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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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わたしにも出来ますか?

入ったその部屋の中はかなり薄暗く、初めての麻由には部屋の広さや構造がよく分からなかった。

照明が一番奥にある床の間の蝋燭一本だけのせいだろう。

その床の間だけは暗い中で浮かび上がっているかのようによく見えた。

真ん中で異様な存在感を放っているのは腕が六本ある観音像。

麻由は後で知ったのだが、それは不空羂索観音菩薩というらしい。

その手には友梨奈から預かったものと同じ形の羂索、その他の五本の腕には錫杖、鉾、剣、払子、三鈷がにぎられている。観音像は50センチぐらいのサイズなので、持っている持物は人が扱う道具のサイズではない。

その像の周りに人用サイズの持物が別に飾られている。

縄状の物を掛けやすそうなハンガーっぽいものが置いてあるから、羂索はそこが定位置なのだろう。


「あの、観音菩薩って人を救ってくれる優しいイメージなんですけど、手に持ってるのは物騒な武器系が多いんですね」


人用サイズの鉾や剣はよく磨いた鋭利な刃が切れ味を誇るようにギラギラと光沢を放っている。

救うというよりは殺傷能力が高そうな代物だ。


「そうね。仏教の世界で戦いを担当する神は大抵『明王』や『天部』とかなんだけど、時代によっては観音菩薩といえど戦わないと人を救えないという解釈もあったから、うちに伝わってる観音菩薩像は武器系の持物を多く手に持ってるわね」


原寸大の武器があるということは、これまでの木花家の人もこれを使って戦ってたってことなんだろうか。

麻由としてはあかねや友梨奈がそんな能力の使い方をする姿は想像出来ないし、して欲しくないと思う。


「あくまで仮想の仏敵と戦う設定の武器だから、別に人相手に使って戦うわけじゃないのよ。それに伝え聞いてる範囲ではうちの先祖が武器を使って戦ったって記録は無いわ」


安堵の表情を浮かべる麻由。

友梨奈がヒロインっぽく成長して人を大勢救うところは見たいが、戦いの方向に能力を開花させて、他人と戦って傷つけたり傷ついたりする姿は見たくない。

想像していたものと実際に見れたものが大分違ったので、麻由はもうこの部屋に興味を失ってきていた。

でも碧にはどうしても聞きたいことがある。教えてくれるかどうかはわからないが。


「あの……、碧さん、二つ教えていただきたいことがある、んですけど……」

床の間のそばに立っている碧に対して、正座をして向き合う麻由。

「何? そんな改まって。わたしが答えられることならなんでも良いわよ。あ、若見えの秘密とかかな?」

「いえ、それも凄く知りたいんですけど、まだJCなんで大丈夫です」


麻由の顔をじっと見つめて納得顔で頷く碧。


「あの、友梨奈さんの両親が亡くなったのって……」

「もしかするとわたしが遭った海難事故が関係してますか?」

「どうしてそう思ったの?」

「友梨奈さんの記憶が無くなった時期が、5、6歳の頃って聞いてたし、わたしを助けてくれた時、ずっと泣きながら謝ってたので、その時何か辛いことがあったのかな、って……思ったんです」

「なるほど。もしそうだったとしても麻由ちゃんが気にすることは何もないんだけど……」

「事実をそのまま言うと、梨奈の両親の死とあの事故は何も関係無かったわ。時系列的にそのあと期間が開いた後に起こったことだったし」


碧の言うとおり麻由が気にするべきことじゃないが、その頃の心の傷が今の友梨奈の感情表現に影響しているなら、なんとか癒してあげられないかと思う。

そしてもう一つも友梨奈と友達でいるためにどうしても知っておきたい。


「わたしが神通力を使えるようになったり出来るんでしょうか? 血筋とか遺伝とかじゃないと無理ですか?」


すぐには答えず麻由の顔をじっと見つめる碧。

軽率なことを聞いて碧を怒らせてしまっただろうか。

でもおそらくこの質問に答えられるのは碧だけだし、どうしても答えを聞きたい麻由にとってはチャレンジするしかない。


「麻由ちゃんは、人助けするやり甲斐に目覚めちゃった? 梨奈は嫌がり過ぎだけど、能力を持つことのデメリットも結構あるのよ」


言われるまでもなく、そのことは能力のダークサイドとして麻由の心にしっかり刻まれてきている。

友梨奈は小さい時に記憶と感情を失っただけで無く、両親も亡くしているし、従姉妹のリコも行方不明になっている。


「わたしが能力を発揮したいわけじゃ無くて、能力を使っている友梨奈さんをちゃんと見守るために、能力が視えるようになりたいんです。小さい時は助けに来てくれた友梨奈さんがハッキリ視えたのに、今は何も視えなくなっちゃって。そばにいてもなんかただの傍観者みたいになってるのが嫌なんです」


心に溜まっていたものを一気に吐露してしまった麻由。その心の叫びは碧にはどう響いたのだろうか。


「麻由ちゃんはいつも考え方が真面目ね。だからわたしもちゃんと答えると、うちの家系みたいに代々神通力が発現しているのは遺伝とかの要素が強いと思うんだけど、古い記録では悟りの過程で身につく描写がされているし、修験道や密教では様々な修行を積んで神通力を身に付けたと言われているの。だから答えとしてはイエスね、麻由ちゃんにも可能性はあるわ」


その言葉を聞いた時、麻由はあまりの嬉しさに顔がにやけてしまうのを止められなかった。方法を碧が教えてくれるかはわからないが、それはこれから頑張って説得するしかない。


聞きたいことは聞いたし、そろそろあれを元の位置に返して家に帰ろう。

羂索をギュッと握り直し、奥の床の間に向かって進もうとする麻由。

その時なぜか自分の手元に碧の視線を強く感じた。

なんだろう、まさか、この持物に今までに無かった傷が付いていたとか。もしそうだったとしても麻由に責任追及するのはお門違いなのだが。


「麻由ちゃん、見かけによらず良い筋肉してるのね。あ、見かけっていうのは女子力高そうなっていう意味だから」


見られていたのは麻由の前腕部の方だった。

そういえば友梨奈を運ぶ時、袖が邪魔で腕まくりしていたので結構腕を露出していた。

「護身系の格闘技とか、筋トレとか始めたので。そのせいですかね?」

あの時友梨奈の身体を守ろうと決意した時、ただ麻由がそばに居るだけでは場合によっては守れないかもしれないと思った。

自分のポリシーとして口先だけの人間には絶対なりたくない。

そんな想いが麻由を突き動かして日々体を鍛えていた。


「あなたは本当に見かけ以上に中身がカッコいいわね」


麻由の手から羂索を取り、自ら奥の床の間に向かって行く碧。

その間羂索をまじまじと見つめている。

やはりさっきの視線は麻由の腕では無くて、羂索の状態が気になってたのではないだろうか……。

麻由の疑念と懸念はなかなか晴れなかった。

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