。
今のところあかねの千里眼では碧が近付いている気配は無かった。
羂索をぎゅっと握っている友梨奈の指を一本ずつ外すとき、
焦りで手が震えた。
なんとか二本の羂索を回収したあかね。
階段を駆け降りる足音がやけに大きく響き
心臓の鼓動もうるさいせいか、家の空気に緊迫感が増してきていた。
廊下を左に折れてその先の瞑想の間に向かう。
横開きの扉を勢い良く開き、部屋に駆け込んだあかね。
まずは友梨奈が持ち出した一本を床の間の定位置に掛けて片付けた後、
観音菩薩像に手を伸ばす。
「そっか。あなたは千里眼でわたしがしてることが見えちゃってたのね」
手を伸ばした姿勢で硬直し、顔をこわばらせるあかね。
(なんで……気配が全然読めなかった……)
足が震える。心臓が痛いほど跳ねている。
自分ではかなり感度を上げてこれたと思ってたのに、
こんなそばに来られるまで全く感知出来ないなんて。
深紅の瞳であかねをじっと見つめる碧。
能力を表に発出してはいないのだが、まるで暴風雨の中にでも立っているような
神通力の圧力。
あかねは立っているのがやっとで全く身動きが出来ない。
「ここの持物を持ち出すのは大目に見てたけど……。
あっちには二度と入らないこと。分かったわね」
空気がさらにもう一段沈み込んでずっしりと重くなったように感じた。
肩が勝手にすくみ、呼吸が浅くなる。
あかねは全く声を出せず代わりに小刻みに頷く。
これだけの能力があればリコを救えるんじゃないか。
でもあの日泣きながら頼んだあかねに対して、碧は無言で首を横に振るだけだった。
友梨奈がこのバケモノ並みの碧越えをしないとリコは救えないのかもしれない。
こんな調子じゃ、それはいつになるか分からない……
リコの姿が脳裏をよぎり、あかねは思わず拳を握りしめた。
そのためにはもっと神通力に関する情報が欲しい。
あの部屋は最適の場所に思えたのだが、あかねは別の手段を探さなければならなくなった。
今の状況にかなり心が沈んだが、絶対諦めるつもりはない。
あかねは強く唇を噛んだ。




