ダンジョンダイブ2
トール君ちに報告に来ている。
「金貨が出たんですか!? 引きが良いですね!」
と、言われたので運が良かったらしい。
金貨の価値イメージは日本円で100万円くらいの感じなので一回のダイブとして考えるならいい確かに稼ぎだ。金貨より高い龍貨と言うのがあるみたいだが龍の鱗で作られた貨幣で希少過ぎて貴族か豪商以外は使う機会が無いし見る事すら無いそうだ。そう言えば持って帰ったモーたんの斧は【魔鉄】と言う部類でそこそこ貴重らしいが今の所使い道が無いのでいつもお世話になっているトール工房に寄付した。
「ミノタウロスとぶん殴りあったんですか!漢ですね(笑)」
単眼系の魔物は物理耐性が高くて魔法じゃないと結構キツいらしい。なのでメイン火力が物理のみのパーティーはかなり苦戦するし、かと言ってゴリマッチョのミノタウロス相手に魔法職だけのパーティーだと近づかれたらほぼ終わりだ。
「これってギルドに報告とかするの?」
「いえ、換金したい場合は持っていけば買い取ってくれますけど報告義務は特に無いです」
「モンスターの素材とか需要って多い?」
「20階未満のモンスターは恐らく血液以外は買取不可だと思いますよ、逆に20階以降の素材は基本的に全て買い取りOKだったはずです」
「なるほど、となると20階到達が当面の目標かな」
「多分その調子だとすぐ行けそうですね」
うん、ぶっちゃけ俺もそんな気がする。自分で言うのも何だがあの戦いぶりはどっちがモンスターかと思える程圧倒していた。ただ、20階のボスはミノタウロスと違って魔法耐性が極端に高いらしく更に回復も持っているボスなので物理攻撃でないとかなりしんどいらしい。
「だったらミノタウロスより楽ですね(笑)」
「じゃあ30階を目標にしようかな(笑)」
とは言ったものの、何かしら魔法での攻撃手段を用意する段階なのかもしれない。
取り敢えずダンジョン探索に備えて丸1日良よく食べよく寝て準備を整えた。翌日、ダンジョンダイブの日はウキウキしてどうしても早起きになってしまう。身支度を整え宿屋を後にしダンジョンまでの片道1時間半、このもどかしい時間がたまらなく好きだった。ダンジョンへ到着していつもの串肉を食べ、ワープゲートは向かう。見た感じ今はただの壁に埋まった石のモニュメントだが、手で触れると途端に波打つ水面のように変わる。温度や感触はないがその水面に飛び込む際、絶対にしなくてもいいと思うけど思わず息を止めてしまう。水面を潜るとボスを倒した後のあの部屋へ到着。
「めっちゃ便利だなほんと。月々4〜5万であの毎朝の満員電車を回避できるなら俺は払うね」
それほどの、いやそれ以上の価値を感じさせる異世界の逸品だ。さて、体力満タン状態で10階以降を始められるお陰でハイペースで攻略が出来ている。現在18階、10階以降は単眼タイプのモンスターは減って明らかに両眼タイプが増えた。両眼は基本的に魔法耐性が高いそうだが今の別に苦戦は強いられていない、がしかし明らかにぶっ叩く回数は増えているので固くなってるのは確実だ。
———20階ボス部屋前———
割とスンナリ来れたが一旦装備チェックも兼ねて休憩を挟む。10分程休んですぐに入室。
10階の演出と同じで部屋もほぼ同じたが中央に鎮座するモンスターの顔は長い角を生やした山羊頭の細マッチョだった。木製の長いロッドを持ち下半身だけローブを羽織っているバフォメットだ。すぐに魔法攻撃に入り呪文も無く光の矢を数本放って来た。
それを横に走り避けながら近づき振りかぶると地面から突然炎の壁が現れて思わず怯んでしまい距離をとる。
「モーたんより厄介だな」
初めて魔法と対峙したのでどれ程のダメージか想像が付かない分どうしても腰が引けてしまう、かと言って実験的にまともに攻撃を受けてみる気は流石に無い。さっきの炎の壁も炭火焼き肉の七輪程度の熱量を感じたのでなかなかの熱さだと思う。もしアレ顔を突っ込むとかなり危ないが、しかし炎の壁発動後に数秒ディレイタイムっぽい硬直があったのを見逃さなかった。こうやって経験を積み、傾向と対策が見えてくる攻略は本当に楽しい。
「さて、仕切り直しといこうか」
鴉丸を構えながらジリジリ近づくとバフォメットは距離を取りたがる。やはりコイツは近距離をイヤがっているのが分かる。
「そっかそっか」 思わずニヤついてしまったが、覚悟が決まった。防刃&耐火製特別マントのフードを被りクラウチングスタートの様に腰をかがめる。一気にスタートし距離を詰めるとやはり炎の壁を出して来たが顔だけガードしてお構い無しに炎に突っ込む。かなりの熱さはあったが安心と信頼のトール印のマントがいい仕事をしてくれたお陰で被害は前髪だけで済みそうだ。炎の壁はその役割を果たせず俺の体を易々と倒してしまったが、流石に視界は遮られていたので距離感は少し失っていた。炎の壁を超えると直ぐバフォメットがいたので鴉丸で切り付ける間がなくそのまま体当たり&頭突きになってしまいバフォメットは思いの外吹っ飛んだが、頭突きは流石に俺も痛かったので足が止まった。
「痛つ〜っっ!」
「メ゛ェェェェ!」
メーたんも痛かった様で怒りをあらわに声をあげている。そして立ちあがろうとしているその横っ面に思いっきりヤクザキックを入れた。 ボグッ!
