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第6話 アロハシャツ献上と筋トレ問答

 ――十日後。


 戦国時代に来て殿――織田信長に仕えて二十日経った。

 今日は駿河屋喜兵衛さんを連れて、殿にアロハシャツの献上である。


 清洲城の広間で、駿河屋喜兵衛は緊張の面持ち、殿はアロハシャツに興味津々でご機嫌だ。


「お殿様。浅見様と開発したアロハシャツを献上いたします」


 駿河屋喜兵衛が信長専用のアロハシャツを差し出す。

 俺がアロハシャツを受け取り、恭しく殿に差し出す。


 殿はニッコニコでアロハシャツを受け取り、大きく広げた。

 派手好きな殿に合わせた朱色の生地に金糸で織田家の家紋織田木瓜が刺繍されている。


「おお! 爽太が羽織っている着物じゃな! 駿河屋! 大義である!」


「はは~」


「恒興! 着る!」


 殿は池田恒興殿に命じると、ガバッと諸肌脱いだ。

 貴人にあるまじき行動だが、殿は奇人の範疇に入るので問題ない。

 これが通常運転なのだ。


 俺も池田殿も動揺せず、殿にアロハシャツを着させる。

 サッと素早く行動する。

 殿と付き合うコツ、その一だ。


「おお! 良いのう! 軽やかだのう!」


「アロハシャツは暑い夏に着る服でございます」


「うむ。これなら涼しく過ごせそうじゃ!」


 駿河屋喜兵衛さんが解説を入れる。

 殿は両手を広げ子供のように喜んでいる。


 こういう無邪気なところがあるから、殿は憎めない。

 池田殿も笑顔で殿を見ている。


「どうじゃ? 恒興! 爽太!」


「よくお似合いでございます」


「華やかで大層良うございます」


「うむ! だが、この季節に着るには、ちと寒いの。爽太のように羽織るとしようか」


「良きご思案」


 池田殿と俺がサッと殿に近づき着替えを手伝う。

 俺と池田殿で、殿の着物を直し、アロハシャツを羽織らせる。


「喜兵衛! お濃のところに寄れ! お濃のアロハを作れ!」


「承ってございまする」


 お濃とは、殿のご正室であるお濃の方のことだ。

 マムシ斎藤道三の娘である。

 濃姫様、帰蝶様とも呼ばれる。


 殿との間に子供はいないが、二人の関係は良好だ。

 殿はいつもお濃の方のことを気にかけている。


 つまりペアルック。

 やるな! 殿!


 俺は殿が上機嫌なことを確認して、駿河屋喜兵衛さんの援護射撃を行う。


「殿。褒美として駿河屋喜兵衛に専売のお許しを与えてはいかがでしょうか?」


「おお! そうじゃな! 恒興!」


「かしこまりました」


 殿と池田恒興殿はツーカーの仲である。

 細かく指示しないでも、池田殿は殿の意を汲んで動く。

 池田殿が右筆に指示を出し、専売許可証がその場で書き上げられた。


 殿が目を通し、バッと俺に専売許可書を差し出す。

 俺は素早く膝行して専売許可書を受け取り、駿河屋喜兵衛さんに専売許可書を恭しく手渡す。


「殿からの褒美でござる」


「ありがたき幸せにございまする」


 これでアロハシャツは、織田領内で駿河屋喜兵衛さんの専売だ。

 売れれば利益独占。

 そして一割が俺の懐に入る。


 織田家の殿様と奥方様がお持ちとなれば、織田家の家臣や織田家出入りの商人も欲しがるはず。

 まとまった額になるだろう。


「大義! また、何か作ったら持て! 下がれ! 爽太は残れ! 話がある!」


 話?

 何だろうか?


