第34話 天下の道
俺は『天下の道』と言い切った。
広間を見回すと、殿と池田恒興殿は感動に打ち震えている。
丹羽長秀殿は、『なにいぃ!?』という驚いた表情だ。
柴田勝家殿、佐久間信盛殿ら主戦派は、余程意表を突かれたのか『ふぁっ!?』と目をむいている。
そして議論をしていた林秀貞殿は――。
「なっ!? なに!? 天下!? 天下ぁあぁあぁあ!? はぁあぁあぁあぁあぁあ!?」
キョドっていた。
無視だな。話を出来そうにない。
俺は林殿を気にせず、殿に意見を言上した。
「殿! 美濃を取れば天下が見えます! 美濃の先は南近江。南近江の先は京にございますぞ!」
「京か……!」
殿が嬉しそうにつぶやく。
「今川義元は上洛を企図いたしました。京を目指したのです。殿は義元よりも京に近いのです。京へ進み天下に静謐をもたらすのは、殿をおいて他にありません!」
「天下静謐……!」
殿は熱病にうなされるように言葉をこぼした。
俺のそばに座る池田恒興殿が俺に問う。
「浅見殿、天下静謐……とは……?」
「世は戦国乱世にございます。各地で戦が起り、民百姓は困窮しております。尾張は政が良く民は食うに困りませんが、貧しい国では親が子を売り、子が年老いた親を口減らしで殺す。阿鼻叫喚の無間地獄となっております。四海を安んじ、民を慰撫し、この地獄を終わらせること……。これ! 即ち! 天下静謐! 我ら織田家が目指すべき道! 天下の道にございまする!」
俺は一気に言い切った。
自分でもよくこれだけ話せたなと思う。
半分は前世日本で読んだ本や歴史ゲームの受け売りだが、残りの半分は俺の正直な気持ちだ。
この前の戦で思い知った。
一緒に飯を食った仲間がバタバタ死んでいくのは間違っている。
三十人いた浅見隊隊員のうち、生き残ったのは八人だけ……。
二十二人の未来が桶狭間で途絶えたのだ。
もしも、あいつらが生きていたらどうだろう?
結婚して子供を作って、畑を耕して野菜を作って……。
平凡だが穏やかな暮らしをして、一生を終えていただろう。
もちろん桶狭間の戦に備えて浅見隊を結成し鍛えたので、義元の首級を上げたことで目的は達した。
だが、仲間を失い俺の胸中は苦しい。
苦しいのだ!
俺に出来ることは……。
織田信長に力を貸して、一刻も早くこの戦国乱世を終らせることだ。
平凡でも良い。
みんなが笑って過ごせる日本にしたい。
俺の思いがこもった言葉に、殿が立ち上がった。
「爽太! よう申した! 天下の道! しっかと聞いたぞ!」
俺は両手を床について深々と頭を下げた。
殿! 戦国を終らせましょう!





