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推参

あれからしばらくフクロウとオロチでワイバーンの観察をしている。卵が孵化するのは約半年後だがオスかメスが必ず卵を温めているので盗むのはほぼ不可能と判断した。やはりセオリーに従い毒殺を考えるが必要な毒の量約60ℓを用意するには金貨7枚もかかるが仕方ない。オスとメスを仕留めて金貨15枚、卵も手に入るとしたらプラス50枚で合計金貨65枚なら割に合う。


「マジか…」

毒入手の際、店主に進言され大問題が発生した。俺が狙っているワイバーンは赤と黒のマダラ模様なのだが、それはポイズンワイバーンと言う毒を吐く種類で基本的に毒が効かない厄介なヤツらしい。ファイアワイバーンとアシッドワイバーンは毒で倒せるが、ポイズンワイバーンだけは過去に討伐例が無い。つまり俺がヤツを倒せば前人未到の偉業を成し遂げた事になるが…今の所お手上げだ。一か八か至近距離で出力最大のクナイを打ち込めば或いはいけるのかもしれない。が、もし効かなかったら俺がエサになってしまうのは確実だ。とにかく今はじっくり観察して何か糸口を見つけようと思う。



———街の外れの教会———

「・・・って感じでレッドオークを倒したワケだ」

「リンダマンすっげー!」

「いいなー冒険者!俺もなりてぇー!」


稼ぎをいつものように教会にお布施に来たが、リンダマンの格好が立派になってる事を見た子供達が食い付き問い詰められていた。まだまだ日の浅い冒険の話をまるで映画でも観るような眼で楽しんでいる子供達。


「さぁ、皆さんご飯ですよ」

爽やかな青年が涼しい声でこちらに呼び掛けてきた。彼はリンダマンの幼馴染グレース大司教だ。オンボロ小屋と言っても差し支えの無い古びた教会の煙突からシチューの香りの煙が漂う。この教会にはグレース大司教と子供達5人がいて、リンダマンのお布施で何とかやって行けている状態だった。質素な昼食を神に感謝を捧げてから頂き、子供達はまた外へ遊びに出て行く。


「いつも有り難うございますリンダ、しかしこれは流石に多すぎでは…」

いつもなら銅貨数十枚、多くても銀貨1枚の所を今日は目の前に銀貨90枚も積んでいる。


「いや、それがいい冒険者チームに拾って貰ってかなり稼ぎが良いんだ。チームリーダーの運営もしっかりしているし。ま、最近ワイバーンに馬をやられて今はその仕返しに躍起になってるがな(笑)」


「そうですか…では遠慮なく頂いておきます。神に感謝を」

「なぁ、そこは俺に感謝だろ? それに悪いけど俺は神に否定的だ」


昔のトラウマがリンダマンの信仰心をそうさせた。


「それに神を否定しているけど、それでも未だに神聖魔法を使えるしな。いよいよいるかどうか怪しいもんだぜ」


「勿論リンダにも感謝していますよ。そして貴方を使わしてくれた神に感謝しているのですよ。天の使い、即ち貴方は天使です」


「天使って…はぁ、もういいよ」


唐突な褒め言葉にやり場を失うリンダマンはそれ以上の責め言葉を失った。神の防御力の高さにいつも辟易を覚える。グレースは子供の頃からこんな感じでリンダと同じような目に遭っているのに心を曲げずにやって来た。


「しかし楽しそうで何よりです。貴方はいつも辛そうな顔をしていたから久々に貴方の笑顔が見れて安心しました」

「確かに…そう言えば笑ったのはいつぶりだろうな」


あの陰鬱な日々は決して忘れないが、楽しい日々はそれらを塗り潰してくれていた。





———裏町のとあるカジノ———

赤髪の大男が稀に見るバカ勝ちをし高笑いをしていた。


「ガッハハハハ!酒を持って来い!今日はトコトンやってやるぜ!」


陰鬱と言う言葉すら知らない能天気な大男は毎日笑って過ごしているが、今日は特に大笑いをする日らしい。





———北の山脈麓の崖———

「絶対にお前らの体で支払わせてやるからな」


怨みに燃える男ロキ。泥まみれ、土まみれにカモフラージュし望遠レンズ機能を備えた視力でワイバーンを監視出来る距離120m地点で張り込みキャンプ中だ。巣の中には既にオロチが配置、交互に飛び去るワイバーンはフクロウが追跡している。ワイバーンの巣は崖を掘って作られた浅い洞窟の様な感じだ。


