リコの決意
「うーん、そもそもお茶もス◯バかサン◯かと思ってたらファミレスのドリンクバーだったし、最初から報酬設定低めなのよね……」
「もう! またそれ言う! デザートもう一個追加オーダーしていいから、早く続きをお願い」
(よっしゃ! まぁ元々ペース配分的にあと一、二個はいくつもりだったけど。さて、次の一個でどこまで話すかな)
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「わたしも霊関係は詳しくないですけど、恐らくわたし達の悲念の力であの霊を元に戻せるんじゃないかと思います」
「わたし達? ってリコちゃんとあかねちゃん?」
リコとあかねを交互に見る友梨奈。
「あかねは天耳通と千里眼で聴こえたり見えたりするだけなんで。梨奈ねーさんは小さい時から悲念の力だけじゃなく、強力な慈念の力も使ってたって聞いたことあります。いくつも六神通を発現してて、思考で成り立つ身体(意生身)を生み出して亜空間経由で長距離移動したり、不空羂索観音から与えられた羂索の能力も使えて、人の命をたくさん助けてたって。木花家歴代最強だったそうです」
「ほら!! やっぱり!!」
なぜか麻由が被せ気味に謎リアクション。
「あ、ごめん。話先に進めて」
しかも何の説明もなく、ただ話を途中で切られただけだった。この件は後で問い詰めることにして、報酬を先にもらっているから今はやむなく話を続けることにする。
この時も今も、友梨奈は小さい頃の話をされても困るだけだ。
「ごめん、わたし六歳ぐらいから七、八歳ぐらいまで記憶がなくて、よくわかんない」
「……今も視えてるんだから、能力は消えてないですよ、きっと」
意外とあっさりした反応だ。碧からこちらの事情を聞いていたのかもしれない。
「そうなのかな……でも、もしそんな能力があっても絶対使いたくないけど」
「な! 何でですか!?」
突然声を大きくするリコに、思わず後ずさる友梨奈。
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今ならわかる。
この時のリコの必死さは、単なる使命感だけではなく「自分の先の運命を視てしまった」ことによるものだ。
リコは天眼通――死生通とも呼ばれる、死と生を視る力を持っていた。
「天眼通って、遠くが視える千里眼のことじゃなかったっけ? あかねちゃんの能力の一つもそれでしょ?」
「うん、麻由の言う通りなんだけど、天眼通って死と生が視える能力でもあるのよ。おばあちゃんが言うには、空間で働くものと時空で働くものの性質の違いだとかなんとか」
「そこまで視えちゃうとなんか怖いね。Ignorance is bliss――知らぬが仏って言うけど、ほんとそうだと思う」
「まぁ、その仏の能力の神通力っていうのが、わたしたち木花家に発現してるって話なんだけどさ。わたしは別にそんなの要らないし、知りたくもない」
麻由が複雑な顔をしている。
友梨奈のことをその能力含めて全肯定推ししてくれている麻由には悪いけど、その気持ちは変わらない――ずっとただ「普通」でいたいのだ。
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リコの真剣な視線が友梨奈に痛いほど突き刺さる。
「羂索って、あらゆる命を漏らさず助けられる能力なんですよ。そんな貴重な能力を使わないなんて……」
「……だって、神様? 仏様? 観音様? 誰だかわからないけど、わたしのお父さんとお母さんは助けてくれなかったじゃん! なのに!……どうして!」
心の奥底に沈めてきた思いが、口から溢れた。
(わたしとわたしの家族に対してそんな薄情な存在のために、どうして他人を助けなきゃいけないの?)
能力を使うのをためらうのは、過去に失ったことで負った心の傷が深くまだ癒えていないからだろう。
「なんか……ごめん。リコちゃんに言ったわけじゃないから」
話を戻すように、努めて冷静に言葉を選ぶ。
「せっかく来てもらったけど、おばあちゃんに戻し方を聞くってあいつに言っちゃったし、あの場所にいる理由がわかるまでそのままにしてもらえる?」
「……生き霊って、早く身体に戻らないと肉体が死んじゃうんですよ。今日戻さないと明日は手遅れかもしれません。この世で命が一番大事だから、わたしが戻します」
ズンズンと歩き出すリコ。
友梨奈は慌ててその腕を掴んだが、突き進む彼女の足は止まらない。
「リコちゃん! お願いだから!」
声が出たのは、腕をいくら引いてもリコは全く止まらなかったからだ。
結局そのままずるずる引きずられ、生き霊の男の子がいつも居る場所まで来てしまった。
今はその場所にしゃがみ込んでいて、暗い雰囲気をまとったその姿は、生き霊と言うより地縛霊そのものだった。
自分の正体が霊だとわかったことでかなり落ち込んでいるのかもしれない。
リコが元の身体に戻してくれればもう毎朝煩わされることもないのに、なぜか友梨奈は「止めて!」って、繰り返し心の中で叫んでしまっていた。
「わたしがあなたを元の身体に戻しますから一緒に来てください」
生き霊の子の前に立って、少ししゃがんで自分の右手を差し出し、その腕を掴もうとするリコ。
怪訝な顔でその手の先にあるリコの顔を見上げる男の子。
後ろにいる友梨奈を見て、少し表情を緩め、差し出された手に対して自分の右手を上げる。
息を呑む友梨奈。