鈍い音と共にあり得ない方向に首が曲がっている山羊頭に鴉丸が襲いかかる。
「ふぅ〜」
マントが無ければもう少し手こずっていたと思うが、装備も立派な戦力だしタイムアタックでも無いからまぁ別にいいだろう。と、そんな事よりも!
「バーフォメット♪ バフォメット♪(フワフワッw)夢のバフォメット宝ぁ〜」
ジャパネットソングをモジりながらご機嫌で宝箱に向かう。この宝箱を開ける時は本当に楽しい
「さて、ご開帳〜あ…」
ミミックや罠を考慮せずまた油断して開けてしまった。はい反省反省!次回から次回から!
中には銀貨数枚と真っ赤な魔石だった。本来魔石は透明なので初めてだな…もしかして宝石かも知れないとなると金貨より高いのか?取り敢えず実力で得た報酬を懐に入れ奥の階段を降りるとワープゲートの部屋に到着、本当はもう少し潜りたいが本日の探索はこれで切り上げる事にした。と言うのもこの宝石を早くトール君に見てもらいたい。
「あ、お疲れ様れ様です〜てか早いですね!」
「まだフィジカルだけで乗り切れる脳筋プレイだからね、特にこの山羊頭は物理が弱点っぽかったし、で、この宝石がドロップしたんだけどこれってどうなの?」
「え〜!ツいてますね〜(笑)色付きは属性付きの魔石です。普通の魔石の10倍は高いですよ」
「へ〜!赤色って事は火?」
「はい、ただ闇属性のロキさんに使ってもいつもの10倍効果があるだけで、炎属性の獲得にはならないです」
ん〜残念。まぁでも無駄になる訳じゃ無いから良しとしよう。
「しっかし綺麗な色の魔石だねコレ、吸い込まれそうな…」
そう言えば前に闇雲で色々実験した時に火が黒く染まったのを思い出した。個体、液体、気体に続き第四の形態プラズマである炎すら暗く染めてしまう闇属性。ふと思い付いて思ってしまい、そうするともう試さずにはいられなくなる。
「これさ、一回闇雲で染めてみたいんだけど」
「それは…大変興味深いですね」
そうと決まれば即実行という事で手頃な瓶に火魔石を入れ闇雲に当ててみるとやはり黒く着色された。ただこの魔石はよく見ると闇雲を吸収している様な感じで黒い煙が吸い込まれている様な感じだ。普通はしばらくすると元の色に戻るのにこの魔石はずっと黒いままだった。
「こんな反応は初めて見ました…もしかして属性変化とか?」
武器に付けたり魔力を流してみたり色々試したが結果が得られ無かったので取り敢えず自分に使う事にした。使い方はいたって簡単、飲み込むだけだ。
「どうですか!?」
「ん、いや特に…」
魔力が上がるのは間違いないんだけど、マンガみたいな【ドクン!】とかは無い。栄養ドリンクを飲んだ時みたいな「何と無く効いてる?」って感じなのでイマイチ実感が湧かない。手から黒い炎を出して蛇王が使う炎殺拳とか使いたかったな〜。と考えていたら突然「ボッ」手から黒い炎が出た。
「でででで出たよ出たよ!」
「ちょちょちょっ!外出ましょ外!」
2人して慌てて外に出る、魔力を消費している感じはあるので間違いなく闇魔法が発動しているのはわかる。が効果がイマイチわからない。紙や木に燃え移る訳でも無いし、トール君が勇気を出して触ってみたが温度すら無いし飛ばす事も出来ない。ただひたすら掌が燃えている以外何も無い。エフェクトは明らかに炎だが結局その効果までは不明のままだった。ま、地道に検証を重ねるしかないが今は新たな魔法の獲得を喜んでおこうと思う。
翌日、黒い炎の検証をバフォメットのメーたんに付き合って貰おうと20階にワープしたが逆からはボス部屋に入れない仕掛けだった。そう言えばボス部屋に入ると扉は開きっぱなしで倒すと扉は閉まっていた。なので途中参加の加勢やボスからの逃亡も出来るようになっているが、倒した後は戻れなくしてる、多分楽して宝箱周回をさせないよう工夫されているのだろう。なのでやむなく先へ進むことにした。
———地下25階層———
