第8話 アプリ・タイマーで足軽や指南役を募集
タイマー、謎のアプリ。
なぜ戦国時代でスキマバイトのアプリが動くのか?
なぜスマホのバッテリーがなくならないのか?
もうこれは神様的な存在が何かしていると考えるしかない。
そもそも俺が戦国時代におっさんのまま転生したのもおかしいのだ。
俺は『なぜ?』という思考を銀河系の向こうに投げ捨てた。
そんなことを考えるより、さっさと兵士を十人雇って鍛えないと、俺の首が危険だ。
それも物理的に!
侍屋敷の自室で一人、スマホを持ちタイマーアプリを操作する。
(よし! 募集も出来るぞ!)
俺はグッと拳を握る。
タイマーで人材募集も可能だった。
これで採用の手間が省け、スピードアップできる。
さて募集するのは兵士――足軽だ。
足軽募集は、どんなことを書けば良いのだろう?
他家の募集文章を見てみると、『経験者優遇』、『未経験可』、『アットホームな職場』といったよく見る言葉が並んでいる。
(あまり奇をてらわない方が良いのかな?)
とにかく書いてみる。
■ 足軽募集 ■
・働きやすいアットホームな職場です。
・経験者優遇。
・食事支給。
何か違う気がする……。
俺が作る浅見隊は、殿のお眼鏡に適うように鍛えるのだ。
厳しい訓練が待っている。
少なくともアットホームは違うんじゃないか?
それに戦場に出るのであれば、強い部隊が必要だ。
強い部隊を作るには、強い人を集めなくてはならない。
よし!
もっと激しく!
もっと強めの言葉で募集しよう!
あーでもない、こーでもないと悩んで決定!
■ 【目指せ! 一番!】足軽募集 ■
・織田家中で一番の精鋭部隊を作ります!
・日々の稽古は厳しいですが、食事は腹一杯食べられます。
・戦で大手柄を狙います。
・恩賞はガッツリ出します。
・経験不問。
・経歴不問。
・かぶき者歓迎。
・体力に自信のある人歓迎。
もう、開き直って『稽古が厳しい』とマイナス要素を正直に書いた。
かぶき者というのは、派手な格好を好む破天荒キャラのこと。
殿が俺のことを『傾く』と言っていたのと同じ意味だ。
経歴は不問にした。
ぶっちゃけ品行方正なヤツより、乱暴者であっても戦で活躍してくれる強いヤツが欲しい。
何でも良いから強いヤツ集まれ~! のノリだ。
面接日を三日後、場所は織田家清洲城にして、決定ボタンを押す。
これ、どうやって周知されるんだろう?
本当に人が来るのだろうか?
不安はあるが、俺が織田家に仕官するきっかけになったのはタイマーだ。
タイマーを信じてみよう。
さて、足軽募集はオーケーだが、他にも雇わなければならない人材がある。
とりあえず必要なのは、指南役と下女だ。
指南役――つまり戦闘教官だな。
池田恒興殿と話したのだが、池田殿としては俺に近侍の仕事を続けて欲しいそうだ。
俺としても収入が必要なので、近侍の仕事は続けたい。
ということは、俺は近侍の仕事をしながら兵士を鍛えなくてはならない。
朝起きてランニングや筋トレは、俺が指導するとして、俺が近侍として仕事をする間に兵士の面倒を見る人が必要だ。
兵士に槍や刀の振り方を教える必要もあるし、集団戦闘の訓練も必要だ。
経験のない俺には無理。
そこで指南役を雇う。
ポチポチとタイマーに入力をして決定ボタンを押す。
面接は随時、場所は織田家清洲城だ。
■ 指南役募集 ■
・槍や刀の扱い方を足軽に教えていただきます。
・十人の部隊に集団戦闘の訓練をしていただきます。
・戦では与力として、お力添えをお願いします。
・とにかく強い人希望です。
続いて下女を募集する。
下女というのは、飯炊きなど雑用をしてくれる世話係のことだ。
池田殿に申し渡されたのだが、浅見隊の食事は俺が面倒を見る、つまり俺の自腹だ。
材料、薪、食事の支度は、俺が面倒を見ろと。
幸い兵士が寝泊まりする足軽長屋は使ってオーケー。
食事の支度をする厨――炊事場――も使ってオーケー。
つまり人、食料、消耗品は自分で用意しろということだ。
とにかく自分の部隊を持つということは、費用が掛かるのだなと実感する。
■ 下女募集 ■
・一日三回食事の支度をお願いします。
・十人の足軽部隊の生活周りを面倒見ていただきます。
・経験者歓迎。
下女は、足軽連中を蹴り飛ばせるような人が良い。
若い娘さんでは、ちょっと心配だ。
食事は一日三食にする。
戦国時代は一日二食、朝食と遅めの昼食だけなのだが、肉体改造を考えると一日三食バランス良く食べさせたい。
何より俺が三食食べたいのだ。
他にも雇った方が良い人材はいる。
例えば、馬のくつわ取りであるとか、旗持ちであるとか、人を沢山雇うと一部隊として格好がつく。
だが、そんな潤沢な予算はない!
馬なんてとても買えない!
なにせ自腹なのだ!
とにかく十人の部隊をこしらえて、鍛えて、実働するところまで持っていく。
武将としての体裁を整えるのは、次のステップだ。
「さて、どんな人が来るかな?」
俺はワクワクしながらスマホの電源を切って葛籠に仕舞った。