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第7話 一本立ちの時

 俺と池田恒興殿は、殿の前を辞して来た。


 いきなり殿から、『兵を雇え、鍛えろ』と命じられたのだ。

 どうしたものだろうか?


 俺は武将の経験はないし、転生前の現代日本では派遣とスキマバイトで働いてきた。

 人に使われる側だったのだ。

 そんな俺がいきなり人を使う側になる……。


 俺はどうすれば良いのかわからず混乱してしまっている。

 これは『信長の無茶振り』ってヤツだ。


 こういう困った時は上司に相談。

 俺は池田恒興殿を頼ることにした。

 年下だが頼りになる男。

 常に冷静沈着、安定の池田恒興殿である。


「池田殿。少々ご相談をよろしいでしょうか?」


「もちろん」


 近侍の控えの間で、俺は池田殿と向かい合って座った。


「池田殿……、その……、突然殿から兵を雇え、鍛えろと命じられて驚いているのですが……」


 俺は正直に自分の気持ちを伝える。

 池田殿はウンウンと腕を組んでうなずく。


「浅見殿のお気持ち、お察しいたします。我が殿は突然予想もしなかったことをお命じになりますからな」


 池田殿は、どことなく嬉しそうだ。

 ああ、池田殿も殿に色々命じられてきたのだろう。

 仲間が増えて嬉しいのだろう。


「兵というと足軽でしょうか?」


「そうですな。侍を雇っても良いですが、高こうなりますから足軽がよろしいでしょう」


「なるほど」


 つまり武士階級の者ではなく、農民出身者を十人雇えということだ。

 人件費、コストは重要だからな。


「しかし、なぜ、突然殿はそれがしにお命じになったのでしょう?」


「殿のお考えを察するに……。浅見殿のお話が面白かったので、実際に見てみたくなったのでしょう」


「は?」


 またも素で答えてしまった。

 面白かったから、見てみたくなった?

 戦国大名が、そんなことで良いのか?


「すると殿は……、それがしの披瀝ひれきした肉体鍛錬法を面白く思い、鍛えたらどうなるか見てみたい。だから、やってみろ……と?」


「左様! 左様! ワハハハハ」


 池田殿は愉快そうに笑い出した。

 いや、笑いごとじゃないんだが。


 命じた人は織田信長だぞ!

 これで『失敗しました』なんて言おうものなら、バッサリ斬られるかもしれない。

 俺の頭の中に危険な言葉が浮かんだ。


『命がけの筋トレ』


「はああぁぁぁぁ~」


 俺は深く長くため息をついた。


「ワハハ! 浅見殿でも、そんな風にため息をつかれることがあるのか! ワハハ!」


「池田殿! 笑いごとではありませんぞ。命じられたそれがしは、命がけで遂行しなくてはならないのですぞ!」


「スマン、スマン。それにしても、ムフフ……」


 何か池田殿の笑いのツボに入ってしまったらしい。


「しかし、兵を雇えと言われても、それがしは領地がありません。どうしたものか……」


「まあ、その辺りも含めて『上手くやれ』という殿のお考えでしょう」


 なるほど。

 俺は試されているのか。

 俺に武将の適性があるかどうか見極めるためのテストでもあるのだろう。


 ならばやるだけだ!

 目指せ! 戦国武将! だからな!


「わかり申した。それがし邁進いたします!」


「励まれよ。兵十人を雇うのですから、浅見殿も何かと物入りになりますぞ」


「え? 物入りとは?」


 何かと物入り?

 金がかかると?

 どういうこと?


「足軽十人に扶持ふちを与え、武器や鎧をそろえるのですから、相当な出費ですぞ」


 ええっ!?

 全部俺が面倒を見るの!?


「あの……池田殿……。兵は織田家で雇って、それがしに預けていただくのでは?」


「違いますぞ。浅見殿が直接雇うのです」


「それは……つまり……それがし浅見家の兵士……浅見隊を作れというお話なのでしょうか?」


「そうです。十人と規模は小さいですが、浅見殿も武将の仲間入りですな! おめでとうございます!」


「あ、ありがとうございます」


 うーむ。武将の仲間入りか……。

 上手い具合におだてられて、殿と池田殿の手のひらで転がされている気がするが……。

 だが、まあ、上手くやるかどうかは、俺次第だ。


 それに、遅かれ早かれ、こういう一本立ちの時は来るのだ。

 殿が『爽太! やってみせよ!』と言うならば、期待に応えなければ!


 俺は池田殿と細々したことを打ち合わせてから、侍屋敷の自室へ向かった。

 清洲城の中を歩きながら考える。


 さて、どうするか?

 駿河屋喜兵衛さんに頼んで人を集めるか?

 昔は口入れ屋という人材派遣業があったと聞いたことがある。

 専門家に依頼するか?


 いや、待てよ……!

 良い手がある!


 俺は自室に戻って、大事な物を保管している葛籠つづらを開けた。

 スマートフォンを取り出し電源を入れる。


「タイマーがあるじゃないか!」

※扶持:お給料のことです。

※葛籠:つるで編んだ蓋付きのカゴのことです。

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