あかねとリコ
「うん、最初からそう言ってるじゃん。なんで?」
「だって、さっき窓で似たような音が……」
「あぁ、そうね。まぁそういうこともあるんじゃない? 怪談話してたら蝋燭の火が突然消えた、とか、偶然起こった現象で話が盛り上がる、みたいなの」
「いや、その例え全然偶然っぽくなくて逆に怖いんだけど」
繰り返し窓の外に視線を送る麻由。
友梨奈はニヤリと笑おうとしたが、正確には笑みというより顔が引き攣った感じになっていた。
「これは怪談話なんかじゃないってば。先進めるね」
「霊が出てる時点で内容はともかく怪談系でしょ……」
まだ不安げな顔で窓の外を見つめる麻由。
相手が弱っている時は、要求を通すチャンスだ。
「麻由――、デザート無くなっちゃったから追加していい?」
すでにメニューを念入りにチェックしている友梨奈に、ジト目の麻由が鋭い視線を向ける。
「なんかさ、甘酸っぱい初恋の話を期待してたんだけど、全然そういう要素無くなくない?」
――ぎくっ!! ちなみにこの擬音は、友梨奈が好きな宮沢賢治も使っていたくらい歴史ある表現だ。
元々、お昼に麻由を追い払うために勢いで口走ったセリフが発端で、苦し紛れに思い出したエピソードだから……。
そういう要素がちゃんとあったかどうか、今となっては実は自信がない。
むしろ、何かこっ恥ずかしい要素があったせいで、自分で記憶を封印していたのかもしれない。
「いやいや、何言ってんのよ中瀬さん。これからが盛り上がってくるのよ」
「梨奈がそういう変な話し方する時って、大抵何かを誤魔化そうとしてる時だよね」
付き合いはまだ浅いはずなのに、コミュ力モンスターの麻由にはすっかりこちらの傾向を掴まれてる感がある。
テーブルに肘をつき、さらに鋭いジト目で友梨奈を見つめる麻由。
「そんな目してると綺麗な顔が台無しだよ」と言いたいところだが、それでも綺麗なのは悔しい。
「そうそう! この後、従姉妹のあかねもお姉ちゃんのリコと一緒に出てくるんだから」
「え? あかねちゃん? 当時何歳なんだっけ? 八歳? うわーー絶対お人形レベルの可愛さだよね。梨奈がエキュラスエルラン使えたらなーー、見たいなーー、当時のあかねちゃん」
「なによ、そのエキュラスなんとかって。わたしは普通の中学生だってーの」
まぁ麻由の気を逸らせたから結果オーライだ。
さっきも言ったが、友梨奈が疫病神扱いしているあかねのことを、麻由は大好きなのだ。
一人っ子の麻由にとって、あかねは理想の妹代わりなのかもしれない。
さて、無事に追加オーダーもできたし、続きを話そう。
⸻
一日の授業が終わり、生徒玄関から校門に向かう友梨奈。
その視界に、校門にもたれかかるあいつの姿が入る。
向こうも気づいたらしく、一直線に駆け寄ってきた。
「明日も来て邪魔してやるからな」
「……本当ガキなんだから……。流石にもう自分でも気付いたんでしょ?」
そいつは無言のまま小さく頷く。さっきの強がりは、ショックを隠すための虚勢だったのだろう。
「うちのおばあちゃんに聞いてみるわよ、あなたの帰り方。あの人、霊とか心霊現象に妙に詳しいから」
「ほんとか?」
「いつまでも付きまとわれるとうざいしね。自分では霊になった原因、何か覚えてないの?」
「分からない。気付いたらこの知らない街に立ってて……その前の記憶も無い」
ため息が出る。流石に碧でも、手掛かりがなければ難しいだろう。
「名前は? あ、ちなみにわたしは木花友梨奈、小五」
「……それも思い出せない。中学に行った記憶は無いから、多分小学生かな……」
近辺で小学生が関わる事件や事故があれば話題になっているはずだ。
そうでないなら、少し離れた街の子かもしれない。
「じゃあ、家帰って聞いてくるから、今日はもうついてこないで。明日の朝、今朝会った場所でね」
家に向かって歩き始めたが、今までの言動からどうにも信用できない。
「うちのおばあちゃんに見つかると、強制的に成仏させられるかもしれないから、本当についてこないでよ」
言いながら振り返ると、あいつは校門から一歩も動いていなかった。
やはり自分の正体を自覚してショックだったんだろう。
まぁ誰もいない校門に向かって一人で色々話しかけてる友梨奈を憐れみの目で遠巻きに見てる大人の人や小学生達に気付いた時の自分もかなりショックだったのだが……。
こういう言動の積み重ねで友梨奈は『普通』から遠ざかっていったのだった。
⸻
いつもの通学路を歩いていると、家の少し手前に姉妹らしき二人が立っていた。
従姉妹の木花リコとあかねだ。
「梨奈ねーさん、久しぶりです」
この子はあかねの姉、リコ。年齢の割に落ち着いて礼儀正しく、顔は今のあかねにそっくりだが、可愛いよりも綺麗寄りかもしれない。
「わーー、リコちゃん久しぶり! 近くに住んでるのになかなか会わなかったね。あかねちゃんは見るたびに大きくなってる」
「お母さんがあの家に近づいちゃダメだって。木花家の特殊な能力を嫌ってるんです」
(おぉ、リコちゃんのお母さんとは気が合うわ〜。なのに最近じゃわたしがあかねを悪の道に引き込んでる悪者扱いになってるんだけど!)
「……そうなんだ。……っても、わたしもそこらへんよく分かってないけどね」
「梨奈ねーさんは視えてるじゃないですか。さっき会ってたの、霊ですよね」
「! そうなのよ。本人には自覚も記憶もないみたいで、困ってて」
「あかねが千里眼の能力持ってて、私より良く視えるんです。そばに行けば実体が視えないかと思って来たんです」
「凄い! 教えて! あの子どうなってるの?」
この二人の助けで、問題が解決できるかもしれない――そう思った。
「あの人、生き霊だと思いますけど、あかねにもまだ実体ははっきり視えないみたいです」
「そう、なんだ……。今のところ何も手掛かりなくて困ってるんだよね」
二杯目のジンジャーエールをストローで吸いながら、麻由が口を開く。
「相変わらず恋バナっぽさは全くないけど、なんか面白くなってきたーー。あかねちゃん活躍しそうだし」
「なんか素直に喜べない評価ね……。この辺で止めとこうかな」
「いやいや、ちょっと待ってよ。今晩続きが気になって眠れなくなっちゃうから〜。ちゃんと最後まで話して〜〜」




