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神通力少女は何がなんでも『普通』に生きたい。  作者: 宇宙 翔(そらかける)


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リュックの中の秘密

意識が戻ると激しく荒れ狂ったような速い流れの中にいて、どんな嵐の中の急流に来たのかと恐怖を感じた。

周りを見回すとコンクリートで固められた岸が見えて、その先には普通の住宅の家並が見える。どうやら住宅街の中の川か用水路のようだ。

川幅はせいぜい数メートルで狭いけれど、まるで台風か洪水の後のように、溢れんばかりに水かさが増していて流れが激しく急になっている。最近ありがちな線状降水帯で短時間に大雨が降った後なのかもしれない。

今はその急な流れの中、流されていた女性の手を掴んでいる状態だ。

周りから見たら、川を流されていた女性が突然何か目に見えないものに引っ張られたか、水中にある障害物にたまたま引っ掛かったかのように止まった不可思議な絵に見えているだろう。

この女性には友梨奈が見えていないから、なぜこんな激しい流れの中で急に止まったのか理解出来ない状態のはずだ。


「なに? 助けてくれてるのはもしかすると神様? お願い! 私はいいから代わりにあの子を助けて! 先に流されちゃってるの! お願い!」


今の自分の状態の謎解明よりそうきたか。母親ってこう言う思考をする生き物なのだろうか。小さい時に両親を亡くしている友梨奈にはよく分からない。

何にしても普通の女子中学生に人の命の選択なんて難しい判断を迫らないで欲しい。トロッコ問題ほどじゃないがきっと正解なんて無い。


(つか、母親を亡くした子供も絶対ダメ! それじゃわたしと同じになっちゃうよ!)


いくら頼まれても友梨奈の能力では先に流された子供には何も出来ない。きっともう意識が無く自分から助けを求めていないから、友梨奈には腕のビジョンが見えないのだろう。

これが悲念の力の限界だ。自分の左手を見つめる友梨奈。リコとあかねが言うように本当に自分に慈念の力があるんだろうか。でも今そんなことをいくら頭で考えてもしょうがない。麻由の言うとおりダメ元でも出来ることをやってみるだけ。


「あかね、どうせアレ持ってきてるんでしょ?」

返事が返ってこない。でもこのやり方での通話は一度試したから、あかねには友梨奈の声が聴こえているはずだ。

「あかね! 早くアレ、ちょうだい!」


アレがただの鑑賞用の骨董品じゃないことに気付いたのは、麻由とあかねの会話からだった。

麻由は木花家に伝わる能力に異常に関心を持ってるから、事あるごとにあかねに質問するのだ。まぁ友梨奈が能力について何も言わないから、諦めてあかねに聞きに行ったっていうのが正確な経緯ではある。正直なところ他人に説明出来るほど友梨奈は能力のことなんて良く知らないし、そもそも関心も全くない。自分が他の人と違うことを明確に理解するほど『普通』から遠ざかっていく気になってしまうから。

あの時も目をキラキラさせてあかねを見つめていた麻由。そんな時は彼女が質問攻めをする時だ。


「ねぇ、よくあかねちゃん達が言ってる『ひねんの力』ってどういう力なの?」

「漢字で書くと、ひねんの力って『悲念』って書いて」


落ちていた木の枝を拾って地面に『悲念』と二文字を書くあかね。


「助けを求めてる人を助けられる力なんだって。もう一つのじねんの力は『慈念』って書いて」


同じ様に地面に『慈念』と書く。


「人が助けを求めていなくても救える力なんだって。仏像でも右手を挙げているものと左手を挙げているものがあって、拝むものを救うものと、拝まなくても救うものの違いがあるんだって。大昔木花家には不空羂索観音の能力が授けられたって言い伝えられていて、同じように右手は悲念の手、左手は慈念の手と言って、それぞれの力が宿るとは言われてるんだけど……」

「だけど?……何? あかねちゃん?」

「助けを求めてもいない人を救えるような強力な力が発現した例は木花家の記録には残ってない……みたい」

「そっか、まぁ人は神様じゃないしね。相手が気付いてもいない未来の危機から助けても何にも感謝されないだろうし」

「でも自分の目前に死が迫っているのに気付いてない人も中にはいるから、あったら良いな……とは思う」

「うーーん、確かに。老衰以外は突然やってくるのが死だもんね。最近ではブレーキとアクセルを踏み間違えてるような車が、歩道や店舗に突っ込んでくるようなこともよく起きてるし。……でさ、梨奈は両方の能力を発揮して史上最強の能力者って言われてたんでしょ?」

「うん、それは昔わたしのお姉ちゃんがそう言ってた。多分親戚の人とかから聞いたんだと思うけど。わたしもお姉ちゃんも実際に視たわけじゃないから」

「それってさ、どういうことが出来たって言われてるの?」


あかねがちらちらと友梨奈の方を見て様子をうかがっている。きっと友梨奈が怒るのを警戒しているのだろう。別に誇張されたり変に歪められた噂には小さい頃から慣れっこだから、今さらそんなことであかねを怒ったりはしない。


「八本の腕を操って大勢の人を一度に助けたとか……」


(ちょっと待てい! いきなりわたし人外の存在になっちゃってるじゃん。それは不空羂索観音像の姿であって、人間がまんまそうなるわけじゃないでしょうに。変形型ロボットでもあまりの変化にびっくりだわ)


「なんか凄そうだけど、もうちょっとリアリティのある目撃談ない?」

「そうかな。有り得そうなやつだと思ったんだけど」

(……って、おい!) 

あかねが友梨奈をどう見てるのかがなんとなくわかってきた。だから過酷な状況の人助けを友梨奈のところに平然と持ってくるのだろう。一度厳しい教育的指導が必要だ。

「じゃあ、観音菩薩の持物(じもつ)を使って難しい状況を打開して多くの人を一度に助けた、って話は?」

「あかね、そっちを先に言いなさいよ!」

つい二人の会話に割って入ってしまった。今のあかねの話が超気になったこともあり、友梨奈は抑えが効かなかった。

(それってまさか)

「その持物って、うちの瞑想の間に置いてあるやつなんじゃない? あれってただの骨董品じゃなくて実用性があるってこと?」

「え、えっと、わかんないよ。実際に使われてるの見たことないし……」


急に会話に割り込んだのが原因だとしても、ちょっとあかねの狼狽え方が普通じゃない。視線を合わせないし、スカートの裾をギュッと握ってる動作も怪しい。

(てか、前にこの子わたしが持物を使えるとかどうとか言ってなかったっけ?)


「そんだけ知っててリコちゃんとあかねが実際に使ってみようとしないなんて有り得ないわよね? あれだけ人助けに一所懸命だったんだから」

下唇を噛んでぷるぷる震えてるあかね。よしよしもうすぐ落ちてゲロしそうだ。


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