とにかく何かしらの弱点になり得る糸口を見つけたいが…流石は竜種としか言いようが無い。すぐ側に潜入させているオロチにサーモグラフィーや赤外線を使って分析したり皮膚組織のサンプルを持って帰らせたりしてシミュレーションしたが、やはりクナイや刃物は到底刺さらないと言う演算結果だ。ゼロ距離で眼球もしくは口内に数十発を撃ち込めれば或いは…って感じなのでほぼ不可能だろう。


もはや罠一択で選択の余地が無い。しかし毒は無効と来たもんだ。文献によるとたまたま近くに生えていたマンドラゴラを自爆覚悟で引き抜いた冒険者がいて、勿論引き抜いた本人は即死だがワイバーンには効かなかったらしい。



———ワイバーン観察2日目———

変化は突然やって来た。ワイバーンがしきりに首を振ってヨダレを垂らしていて傍目には酔っている様にも見える。興奮状態?  画像を巻き戻したりあらゆる分析をした結果、オスが運んできた羊を食べた直後に変化が現れた。 早速オロチに羊の分析をさせると胃の内包物に麻薬性の植物が見られた。


「見つけたぞ」 ニチャァ

フクロウを使ってトール君にも報告して調べてもらった結果、麻薬系の植物を好んで食べるジャンキーシープと言う種類らしい。内臓系にはかなりの麻薬成分が蓄積されていて、襲われそうになるとそれを敵に吐き出してかけるらしい。もしそれを浴びると幻覚、陶酔、麻痺、意識混濁など様々な症状が出るとの事。


「でも、そいつの内蔵を集めるよりその辺には無限に麻薬草が生えてるのでそれを集めた方が早いと思います」


と言うアドバイスを頂き早速フクロウ、オロチも呼び寄せて麻薬集めに没頭。すり潰したり絞ったり濾過したり。何とか10kgの超強麻薬が完成。因みに精製してる時は面頬からずっと危険アラームが鳴っていた。粘土の塊の様な麻薬を2個に分けてフクロウに運ばせる。いつものルーティンならオスが夕方にエサを持って帰りそれを夫婦で食べて就寝、明け方まで寝ている。今宵は満月、この惑星の月は3個もあり、半年に1回3個共に揃う真満月の夜はライトアップの様に明るい。


「さぁ、清算の時が来た。取立て開始だ!」



ワイバーンはいつものルーティンを守る。今日だけは別の行動をすれば命は助かるのに悲しくもルーティンから外れる事は無かった。メスの為に狩ったウマを持って家路へ急ぐ。夫婦揃って食べるこの時間が1番の幸せなのかもしれない、いや産まれてくるヒナと3匹で食べれる日が最も幸せなのだろう。特に今日は一段と幸せを感じる、ウマが美味い!ヒャハー!なんらこれは…幸せすぎるヒャハー!メスもハッピーそうでヒャハー・・・



「よし、完全にラリってやがるな。これなら至近距離で撃ち込まなくても鎌鼬で殺れるかも」

「ロキさん!夢の竜騎はもうすぐですよ!」


今回は卵狙いでオスとメスのワイバーンは馬の代わりにしようと言う試みでトール君にも来てもらっていた。そして目論見は大当たり!さぁお支払いをしてもらいましょう!(笑)


 バフォ!  ドガっ!


2匹のワイバーンの巣に突如何かが現れた。

その生物は満点の星空を背景に威風堂々とした姿で舞い降りた『空の王者』と呼ばれるグリフォンだった。


「グリフォン…」

「・・・・」


鷲の前足で2匹のワイバーンを抑え込み、その爪に頭は既に半分潰されていて卵も踏み潰されていた。空の王者は悠々と食事を始めた。




———【グリフォン】———


全長6〜7m

体重5〜7t

翼開長8〜10m

握力—測定不能—

飛行速度 200km


空の王者と呼ばれるグリフォンは弱肉強食の上位者たる者であり、おおよそ天敵と呼べるものはドラゴン以外に存在しないと言われている。過去にはオスとメスのグリフォンが小型のドラゴンを狩る姿も目撃されている。主食はワイバーン、ヒュドラ、サイクロプス等。馬や牛なども襲う。ワイバーンより一回り小型だがその戦闘力はまるで比較にならない。鷲の前足で掴まれた瞬間絶命を免れず、仮に生きていても上半身と下半身を押さえ込まれ全く身動きが取れずに生きたまま腹から食われる運命にあるのでグリフォンに捕まった時は絶命を願うといい。





