友梨奈 x あかね + 麻由 =?
終業のベルが鳴り始めるやいなや(英語の授業で習った ASAP ってやつを早速使ってみた)、教室を飛び出して校門に向かう友梨奈。
友達宣言の後、麻由は毎日のように下校時間に友梨奈のクラスまで一緒に帰る誘いに来ていたのだが、今日はなんとかその前に教室を出られたらしい。
あの派手キャラに迎えに来られるとクラス内での注目度が半端ない。そのせいで「普通」でいるどころか、クラス内では最近一番の注目株になってしまっている。
ベルダッシュも多少目立つ行動なので友梨奈的には好ましくないのだが、背に腹はかえられない。
玄関までは無事に着いて第一関門は突破。
急いで下足に履き替えて玄関から校門に向かう。
とにかく校内で一緒にいるところを見られずに済めば、ある程度は目標達成だ。
ゴールの校門が近づいて来た時、最近見慣れた小さい姿が視界に入って来た。
今日は学校帰りではないのか、ランドセルではなく黄色のリュックを背負っている。
(あかねのやつ……もう来るなって何度も言ってるのに)
あの子が友梨奈のところに来る理由は一つしかない。
それは友梨奈が一番関わりたくない、能力絡みだ。
「梨奈ねーちゃん、大変、もう時間が無いの」
あかねの「時間が無い」発言は今後定番になっていくのだが、この時の友梨奈にはまだ知る由はなかった。
「あかね〜! こないだもう来るなって言った――」
「わぁーー、その子が従姉妹のあかねちゃん? お人形みたいで可愛い〜〜」
友梨奈の言葉は、後ろから来た麻由の大きな声で遮られてしまった。
(前門の虎、後門の狼とはこのことか……。ちょうど校門だし)
「梨奈ぁ、あかねちゃんと約束してたんなら事前に教えてよ。わたしも会いたかったんだから」
そもそも麻由があかねの存在を知ったのはいつなのだろう。
友梨奈の家に来た時、碧と二人で話して色々情報を得たとか。
他校から情報を集めて友梨奈を特定して来たぐらいだから、従姉妹のあかねの存在もその時調査済みだったのかもしれない。
いや、もしかすると友梨奈の独り言回想を聞いた時、その内容にあかねが登場していた可能性もある。
いずれにしても、そこから会いたい気になられても、そんなサイレントな要望は把握出来っこない。
「わたし中瀬麻由。友梨奈お姉さんの親友。よろしくね、あかねちゃん」
なんかもう親しげにあかねと会話している麻由。しかもいつのまにか友梨奈と麻由の関係は、友達から親友設定に格上げになっている。
自分には一生縁がないと思っていた「親友」という人間関係。嬉しさと恥ずかしさと戸惑いと色んな感情が同時に湧き起こり、友梨奈は頭から煙が出そうだった。
そのせいか、つい自ら墓穴を掘るような言葉を発してしまう友梨奈。
「ほら、あかね、どこから声は聴こえて来るの? 時間がないんでしょ?」
⸻
あかねに連れて来られたのは学校から歩いて二十分ぐらいの大きな川の河川敷。
その川にかかる橋のコンクリートの橋脚のそばだった。
「どうしよ、梨奈ねーちゃん、『助けて』って言ってる子供の声がどんどん小さくなってるの」
焦った表情で友梨奈を紅い瞳で見つめるあかね。
この肌がピリピリする感じ……あの橋脚のそばがエンカウントポイントに違いない。
ここまで迷いもなく最短ルートで道案内したところを見ると、あかねは市内のエンカウントポイントの位置を普段から把握しているのだろう。
まずはとにかくそこまで行って腕のビジョンを見つけないと、友梨奈には何も出来ない。
助けを求める腕のビジョンはどこでも視えるわけではなく、あかねとリコが以前からエンカウントポイントと呼んでいる空間だけだ。
友梨奈に理屈はよくわからないが、亜空間を通して助けを求める人のいる地点と繋がっている場所らしい。
あかねはそこを通して人が助けを呼ぶ声やビジョンを遠くから把握できる。
空間に歪みがある影響なのか、木花家の人間はそこに近づくと肌にピリピリした感じとか、言葉に出来ない感覚的な違和感がしたりして、その空間がそばにあることがなんとなくわかる。
土手を下りて橋脚のほうに向かって走る、あかね、麻由、友梨奈。
近づくにつれて、青白い子供の腕らしきイメージが空間に出現しているのが視えた。
助けを求めて手を伸ばしている、というよりは、力なくぶらりと垂れ下がっている感じだ。
「あぁ、やっぱり、もう時間が無い……」
あかねがそのビジョンを視て暗い声で呟いた。
コンクリート製の橋脚の周りは砂利が敷き詰められた広い空地になっている。
その橋脚のそばの歪んだ空間から突き出た腕のイメージに引き寄せられるように、ふらふらと歩を進めていく友梨奈。
「お主もその辺りに何か感じるのか?」
突然、橋脚の陰から年配の男の声。
腕のイメージに精神を集中していた友梨奈は、聞き慣れない声でいきなり現実に戻されて、しばらく何が起きたか把握出来なかった。
気付いたら、麻由が友梨奈の前に身体を入れて立ちはだかっている。
その背中越しに、橋脚の陰からゆっくり歩み出てくる人影が見えた――。




