ダンジョンダイブ
「娼館や風俗も有るにはあるんですが…」
大変だ。ここに来て大問題が発生した・・・
この異世界でも風俗は普通にあるしむしろ盛んな方らしい。がしかし地球人の俺とトール君には大きな問題がある。
アソコのデカさだ。一般人男性の普通ど真ん中サイズよりやや控えめと言えるこの俺でさえ多分相当な大きさらしい。トール君も至って普通だがそれでも風俗界隈では【デスワーム】と恐れられ全て断られたそうだ。カレナリエルさんと今でこそ何とか出来てはいるが、最初はサイズが合わずしばらく拡張しないと出来なかったらしい。拡張って…
「生物は本来なら交尾を早く済ませれるオスほど優秀なんです。もし交尾中敵に襲われた場合オスとメス2匹同時に襲われる事になります。なので本来は犬の様に完全包茎状態から挿入、すると強い刺激で即射精で終わり!これが本来の交尾です」
地球人類は生物ピラミッドのてっぺんだから交尾を快楽や遊びの一環として進歩させて来たと。ただこの異世界の人類はピラミッドの真ん中くらいだから交尾がまだまだ動物的なので完全包茎で細くて小さいのがデフォルトらしい。ちなみにほぼ10秒以内で終わる速さらしい。
「マジかぁ…」
何かもの凄く落ち込んでしまう、凄く悲しい、心の底からトール君が羨ましく思える。結局男ってこれが凄く大切な事なんだね。食欲性欲睡眠欲の3代欲求を満たしてこその至福か。仕方ない、性欲はスポーツとか運動、この異世界で言うと暴力で発散しよう!もう前向きに考えよう! ・・・とは言ったものの、一応念の為に娼館に行ってみた。万が一って事もあるしね。がしかし、Jr.を見た瞬間まるでオーガにでも出会ったかの様に恐怖に慄いていた。これはもうダメかもわからんね。
装備一式の微調整も終わり具合を確かめる為に装着してみた。全身黒コーデのフード付きマントの上には革鎧と革ホルスター各種、ブーツとグローブと小手。この異世界には無いデザインで完全に地球産のアサシンスタイルだった。
「トール君、マジありがとう」
彼のセンスは完全に俺の中ニ心のど真ん中を貫いてくる。鎌鼬は右腰にぶら下がっていてマントの中に隠れている。コンパウンドボウは少し小型化&折りたたみ式にしてもらって普段は背負える様にしてもらった。これで装備は完璧、テンションが天井知らずに上がって行く。
「さてと、行きますか」
いざ、ダンジョンへ!
相変わらずここのダンジョン入り口付近は肉を焼くいい匂いをさせていて、ここを訪れる者はこの匂いを無視してダンジョンに行く事は不可能だろう。もちろん俺もその内の1人で入り口を眺めながらいつもの串肉を頬張っている。
「マッピングが地味にめんどいんだよな〜」
唯一と言っていい程これだけは苦手だった、探索自体は楽しいがマッピング作業はあんまり楽しくないのが正直な所だ。値段は張るが自動でマッピングしてくれるマジックアイテムとかもあるらしい、その内必ず手に入れたい。前回は3階層まで行ったが主にレベリングと言うか魔石集めに夢中だったので探索と言うよりは完全に戦闘が目的だったが今回は是非宝箱にお会いしたいものだ。とは言え魔石抜き取り用のカランビットナイフもカスタマイズしてもらい殴れるようナックルを付けた。また魔石の取り出しをしやすくする為に反りを少し大きく刃も長くしてテコの原理を使いやすい様に改良してもらった。鎌鼬を振り回し続けるのは割と疲れてしまうので普段はこっちの鴉丸と名付けたカランビットナイフの使用が多くなるだろう。名前の由来はいつも死体をほじくって魔石を取り出していたので。いや、決して中ニ病だから名前を付けているわけでは無いぞ断じて!魔石を取り込ませた武器は成長するし何より愛着を持つと魔力の馴染み方も違うらしいから愛用武器には必ず名前を付けるのが習わしなんだと。ま、普通に店で買っただけの武器にはそこまでしないらしいが。
