プロローグ〜第1話 地縛霊で自爆
プロローグ
N市、某古寺。
修学旅行の生徒で賑わう境内の奥、朱色の柱と土壁に囲まれた本堂の奥で、
不空羂索観音像が静かに佇んでいる。
眼が三つ、腕が八本の異形の姿。
それぞれの腕には、羂索、錫杖、剣……
人ならざる姿で、人を救うために在る像。
その像とともに、かつては「神通力」と呼ばれる超常の力があると信じられていた。
現代、それらは空想や信仰の中の話だと誰もが思っている。
だが――
その観音像を、紅い瞳で見つめる少女がいた。
第一話 地縛霊で自爆
わたし木花友梨奈、14歳、F市M中学2年生。
両親を小さい時に事故で亡くし、その後は母方のおばあちゃんに引き取られ、今も一緒に住んでいる。
周りから想像されるほど今の生活が凄く不幸なわけじゃないけれど、周りの子と同じように両親と一緒に『普通』の家族生活を送りたかった。
その願望のせいか、子供の頃からいつも『普通』の子でいようとしていた。
過去に失ったものはもう取り戻せないけれど、自分が『普通』でいればこの先普通の幸せを掴めるような気がしてたから。
その願いは小学四年生の時に最初に躓いてしまった。
あれはクラス全員で課外授業に出かけた時だ。
交差点で停止中のバスの窓から、わたしは中央分離帯に座り込む青白い顔をした若い女の人を見つけた。
何であんなところに……
そう思って、わたしはとっさに隣の席の子に声をかけた。
「ねえ、あの人危なくない?」
通路側の席に座っていたその子は、わたしの指差す先を覗き込んで、
しばらく無言になった。
「……友梨奈ちゃん、そこ、誰もいないよ」
そこでようやく、わたしは気づいた。
怯えた表情で友梨奈を見つめる隣の席の子。
その後は目的地に着くまで二人とも無言だった。
学校への帰途、友梨奈は席に一人ぼっちになった。
翌日、わたしの隣の席は空いていた。
クラスの女子は誰も理由を説明しなかったし、わたしも聞かなかった。
男子は亡霊女とか、ゲゲゲの友梨奈とかトイレの友梨奈さんとか言ってからかって来てもっと最悪だった。
今思えばあの女性はあの場所に未練がある地縛霊だったのだろう。
ちなみに子供の頃は、「地縛」を「自爆」だと思っていて、
何が爆発するんだろうと本気で悩んでいた。
それからわたしは決めた。
次からは、何も見なかったことにする。
だが友梨奈にとって霊が視えるぐらいのことが他人にバレても実は大した問題ではなかった。
他にもっと他人には視えないものが彼女には視えていた。
そのことが周りに知られたら、世間から一体どんな扱いを受けるのか友梨奈には全く想像出来なかった。
少なくとも平穏に普通の子として日々を過ごすことは出来なくなるのは間違いない。
自分の身に起こることを想像出来ない恐怖心から、本人的には普段から慎重に慎重を重ね、バレないように行動して来たつもりだった。
だが『普通』路線から完全に脱線する事態は、そんな努力を超越して、まるで天災のようにある日前触れも無く突然やって来た。
そう、あの子が友梨奈の前に現れたのだ。




