神通力女子 meets 地縛霊男子
朝の柔らかな陽射しがカーテンの隙間から漏れて、友梨奈の顔を優しく照らしている。
外は爽やかな晴れの日みたいだが、朝から頭が重い。きっと昨日能力を使ったせいだ。
神通力ってどういう仕組みかは全然わからないが、絶対健康に良くない気がする。
業務災害で補償して欲しいぐらいだが、逆に業務になんて絶対したくないし、そもそもどこの組織から依頼されている業務かも分からないから泣き寝入りするしかないだろう。
小学生に言うのもなんだけど、どうせ持ってくるなら今度からお互いWINWINの話にして欲しい。
頭が重いぐらいで碧が休ませてくれるはずはなく、ノロノロとベッドから起き上がり学校へ行く準備を始める友梨奈。
その日の放課後、友梨奈と麻由の二人が並んで立っているのは全国展開しているイタリアンのファミレスチェーン店の入り口の前。
不満げな顔で隣の麻由の横顔を睨んでる友梨奈。
「ちょっと麻由! 普通御礼って言ったらオシャレなカフェでお茶とスイーツでしょ!」
「お、梨奈その表情いい! ちゃんと怒ってる感情伝わって来るよ」
友梨奈は個人的にはコスパが高いこの店が好きだが、今回は特別な労働の報酬だし、メインはスイーツの頭で来ているから、明らかに選択が違うと思う。
「正直ちょっと今月ピンチなのよ。いい話だったら後でまた追加で奢るからさ」
友梨奈の背中を押してファミレスの店内に進んで行く麻由。
いい話だったら、とはまだ麻由は話の内容に疑念を持っているのが発言にモロに出ていた。
そのファミレスの店内。
友梨奈と麻由が向かい合って窓際のテーブルに座っている。
「さてと、なんか正直ちょっとテンション低いけど、亡霊さんとの思い出話を始めるね。あれはわたしが小五の時で……」
友梨奈の話の内容に入る前に、なぜこんな展開になっているのか説明が必要だろう。
発端は、その日いつものように昼休みに友梨奈のところにやって来た麻由から。
友梨奈についてある噂を聞きつけ、それを本人に直接確かめたかったらしい。
その噂とは友梨奈が中一の時、同じクラスの運動神経抜群の男子と良い感じだった、という本人もびっくりの内容だった。
ちなみにM中では一年から二年に進む時にクラス替えがあるため、今はその男子は別のクラスだ。
どこをどう間違えばあんな奴と良い感じだった説が出るのか、友梨奈には全く理解不能だった。
その男子とは小学校が一緒で、霊が視える友梨奈を散々からかってた連中の一人だった。
中学になってもまだしつこく絡んでくるので、ある日怒りが臨界点を突破して、体育の授業の100メートル走の計測でそいつに勝負を挑み、ぶっちぎりで勝ってやった、という話で、どこにも色っぽい要素が無い。
走るのが速かったり、運動神経の良さだけでモテていたタイプだったので、その後女子からの株は大暴落したようでザマァって感じだ。
「その男子が梨奈にずっと絡んでた理由は大体分かるけど……」
ニヤニヤして友梨奈を見つめる麻由。
「にしても全然『普通』を目指してる人の所業じゃ無いよね。運動神経自慢の男子に勝つとか。何やってんだか」
痛いところを突かれ黙り込む友梨奈。
「その様子だとその男子とは何も進展してないよね。そもそもそんなんじゃ、梨奈って初恋もまだなんじゃ」
今度はすぐに反論する友梨奈。
「中学にもなって初恋まだのわけないでしょ! わたしの初恋はね、小五で出会った……亡霊さん、かな。その前にもきっと、絶対あったと思うけど記憶が無いからさ……」
麻由が目を丸くして口をポカンと開けて友梨奈を見つめている。
「え? 何それ? ぼうれい?」
興奮して少しボリュームが上がった麻由の声に周りの生徒達が反応し、耳をそばだてている。
