そんなの聞いてないよ!
「ちょっと梨奈、あかねちゃんを虐めないでよ」
想定外の麻由からの助け船が入って、友梨奈はそれ以上追及出来なくなってしまった。もうちょっとだったのに、あかね大好きの麻由の行動予測が甘かった。
「今の話だったら碧さんに直接聞けば良いじゃん。絶対一番詳しいよ」
麻由の言うことは至極真っ当でほんとおっしゃるとおりなのだが、友梨奈には木花家の能力の話題で碧が素直に教えてくれる気が全くしなかった、実際これまでも話を逸らして誤魔化されてきたことが何度もあったのだ。ただ友梨奈自身もあまり能力に関心が無く、真剣に知ろうとしていなかったからお互い様なのかもしれない。そもそも友梨奈は碧が子供の頃から苦手だった。麻由は最初から妙にリスペクトしているので、逆に話したくてしょうがないのだろう。
あの時ハッキリとしたあかねの自白は取れなかったけれど、リコとあかねが持物を持ち出して使おうとしていたことはほぼ間違いない。その前提で考えるとあかねが時々背負ってるリュックが超怪しい。n
ここでさっきのあかねへの呼びかけに繋がっていく。
「今日リュック持ってたわよね。その中にあの投げ縄みたいなやつ、羂索?が入ってるんじゃない? だったら早くわたしの左手に持たせて」
「……でも、でも、これ使ってあの日お姉ちゃんは帰って来なかった……」
泣きそうなあかねの声が頭の中で聴こえる。
(だからあの時正直に答えなかったし、持って来てても実際に出したりしなかったのか)
あかねが持物の件を言い淀んで隠した理由がようやくはっきりしたが、今はそれが目的ではなかった。
「あのさ、もうこの人掴んでるだけで力の限界近付いて来てるから、どっちにしろ選択肢ないのよ。いちかばちか残りの力で投げ縄みたいな羂索をビューっと投げて、子供をぐるぐるっと巻いて助けるしか」
自分で言っててあまりにも楽観的であまりにも嘘臭く聞こえてしまう。
いつもなら手を通じてその人の助かりたい気持ちが全面に伝わって来て、そのことが友梨奈の気を焦らせるのだが、今回は全く違うエネルギーが伝わってきている。子供を助けたい母親の強い気持ちが友梨奈に何でも出来ることをとにかくやってみようという気にさせているのかもしれない。
「絶対そんな状態で使っちゃ駄目だよ……霊体で移動した先で、もし霊力を全部使い果たすと、霊体が元の身体に戻れずに肉体的に死んじゃうか、霊体と身体が両方とも途中の亜空間みたいなとこに取り込まれて、この次元に戻れなくなっちゃう、って昔から言われてるんだよ!」
あかねの叫びが友梨奈のあたまの中に響いた。
(ちょ、なにそれ!? あかね、このタイミングでそんな重大なリスク事項突然言い出さないでよ)
そのリスクを冒して持物を使ったリコは帰って来れなかったのだ。あかねはそれを知っていたからこそ、持物のことを友梨奈に隠していた。
あかねが伝えた究極の選択みたいなリスク案件は、普通一番最初に能力を使う前に、本人の意思確認する場で告知すべき内容のはずだ。命の危険がありますが、あなたはそれでも能力を使いますか?って、いう感じか。散々使っちゃってから、後出しで言うのは反則以外の何ものでもない。消費者センターとかに訴えるべきレベルの話である。
そもそも人間が神に通じる力、神通力なんて使えること自体、話が怪しいとは思っていた。何かを犠牲にしない限り、そんなの与えられるわけはないし、人の身で使うリスクはかなり大きいはずだったのに……。『普通』を言い訳にして、自分の能力の詳細を知りたくなくて、ずっと現実逃避していたのだ。
既に両親やリコを失っているのは、きっとそういうことが原因だったはずなのに。
『普通』のJCならこんな時どんな選択をするのだろうか。こんなシチュエーションに追い込まれてること自体、既に『普通』じゃないのだけれど。
「あかね、いいからわたしに羂索ちょうだい。二人でこの人の子供助けるよ」
「二人で?」
「初めて使うのに適当に羂索投げても可能性低いけど、あなたの良く視える眼と良く聴こえる耳ならきっと男の子の位置を見つけ出せるでしょ?」
「うん、お姉ちゃん。わたし絶対見つけるよ!」
あかねはリュックから投げ縄の様なものを取り出すと友梨奈の左手に握らせた。
麻由はあかねが時々なぜかランドセルではなく、リュックを背負っていたのには気づいてはいたが、まさかあんなものが入っているとは想像すらしていなかった。
あかねの頬には涙の跡のようなものが付いていた。まさか友梨奈との交信で虐められたのだろうか。なにかキツいことをやれと命令されたとか。
もしそうだとしたら、たとえ命の恩人で親友の友梨奈だって許せない。なんか友梨奈は妙にあかねに厳しいところがある。
友梨奈が能力を使ってる最中は、すぐそばにいるのに何が起きてるかこっちからは全然分からないからもどかしいし、疎外感で一杯だ……。
しかも今回は新しい要素、持物というアイテムの登場回なのに。
あかねは移動した先の友梨奈と交信できるみたいで羨ましい。
向こうへ携帯を持ってってくれればいいのに、と思うが普段から携帯見ない人だからたとえ持ってても意味がない気もする。
今日もそのせいで友梨奈の家まで行って無駄足になったのだ。
そういえばそのことでは後で友梨奈にお説教をしなければ。
意生身を発動して意識が無い友梨奈の身体がピクリと反応した。