20階以降はわりとバラエティーに富んだモンスター編成で、単眼と両眼モンスターはお互いを差別することなく仲良くペアを組んでいたりする。これは物理耐性と魔法耐性が手を組んでいると言う構図で脳筋では無くちゃんと役割を把握している戦い方をしてくる。で、メーたんの代わりにコイツらに検証に付き合ってもらっている所だ。黒い炎を出しながら鴉丸で攻撃を当てると切り傷にしばらく炎が纏わりついて黒くなり炎が消える。ただ別に熱そうでも無いしスリップダメージが入ってるワケでも無さそうだし効果が理解出来ない。倒した後も傷口は10分以上ずっと黒いままでますます意味がわからないでいた。
———30階ボス部屋———
さすが30階のボスともなると今までとまるで違っていた。バフォメットとミノタウロスの2匹+羊頭の盾持ちが槍を構えていて合計4匹。いきなり難易度がグンッと上がってないか?正直ちょっと気圧されそうになったが、ここまで鎌鼬を使っていなかったことを思い出し自信を取り戻す。鴉丸を左手に持ち替え右手には鎌鼬を。対するはタンク2匹とアタッカー、後ろには回復もこなすウィザードか、バランス良いねお前ら。羊頭が盾を構え槍を突き出して前進して来た。この構えはなかなか威圧感があって迎え撃ちにくいな…ファランクスってやられると凄い嫌な戦法なんだと改めて実感した。これほんとにやりにくい、槍の刃先さえ無ければどうと言う事はないんだけど…
「先にアレを落とすか」
槍の刃先を狙って半身に構え、ある程度近くに来ると喉と脚を同時に突いて来たのでマントの防刃性を信じて背中で受けるもちょっとだけ痛かった。痛みを我慢しそのまま翻して槍をスパンスパンと切り落とす。すると盾が左右に分かれて真ん中から振りかぶったミノタウロスが現れた。
「危っ…!」
危うくミノタウロスの斧は躱せたがちょっとバカに出来ない連携だ、マジで難易度調整おかしく無いか?と、思ったらすぐに魔法の矢が飛んできてコレもマントで塞がざるを得なかった。
「ダメだ、こんなんじゃマントが持たない」
そう思いすぐに俺も迎え撃つ。
「暗遁の術 闇雲」 ブワッ
すぐに暗黒の煙は辺りを黒く染め上げるとモンスター達に少し戸惑いが見られる、それを見て俺はマントをばたつかせワザと黒煙を巻き上げるように走る。視界がかなり悪くなるがここで「暗視」を発動させると視界が白黒に切り替わりクリアに見える。前衛3匹はオタついているがバフォメットは何やら呪文を唱え構えている。何かやらかそうしているみたいなので闇雲を纏った手で集中させバフォメットの口を触ると真っ黒に変色し闇雲のサイレント効果で詠唱が出来なくなった。何とか闇雲の隙間から見えた俺を発見したミノタウロスが攻撃を仕掛けて来たのでカウンターに鴉丸で腕を切りつけたが浅かった、一旦距離を取り立て直す。闇雲は巻き上げなければ胸の高さ程なので俺はしゃがんで煙の中に隠れる。その隙をみてバフォメットがミノタウロスの腕を治療している様だが…何故かミノタウロスの腕のキズは塞がらないでいた、よく見ると黒い炎を纏って切りつけた箇所だ。
「なるほどね…回復不可っぽいな」
確か聖属性と相性が悪いんだっけか、これならパーティー崩しのセオリーであるクレリックから叩く戦法を取らなくて済むトリッキーな攻め方が出来る。コレだけでかなりのアドバンテージだろう。初見ならパニック間違いなしだ。
「となると順番は関係ねぇか」
中腰のまま闇雲に紛れ敵に接近し炎を纏って切り付ける。しばらくすると闇雲が晴れ、そこには全滅した草食獣頭のパーティーが横たわっていた。武器の金属部分と魔石を回収してお楽しみの宝箱タイム。
「さてさて〜どんなお宝…おっと、罠とミミックね」
3度目はいい加減学んだ。慎重に宝箱を開けてみると金貨1枚、ショートソード、バックラーシールド、兜、茶色の魔石が入っていた。
「おぉ!いっぱい入ってる!もしかして倒した人数分って事か!?」
使う使わないは別にしてそれらをリュックに入れ持ち帰る。ウキウキの足取りでさっきの戦闘を振り返りながらご機嫌で帰路を急ぐ。
「黒い炎か〜、名前何にしようかな〜♪」
俺はこの充足感に満たされた帰りの時間が大好きだ。