羂索の力
あかねは梨奈の後ろに立って額を梨奈の後頭部にあて、両手を梨奈の目の上に当てている。いつの間にか友梨奈が膝立ちになってるし、あかねの動きは凄く慣れた感じに見える。
これってもしかすると、お姉さんのリコとあかねが昔一緒にやっていた合体技なのかもしれない。
友梨奈は左手に重さを感じ、そっちに視線を送ると羂索が握られていた。この物質は霊体と同じような移動が出来るのか。
さすが観音菩薩の持物、超便利だ。これの携帯電話版もあれば良いのに。
いざという時、霊体の状態で救急車とか警察をすぐ呼べる。
半端な神通力を使えるだけのJCには人助けと言っても限界があるから、人助けのプロのヘルプは必要だ。
「梨奈ねーちゃん、集中してくれないと視界を同期出来ないよ」
頭の中であかねの不満そうな声。
いきなり集中とか同期とか言われても具体的に何をどうすればいいのかよく分からない。多分男の子を見つけようと思って前方に意識を集中しろっていうことだと思い、とりあえずやってみる。
その瞬間、目の前の視界が川の流れに沿って飛ぶ様に先に進んで行く感覚が来た。
まるで自分が鳥になって川の上を飛んでるみたいだ。
今風に表現すると、ドローンで撮っている映像をVRでリアル体験してる感じ?
少し先の濁流に野球帽のようなものが流れている。そこにズームインするが、その下には人間の身体はない。
流れに沿ってさらに飛翔するあかねのビジョン。波間に黒い頭の一部と思われる物体と小さい手が視える。
「おねーちゃん、視えた!」
「あかね、やるじゃん!!」
そういえば、生き霊の子の実体を見つけたのもあかねの手柄だった。
リコの想いもあるし、これからはもう少しあかねに優しくしよう。
人生の目標が『普通』でいること、そのために能力は出来るだけ使わない、という基本方針は譲れないけれど。
友梨奈は能力を使うことに対して初めて心が高揚していた。
それは自分と同じ境遇をこの親子に遭わせたくないという気持ちと新しい能力を使うことで自分の忌むべき能力に可能性を感じたことの両方が作用したのかもしれない。
羂索を投げ縄のようにぐるぐる振り回し、右足を高く上げ、大きく振りかぶって、思い切り腕を振り下ろす。
勢いよく先端が川沿いを飛んで、さっき見たイメージへ一直線に向かっていく。
羂索は最初の長さとは関係なく、どんどん先に伸びて行っている。
「行けー! 行けー!!」
あかねが興奮して叫ぶ声が頭に響く。
子供の体に羂索の先が届く一瞬前に、その子の体は流れに逆らってピタッと止まり、水面から少し浮き上がる。
そこに友梨奈が投げた羂索の先が綺麗に体に巻き付いた。
「やったー!! おねーちゃん早く引っ張ってあげて」
「簡単に言うなー! 今投げたのでもうなんか急に身体に力入んなく…なって…来てるんだから……」
意生身と呼ばれる霊体で移動した先でここまでの脱力感を感じるのは初めてだ。
羂索を使うのに相当霊力みたいなものを消費しているのかもしれない。
もう今すぐこの場で目を瞑って爆睡してしまいたいぐらいの状態だが、早く二人を岸に引き上げないとその場に繋ぎ止めておいてるだけでは、そのうち溺れてしまって全く意味がない。
「おりゃあああああーー!」
最後の気力と体力を振り絞り、掛け声の勢いで羂索と女性の腕を同時に引っ張りながら河岸を駆け上がろうとしたが、脚がもつれて前方によろよろとよろめき、最後は身体が前にもんどりうってゴロゴロと転がる力も使って引っ張る形になった。つか、正直に言ってコケた勢いで開脚前転したら物理的に偶然そうなった的なところだ。
要はこの間の火事の現場に続いて、見た目的に著しくカッコ悪い上に、スカート姿でやっちゃいけない動きになっていたが、この際結果さえ出てくれれば何だっていいと思った。
どれだけカッコ悪くても、どうせ意生身の自分が視える人は周りにはいない。
多分二人とも岸に上げられたはずだが、あかねとの映像リンクが切れてしまって、羂索の先がどうなったのか確認出来ない。
手元に引き上げたはずの女性は、寝転がった状態のまま上半身を起き上げる力がなく、自分の目で状態を見れない。
大の字に寝転がったまま、遠ざかる意識の中であかねが喜んで騒いでる声だけが頭の中で微かに聴こえる。
(そのリアクションはちゃんと助けられたってことね。良かった……、わたしの二の舞いが生まれなくて。嫌々でも能力使った甲斐はあったな。でもこれって……もしかすると能力を全部使い果たしたってやつかも……。やばい……元に戻れるの? わたし……)
「梨奈? 梨奈! 大丈夫? 梨奈―――!!」
(あぁ……遥か遠くから微かに麻由っぽい声が聴こえる…………)