装備も新たに意気揚々と新エリアへ足を運ぶ。既に1〜3階は完全に網羅しているのでお宝がない事は把握している、取り敢えず今回は早々に4階層を目指す事にした。道中何度か敵とエンカウントしたが鴉丸はかなり良い仕事をしてくれた。やはり普段使いをこっちにして大正解だったな。カランビットナイフの格闘術や殺人術はよく知らないが解体術ならかなり詳しい。腱や骨の断裂、切り落とし、剥離など、カニの食べ方と同じで肉体構造を把握すれば簡単に捌けてしまう。おっと、丁度はぐれゴブリンが出て来たからやってみよう。敵が右手で武器を振りかぶっている。俺の胸を目掛けて振り下ろすが圧倒的腕力の差を活かして左手で受け止め捻り上げて逆関節を決める。肘を上へ捻りあげられて思わず背伸びをしてしまうゴブリン、そのまま右手の鴉丸でゴブリンの肘を下から上へサクッと、ほらもう腕が落ちた。こんな感じでササッと2〜3回繰り返すと完全無力化の完成。こんな感じで前回見つけておいた4階層の階段まで一気に進む。
———四階層———
4階〜5階は冒険者が1番多いらしい。適度に稼げて適度に弱い敵、まだまだ浅い層なので宝箱は滅多に出ないが死人も滅多に出ない、安全にギリギリ稼げるラインらしい。
「となると目指すは6階以降だな」
さっきのゴブリンでわかる様に雑魚相手に俺つえーの無双はもう飽きてしまっているのだ。武器、装備、俺自身に魔石を取り込み前回よりさらにパワーアップしているので正直この辺りの階層はチュートリアルをやっている気分で、ぶっちゃけゴブリン程度ならテキトーに蹴っても殴っても何処かしら骨が折れるので抜刀するまでも無い。しかもこのマントはテントやグローブに使われている防刃繊維も混ぜ込んでもらった代物なのでズカズカ正面から歩いて行って斬りつけられても全く問題ない。むしろ敵の刃が届く前に前蹴りだけで文字通りケリが付く。もはや苦戦する事すら困難!
「敗北を知りたい…」
まぁこうやって調子に乗る遊びはするが決して油断はしていない。とにかく足早に6階層を目指す、モンスターと交戦中の4人組の真ん中を通る。モンスターも冒険者達も一斉に俺を見る。戦闘中など意に介さず進み通り過ぎる際に牙の生えた牛の横っ面を殴り飛ばしそのまま足早に消える。側から見ればさぞ強者に映るだろうなと想像しニヤニヤしながらその場を立ち去る。そんな事を数回繰り返し6階層へ到着。とは言え5階とそんなに変わらなかったのですぐに7階へ降りた。
「パターンがわかってきたぞ」
下の階層に降りる階段は大体反対側に位置してると言う法則を見つけた。しばらく探索していると見たことのない新しいモンスターにエンカウントした。アメリカバイソンくらいに毛むくじゃら、サイの様な一本の角で牙まで生えている。しかしその顔は異形で単眼、つまり大きな一つ目だった。裂けた口と同じくらいの大きさの単眼はかなり不気味でゾクっとした。大きさは牛そのものなので割と迫力がある。鎌鼬を出すか迷う所だが段階的に試してみようと思う。最初の攻撃は予想通り角を活かした突進だった。ただこう言う突進はボアで散々経験済みだった。慣れてしまえば当たる寸前半歩引き半身になって躱しざまに鴉丸を当てておくだけでセルフで切れてくれる。このサイクロプスサイ?サイサイクロプス?もボアと同じ動きをしてくれた。切り終わる最後にグッと曲げて尻尾の付け根を切ってやると哺乳類の4本足はもう立てなくなる。まぁコイツが哺乳類かどうかはさて置いて、ライオンの狩りでも獲物の尻尾付近の骨の継ぎ目、尾骨神経が集中している所に牙を入れると獲物が崩れ落ちてしまうのを映像なんかでよく見る。
「よし」
まだまだ通用すると確信して魔石を取り出し先へ進む。7階からは上の階と明らかに違う魔獣と言えるタイプが増えたし魔石も少し大きい。いずれも単眼で脳筋タイプ、柵を弄さないタイプなので今の所やりやすい。さっき正面から真っ向勝負でぶん殴ってみたが単純な腕力だけでもまだ通用した。
———10階層———
やっとここまで来れたが多分現時点で3日潜っている。トール君の話では10階層毎にボスがいて、倒すと必ず何か宝箱に入ってるらしいが一体どう言う仕掛けなのか気になって仕方ない。裏方がいるのかモンスターがやっているのか、はたまた運営がいたりするのか。で、10階層毎に空間転移が使えるらしいが要はセーブポイントだ。今回最大の目標の1つがこのセーブポイントの解放で次回から10階にワープ出来るようになる。