 駿河屋喜兵衛さんが退室したので、俺が殿の御前に座る。

 殿と池田恒興殿に対面して、ちょっと緊張する。


 殿が口を開いた。


「爽太。何やら朝早くから走っておるようだが、何をしているのだ?」


 怒っている口調ではない。

 どうやら本当に不思議に思っているようだ。


「体を鍛えております」


 殿は池田殿と目を見合わせ、首を傾げた。


「槍や刀の稽古に不満があるのか?」


「いえ、そうではございません。槍、刀、弓、乗馬、いずれも体を動かします。ならばまず体を鍛えれば、いずれも上達が早くなると思案したのです」


「道理である」


 殿は納得して深くうなずいた。


 殿は『尾張の大うつけ』などと呼ばれ、理不尽な暴君と思われがちだ。


 だが、違う。

 せっかちで理屈に合わないことを嫌うだけだ。

 きちんと理由を説明すれば、今回のように『道理である』と納得する。


 逆に何か進言をして理由が説明出来ないと、殿は烈火の如く怒る。


 口を開く前に、考えを整理しておく。

 殿とのお付き合いのコツ、その二だ。


「爽太は、どのように体を鍛えているのだ?」


「お見せいたします。ご免」


 俺はその場で腕立てやスクワットをしながら、どこの筋肉が鍛えられるかを説明した。

 戦国時代に筋トレなんて概念はない。

 やって見せた方が早いのだ。


 殿は俺の説明を聞きながら、腕を動かして筋肉を確認しながら考えている。


「爽太。理屈はわかるが、腕の筋や足の筋を鍛えるのは、槍や刀の稽古だけでも良いのではないか? 槍や刀を振れば、腕の筋や足の筋を使うぞ」


「殿のおっしゃることはごもっともです。なれど同じ動作では、同じ筋肉、同じ部位しか鍛えられません。満遍なく体を鍛えることで、様々な動きに対応出来るようになる……と思案した次第です」


「ふーむ……。なるほどのう……」


「殿。筋肉は裏切りません」


「で、あるか」


 殿は完全に納得はしていない。

 半信半疑といったところだろう。


 俺は体幹の重要性や筋肉が連動するから使わない筋肉もある程度鍛えた方が良いと補足説明を行う。


「恒興。どうか?」


「浅見殿がいう体幹というのは重要に思えます。刀を振るう、弓を引く。体の軸がブレてはなりません」


「道理である」


 殿は顎に手をあて考えている。

 俺は殿がご下問されるのをジッと待つ。

 殿が考えている間は、下手に話しかけない。

 殿とのお付き合いするコツ、その三だ。


「爽太。走るのはなぜか?」


「持久力、つまり持続する力を養うためでござる。戦場に移動する。戦場で走る。戦場で槍を振るう。長い時間動き続けなければなりません」


「それが持久力か! 道理である! 他にはないのか?」


 殿の好奇心が頭をもたげた。

 俺はここぞと食事について話す。


「体を鍛えるには食事が重要です。それがしは、豆を食すようにしております。豆にはタンパク質が豊富に含まれているのです」


「タンパク質?」


「タンパク質は筋肉を作る材料です。魚の肉や鳥の肉、獣の肉もタンパク質を豊富に含んでおります。しかし、魚鳥の肉は手軽に手に入りませんし、獣に肉は忌避されますので、大豆を食べております」


「ふーむ……肉か……。猪鍋は山の近くで食したことがある。美味であった。地元の猟師は力がつくと話しておったわ」


「はい。南蛮人は牛の肉を食べます。南蛮人はタンパク質を摂るので体も大きく力が強うございます」


「なるほど。材料を腹に入れるから肉がついて力が出るのか。道理である」


 殿は理解が早い。

 それに肉食に忌避感が薄い。


 一方池田恒興殿は、『南蛮人は牛を食べる』と俺が話した時に、ちょっと嫌そうな 顔をした。

 戦国時代は宗教上の理由で四つ足を食べるのはNGなのだ。


「ふーむ……筋肉……持久力……体を鍛え豆を食うか……」


 殿は天井を見上げて、また考え出した。


 俺としては嬉しい。

 俺が話したのは現代人なら誰でも知っているレベルの筋トレ知識だ。

 だが、この戦国時代では未知の理論。

 ひょっとしたら怪しく聞こえたかもしれない。


 だが、殿は真面目に受け止めて何か考えてくれる。

 こういう度量の広いところがあるから、お仕えのしがいのあるのだ。


 俺と池田殿はジッと待つ。


 殿は手に持った扇子を片手で開いたり閉じたりしている。

 パチリ、パチリと扇子の音が大広間に響く。


「うむ! 試してみれば良い!」


 殿の考えがまとまったようだ。

 何か独りで納得している。


 殿が俺の方を向いた。


「爽太! 兵士を十人雇え! 鍛えよ!」


「ファ!?」


 思わず素で返事してしまった。

 兵士を十人雇え!?

 鍛えろ!?


 えっ!?

 どういうこと!?

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