「はぁ…ツいてないなぁ〜」

「弱肉強食ここに極まれりですね」

全ての苦労が一瞬でパァになった。ま、滅多に見れない良いもの見れたから…


グラァ〜〜グラァン


「トール君!なんかグリフォンが変!アイツもしかして効いてる!?」

「もしかすると…頼む!効いてくれ!」


フラッ… バサバサバサ   ドサッ



グリフォンはそのまま地面に落下してしまった。急いで2人で近くまで駆け寄り速やかに脳を破壊、すぐにトール君が錬金術で洗脳、俺は闇魔法を発動しながらサポート。事は恐ろしいほどスムーズに進み

満点の真満月にそびえ立つ洗脳された新たな下僕のグリフォンが眼前に居る。全身は黒く、顔の前面とお腹は白いツートーンカラーで鷹の前足は黄色で真っ黒な爪を持っている。


「ロキさん、これは大変な事やと思いますよ」

「だよね、わらしべ長者みたいな展開だったね」


棚からぼたもち、濡れ手に泡、一攫千金、もうどの言葉もこの幸運を的確に表現出来ない事態にただただ震える。前世に悪かった運の支払いが今行われている気がする。それでもお釣りが来そうなほどグリフォンはヤバい。


「あ、良かったら乗ってく?」

「お願いします(笑)」




———カジノ地下牢獄———

「・・・ん?なんだここは?」

確かカジノに入り浸りの酒浸りで大勝ちが2日続いてそのまま…そこから記憶がない。客室にしては配慮が足りない部屋に、察しの悪い彼でも恐らく監禁されている事を悟る。


「おいおい金貨20枚はあったぞ?せっかく馬を買ってロキを驚かそうと思ってたのによ」


「お初お目にかかります。私は当カジノの責任者シャルローズと申します。悪魔の傭兵ロキ率いる闇の軍団【赤い狂戦士(ブラッディベルセルク)】ことディーゼル様でお間違いございませんでしょうか?」


「その2つ名は初耳だがディーゼルだ。それより女、水をくれ」

そう言って受け取った水瓶を飲み干し「プハァッ!」と一息付いた。


「あー生き返った、さてカジノの続きをするか。女、フロアに案内してくれ」


「呆れた…強がりもそこまで来ると滑稽でしてよ? 貴方に恨みはございませんが、我々の灰色の蛆虫はロキに賞金を掛けてますのでそのお仲間の貴方に責任の一端を担ってもらう…」


「っせぇな、それよか先にメシを持って来い、3人前で、肉を多めでな、あ、水も」


「・・・・ま、いいですわ」


そう言ってピンク髪の女は部屋を出ていった。程なくして注文通りの品がディーゼルに運ばれそれらを遠慮なく平らげた。


「ふぅ〜食った食った。さてと」

簡易的なベッドから腰を上げ腕をグルッと一回まわし首もまわす。 コキコキッ

両手で鉄格子を掴みふぅーっと息を吐く。


「フンッ!」   メキャッ!