「小学校の時は、まだ他人が見えないものが自分に見えてるってあんまり自覚してなくてさ……。そのせいで例の地縛霊の一件で酷い目に遭ったんだけど。小五の頃、朝登校途中の道で出会った子と知り合いになって、その子がね……」
周りの様子に気付いた麻由が右手を突き出して、友梨奈を制止した。
「ちょっと待って! なんか本当にあった話で意外に面白くなりそうだから、帰りにお茶でもしない?」
(なんか聞きようによってはわたしの話がいつもでまかせで、しかもつまらない前提な言い方にも聞こえるんだけど! これって被害妄想なのかな)
「なんか言い方が微妙に引っかかるけど……まぁいいわ。もちろんスイーツ付きで麻由の奢りよね?」
「くっ、しょうがないわね……」
麻由の悔しそうな顔を見れたし、お茶とスイーツもゲットしたから、麻由の奇襲から始まった戦いは友梨奈の逆転勝利と言えるだろう。
その時ちょうど午後の始業のチャイムが鳴った。
ってことで、今二人はファミレスにいて、友梨奈がその初恋話を披露し始めたシーンに戻る。
季節は夏が来る少し前ぐらいだった。日差しが結構強くなってきていて、青い空がもうかなり高かったのを覚えている。
「え、そんな昔の空の様子なんてよく覚えてるねって? 何で空の記憶があるのかってのは後で分かるって」
あの朝、いつものように自分の家の前の通学路を学校に向かって歩いていた。当時通学の距離は片道一キロぐらいあったので小学生にとっては結構な距離だ。
しかもランドセル背負ってたし。
え? いつも一人で通学してたのかって?
そうね、なんかうちって近所の中で怪しい家に思われてて基本周りに避けられてたから、集団登校で近所の子とか同級生が誘いに来たことはなかったかな。
なに? その哀れみの目止めてよ、別に当時もぼっちは嫌いじゃなかったんだから。
えーと、どこまでいったっけ? もう、麻由〜序盤から話の腰をバッキバキに折らないでよ。
いつもの通学路を歩いていたら前方の道の端に同い年か少し上ぐらいに見える男の子がぼーーっと立っていた。
視た瞬間こいつヤバい、と直感的に思って、思わず視線を逸らして俯いた。
その当時は木花家の能力なんか無いものと思い込もうとしてて、他人と自分に違いなんてない、わたしは『普通』だって、自分に言い聞かせていた。
とはいえ、この時は、これは人間じゃない、となにか本能的に警告音が鳴った感覚だった。
でも今思えば瞳が紅く染まって能力が発動していたのかもしれない。
俯いたまま足早に通り過ぎようとしたのだけれど、最悪なことにちょうど真横に来た時そいつは友梨奈に近づいてきた。
「さっき、目が合ったよね?」
友梨奈の耳元で、と言ってもまだそこそこ間隔はあったため、友梨奈がそれぐらい近い、と感じた距離ということだが、そいつは話しかけてきた。他人に話しかけられることだけでも陰キャの友梨奈には相当な恐怖とストレスだったが、今回はそれに加えて得体の知れない相手ときている。
もう心臓はテンポ190台の曲並みに高速でバクバク鳴って、答えたらヤバい、答えたらどこか怖いところに連れていかれてしまう、と思い無言のままひたすら早歩きで逃げようとした。
でもそいつは同じように早歩きで追いかけてきた。
俯いた友梨奈に聞こえるのは友梨奈の靴音だけで、そいつの足音は全然聞こえてこない。こいつはもう絶対ヤバいって確信を持ち、全力の必死だった。
「無視すんなよ。この辺りの人、みんな俺を無視すんだよな。ここら辺初めてで全然道わかんなくてさ。携帯も今持ってないし」
(いやいや、霊は携帯なんて持てないし)
なおも必死に早歩きで逃げる友梨奈。
「ねぇ、頼むよーー、ねぇってば!」
「お前顔も可愛くない上に性格悪いなんて最悪」
何度もしつこい上に、超失礼な発言に友梨奈の頭の中で何かがキレる音がした。
「あーー、うるさい! 学校遅れちゃうから邪魔しないで」