「ボス部屋か〜緊張するな〜」
緊張しながらワクワクしながら我ながら忙しい。
ボス部屋の扉は明らかに重厚で両開きの引き戸になっているが、今は堅牢に閉まっている。扉の中央に凹みが有るのでそこに手をかざすと鈍く光り、まるで指紋認証の様にコチラを認識する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
重い石が擦れ鈍い音を立てながら重厚な扉がゆっくり開くと壁の魔石のランタンに火が灯る。と言っても光量は少ないので映画館くらいの明るさだ。そこには大きな斧を携えたゴリゴリマッチョの単眼ミノタウロスが居た。背丈は俺と同じくらいなので少し拍子抜けしたが油断は禁物だ。
「モ゛ォォォ!」
「んふっw」
何に怒っているのか分からないが何もしてないのに「も〜辞めてよ!」の「も〜!」と言われたような気がして思わず笑ってしまった、決して煽っている訳じゃないし油断もしていない。
モーたんが重そうな斧をよっこらせっと肩に担ぐ。てかその武器扱えるの?ってくらい重そうなんだが…形状は木こりが使いそうなオーソドックスな斧だが刃の部分は少し大きめだ。ノシノシと近づいて来てゆっくり大きく真上に振りかぶり、何の捻りも無い振り下ろし攻撃が来たのでスッと半身で避ける。 ガギィン! 石畳と鉄がぶつかる鈍い音が部屋に響く。モーたんがまた斧を担いで…コイツもしかして攻撃のバリエーション少なめか?それか一定ダメージで攻撃パターンが変わるとかなのか?これ数人で囲んだら余裕で勝てそうだが?
単調な振り下ろし攻撃後に思い切り横っ面をぶん殴ると顎の骨が砕けてよろけ裂けた口がダランとなっている。そこからは斧を斜めに振り下ろしたり横に薙ぎ払ったりと変化を見せたが数パターンで終わりだった。
「おけおけ!お疲れさん!」 ザシュ
鴉丸でフィニッシュを飾りモーたんの首が地面に転がり後から体が倒れ込む。
「さて!お宝お宝〜w」
最初の緊張もどこへやら、この階層ならまだまだ余裕のようだ。ボスの討伐後すぐに入り口とは反対の奥の扉が開いたが部屋を出る前に貴重な金属である斧をしっかりパクっていく。そこそこ重いがよく見ると鉄の刃が結構薄い。薪割りの時の手斧程度なのでこれなら普通の男性で有れば片手で扱える感じだ。木の部分は外して鉄の部分だけリュックに入れボス部屋を後にすると奥に小部屋があり、その隅に宝箱が鎮座していた!
「キタキタ!どれどれ〜」
宝箱を開けた瞬間「あっ…」と声が出てしまった。と言うのも罠とかミミックの可能性を全く考慮してなかった、完全に油断していた。幸い何事も無かったがコレは大いに反省だな。中には金貨1枚と少し大きめの魔石が1個入っていた。
「ん〜まぁ10階だしこんなもんか」
少し期待外れな報酬を手に奥の扉に手をかざすと石の扉が開いた。
「あれ?コレでセーブ出来てるのかな?」
別に特別な感じは何も無かったが大丈夫かなと思いながら階段を降りるとまた小部屋が現れた。魔力で光るランタンが壁にかかっていて、部屋の真ん中に石の台座とその上に石で出来た輪っかの鏡がドンと置いてある。近づいてよく見ると鏡では無く水面だった。どう言う仕組みか分からないが輪っかの中が水で何故か下に落ちない。そーっと手を入れると反対側から手が出ない、ビックリして何度もやってみて多分コレがワープだと理解した。思い切って顔を入れてみると、ダンジョン入り口の肉の焼けるいい匂いが鼻をつく。見えている景色から今自分が何処から顔を出しているのかわかった。ダンジョン入り口の横にあるスペース、いい場所なのにそこだけ何故か屋台が無かったのはこれの為かと理解した。
確認の為に顔を出してみたがこの匂いを嗅いでしまったらからにはもう無視できない。仕方が無いのでそのままダンジョン入り口の屋台エリアに戻る事にした。しかしコレは良い、めっちゃ便利だ。ワープから出て来て串肉を買ってる時になんか視線を感じる。多分だけど
「あいつソロでワープ使ってる!凄くない?」
のニュアンスではないかと察している。いや多分だけどね。そんな一目置かれてしまってるんではないかと思いながら串肉を頬張りながら帰路に付く。