第3話
トタン屋根から差し込む正午の日差しが、格納庫の中をうっすらと照らしている。
広々とした格納庫には、新型の全翼型爆撃機が並べられ、整備士やパイロットたちで賑わっている。
エレノアは形の良い眉をひそめ、自分の機体と、その翼に乗った搭乗員たちを睨みつけた。
発砲音が、格納庫内に反響している。
彼女の機体では、搭乗員であるパイロットと三名の整備士が、射撃訓練を行っていた。
射撃訓練自体は、咎められるべき行為ではない。弾薬の消費を問題にしないのであれば、むしろ積極的に行うべきだ。
格納庫という場所も、もちろん、高価な機体に流れ弾が当たるリスクはあるため射撃訓練に適しているとは言い難いが、格納庫で銃撃戦をせねばならない状況は十分にあり得るので、非合理的ではない。
だが彼らは、爆撃機の翼の下__増加燃料タンクを取り付ける場所__にぶら下がって、小銃を構えていたのだ。
構えている小銃は空軍で採用されているボルトアクション方式の旧式小銃で、胡桃材の銃床と黒く塗られた鋼の銃身には、年季が入っている。
構える動作を見るに、よく訓練しているのだろう。
命中率も高いようで、的として置かれているアルミ缶には、いくつも穴が穿たれていた。
確かに、整備士やパイロットなどの後方兵種が陸戦能力を持つ意味は大きい。
だが、増加燃料タンクの場所にぶら下がって射撃訓練を行う意味は皆無だ。悪ふざけ以外の何物でもないだろう。
エレノアは大きくため息をついて、夢中で射撃訓練を行う搭乗員たちに近づく。
だがエレノアが怒号を飛ばす前に、武装親衛隊の、よく響く軍靴の音に気付いた搭乗員たちは、素早く『射撃訓練』を中断してエレノアの前に整列した。
「自分はパイロットのミハロ曹長です。よろしくお願いします」
横一列に並んだ整備士の前に立った若いパイロットが、敬礼しながらそう言う。
その表情は、少し気まずそうだった。
「……そうか。私は親衛隊少尉のエレノアだ。早速だが、今日からその射撃訓練は中止するように。銃が撃ちたいなら基地の射撃場へ行け」
エレノアの命令に、パイロットと整備士たちは露骨に不満そうな様子になる。
「返事は!」
エレノアは呆れを感じながら、そう怒号を飛ばした。
「はい!」
パイロットと整備士たちは、即座に敬礼する。
「とりあえず機内を案内しろ。それと、この機体は我々の命よりも、民どもの命よりも高価な代物だ。決してぞんざいに扱うことのないように」
「了解しました!」
ミハロはエレノアに機内を案内し、整備士たちは一斉に散らばる。
かくして、搭乗員たちと機長の出会いは最悪の形に終わった。