鉄格子は左右に曲がりディーゼルの為に隙間を空ける。牢屋の反対側の壁に装備一式がキチンと置いてあったので装着して部屋を後にする。


「金貨20枚預けてるんだが、名前はディーゼルだ」

カジノの受け付けで名前を告げると周りがザワつき出した。


「あの…ストックは無いようですが」

「んなワケあるか!責任者のピンク髪の女を呼んで来い!アイツは知ってるからよ」


騒ぎを聞いて直ぐにシャルローズがやって来た。


「・・・・彼に金貨20枚をお渡ししなさい」

ひきつった顔で無理に笑顔を作るシャルローズに周りが凍りつく中ディーゼルだけは上機嫌にカジノを後にする。


「戦闘員総出で後を付けて始末しなさい。本部からも応援を呼んで挟み撃ちの準備を」



「よしよしよし。これで馬が買えるな、アイツらビックリするだろうな〜(笑)」

笑顔で街中を歩くディーゼルのすぐ後ろにガラの悪い男達が10人、露骨に後を付けていた。


「ん?でも馬って何処に売ってたっけな? まぁリンダなら知ってるか、確かアイツは教会だな」



しかし教会に着くと何かおかしな雰囲気だった。聖騎士や修道士合わせて15人程で教会を包囲していて、気がつくと後ろにガラの悪そうな輩が10人居た。更に反対の道からガラの悪い10人が。


「なんかめんどくせぇ事になってんな。合わせて30ちょい…ちょっと分が悪いか。せめてロキが居てくれりゃ・・・そうだ!」


この前の武器バージョンアップの時にトール親方が追加してくれた信じられない機能【通信】を思い出した。


「確かここを押して話しかけるんだっけか…」

『お!? どう○た@oxディー%ル?』

「うぉ! すげぇなこれ!ロキ、直ぐに教会に来てくれ!30人程に囲まれてちょっとヤベェんだ!」

『わかっ@/& 直ぐ☆¥%』

「音がウルセェな、何処にいんだよ、とにかく教会だ!頼むぞ!」


取り敢えず前と後の道は塞がれているからこのまま教会に突っ込む事にした。幸い聖騎士達はコッチに気が付いてないから後ろから突進して教会に飛び込む気だ。


「どぉりゃあーーーー!!!」

盾を構えて全速力で教会に向かって走る。なんだ?と振り返る聖騎士と修道士をぶちかましで蹴散らし扉を突き破って教会に転げ込む。


ドカァン! ゴロゴロゴロ


「ディーゼル! なんでここに!?」

「よぉ、馬って何処で買えるんだ?」

「ふっ…商業ギルドだよディーゼル、後今は閉まってる時間だよ」


ディーゼルが破壊した扉から続けて身なりの良い修道服の1人の男が入って来た。


「グレース大司教、考え直して頂けましたかな?」

入って来たのはローグ司教、裏町に対立候補のバル司教の暗殺を依頼した男だった。


「あらローグ司教、奇遇ですわね」

続けてシャルローズも入って来た。


「おぉ麗しきシャルローズ嬢、まさかこの様な場所でお目にかかるとは。お仕事熱心な方だ」


続けてゾロゾロと聖騎士とマフィアが入って来て部屋の半分を占拠した。出口は完全に塞がれた上、こちらは非戦闘員が子供含めて6人もいる。


「マズイな…おいリンダ、オレが正面で暴れるから窓から逃げれるか?」

「あの小さい窓から6人逃すのはアイツらがさせてくれないだろうな」


その時グレース大司教が一歩前に出た。


「私に用があるなら連れて行けばいい。ただしここにいる友人と子供達には手出し無用で願いたい」


「あ〜大司教、勿論貴方にも用は有りますがそこにいる銀髪の女狐は私の兄を殺した犯人だ、それは聞き入れられない」


「私はそちらの赤髪に用がありまして、同じく聞き入れるのは到底敵わないかと。ただ残った子供達は私で引き取らせて貰うのでご安心下さいまし」


グレース大司教はその場に膝を付き神に懇願する様に祈り出した。それを見たリンダは少しイラつきを覚えてグレースをグイッと引っ張り上げ立たせる。


「神なんていねぇだろ! 見てみろよ。俺らの後ろでボーッと突っ立って見下ろしてるアイツをよ。いつだってアイツはそうだ…いつだって…」


あの日殺した男の弟と名乗るローグ司教の顔は兄とそっくりだった。この顔を見ると鮮明にあの地獄の日々を、感触を、音を思い出し嫌な汗と共に心臓が速くなる。止めたくてもフラッシュバックが次々と湧いてくる。いつでも、いつの時も壇上の神は何もせずこちらを見下ろしていた。そして今、この時も


「クソが…やっぱり神なんて」 ドガァァン!


突然教会の天井が吹き飛び3つの真満月が教会内を明るく照らし出した。背後の壁が無くなりまるで後光が刺す様に神像が光り輝いていた。


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