この怨み…
———グレゴール遺跡54階層———
ダンジョン攻略7日目、今の所順調に進んでいるがピラミッド型のダンジョンは下層へ行く程広くなる特徴があり、日に日に探索に時間が伸びて行く。それでもフクロウとオロチのお陰で無駄無く効率良く探索が出来ている。それでもなおこの日数を要すると言うことは普通のパーティーの労力は計り知れない…51階で別れたチーム『栄光の剣』は恐らくまだ51階を探索中だろう。
一旦休憩にして飯を食うが、ここに来て水を出せるリンダが本当にありがたい。いつも食料より先に水が無くなってしまうから心強い事この上無い。1番必要なのが水だけど、とにかく重くてかさばる。
「どうだリンダ?だいぶ慣れたか?」
「ああ、慣れたどころか気に入ったよダンジョン、この冒険者稼業も。外に居るよりよっぽど心が安らぐよ」
外に居ると常に誰かに狙われる心配があるからこの中は本当に居心地が良いらしい。
「ただ…その悪いけど次のボスを倒したら一回街に戻ってもいいか?」
「それは良いけど、どした?」
聞けば教会が心配らしい。定期的に仕送りと言うかお布施と言うか、子供達が食べていけるだけの金額を渡していたらしい。 そう言えばフクロウで監視してる時に俺から盗んだ銀貨を渡してたな、自分はロクに飯を食わなかったのに。
「よし、お前ら気合い入れろよ。今からノンストップで攻略だ。すぐに帰るぞ」
「おいロキ、そろそろ馬が買えるぞ。乗って帰っても良いんじゃねぇか?」
「マジか、良いねぇ! よっしゃあ、馬に乗って凱旋としゃれ込むか!」
———グレゴール遺跡入り口付近———
「毎度あり!」
ついに念願の馬を購入。流石に3匹は無理だから1匹だけどサービスで馬が引く荷台を安く購入出来た。お宝もかなりの量になっていたので本当にそろそろ購入時だったんだと思う。
「ハイヤー!」
「おいロキ!そろそろ交代しろよ!」
さっきからディーゼルが手綱を握りたくて仕方ないようで御者をやらせろとうるさい。ぶっちゃけ俺ももうちょっと運転していたい。
「歩くより断然速いしこれなら夕方前には着きそうだ。しかし馬車を買うとはアンタら本当にハデ好きだな」
リンダは余り目立つ事は避けたい様子だが、そろそろ俺らの方針を理解してそのように努めて貰わねば困る。軍団の沽券に関わるからね。
「リンダ、賞金首とは言え俺らがとんでもない力を持てば気にしなくて済むだろ?実際今日で60階をクリアしたわけだがこれはなかなかの実力と言えないか?」
「まぁ、それはそうだが…でも俺1人だったら恐らく20階も無理だろう。だから俺が強い訳じゃ無いから結局狙われるハメになる」
「いや違う。俺らの仲間においそれと手出ししようモノなら俺らはソイツを許さない。俺ら全員で闇の軍団なんだ。だからお前もその自覚を持って絶対に看板が舐められ無いように努めるんだ」
「仲間か…あぁ、わかったよロキ」
「よし! おいディーゼルそろそろ変われよ!」
「俺はギルドにチーム名の登録に行ってくる、ディーゼルは魔道具をトール親方の所へ頼む、リンダは教会だな、後で『飛竜の円卓』で待ち合わせだ」
「飛竜の円卓!? あそこ俺らにははまだ早く無いか?」
【飛竜の円卓】は街でも結構な実力者が集まる事で有名な店だ。
「馬が停められる飯屋はあそこしか無いんだよ、丁度いいだろ?それともビビってんのかディーゼル?」
「はん、ビビる?上等だ!特等席で呑んでやるよ!」
———飛竜の円卓———
丁度店の前でリンダと合ったので2人で中へ入ると装備が上等な冒険者達がかなり目に付く。流石にいつもの居酒屋とは雰囲気が違う。
「おう!ロキ、リンダ!こっちだ!」
聞き慣れたバカでかい声に安堵を覚えつつ中央よりの席へ着く。少し小さめの丸テーブルに所狭しと並べられた料理はどれも美味そうだ。エールで乾杯し料理に舌鼓を打つ。
「ちょっと肉が少ねぇな、ロキのせいで贅沢になっちまったよ」
「こんなに豪華な料理に文句が出るって相当ロキに贅沢をさせてもらってるんだな」
リンダがちょっと勘違いをしているが、俺の下僕達と左手のコンパウンドボウを使った狩のお陰で肉をたらふく食べれるからって意味なんだけどね。
「おいおい、この美人顔は賞金首のリンダマンだよな? おいみんな!小遣いが向こうからやって来てくれたぜ!」
短いモヒカン頭の男がめんどくさい絡み酒をして来た。新しい店デビューによくある最初のイベントだな。さてどんな風にデビューしてやろうか。
「ちょうど飲み代が尽きる所だったんだがこれで飲んだ後に娼館にも行けるぜ!ギャハハハハ!」
「娼館に行かなくてもコイツを犯りゃいいじゃねーか!」
(なぁ、これって店の中で暴れたらダメだよな?外に出た方がいいよな?)
(いやどーだろな、めんどくせぇからいいんじゃねーか?)
(でも料理に血とか入ると迷惑だし狙いは俺だから外に行ってくる)
「なーにをコソコソくっちゃべってんだザコ共が!逃がさねぇからな!」
モヒカン頭が大声で俺達を怒鳴りつけると店内の客達は一斉にギャラリーと化し盛り上がる。周りの机がサーッと引かれていき中央に空間が生まれた。なるほどね、動かしやすいようこの為にテーブルが小さいのね。これだけ騒いでるのにスタッフが止めに入らない所を見ると乱闘は織り込み済みってワケらしい。
「テメェ…誰がザコだこの野郎」
ザコ呼ばわりにブチ切れたのはディーゼルだった。仁王立ちで剣をダラリと下げモヒカンを見下す。
「ふん、図体がデカけりゃいいって・・・」
「いいからかかって来い三下が」
「テメェ!」 シャキン!
モヒカンが手慣れた動作でショートソードを抜き素早くディーゼルの腹を切り付ける…けど切れない。いや表面の皮1枚だけ切れているがダメージとは言えない。ディーゼルの魔法で剣を軽くされているからだ。ディーゼルは逃げられないようにモヒカンの足を踏みゆっくり大剣を振り上げる。モヒは何とか逃げようとするがバカ力で踏まれた足の甲は微動だにせず多分折れている。
「あ、待て!待て!悪かっ…」 パコーン
大剣の峰打ちは言うほど峰打ちじゃ無い。頭が真っ直ぐに凹んでいて目と鼻と口から血が吹き出して倒れた。
「モーブ!! テメェッ!」
脇役のザコはモーブと言うらしい、その仲間が怒って襲いかかるもディーゼルが軽く剣を振ると盾ごと吹っ飛んでいった。その後ろで魔法か何かを発動しようとしていた女を忍法…何だっけ?影縛り?影縫い?酒が入ってるからパッと出てこない。もっと覚えやすいネーミングを後で考えるか。闇の糸で口元と首を縛り上げそのまま中央へ引きずり出す。残り2人は僧侶とシーフっぽいがリンダ剣先を向け制圧、両手を上げて降参していた。
ん〜まぁそこそこのデビューかな。もうちょっとハデにしたかったがまぁ、いいでしょう。
後で知ったが揉め事を起こした場合負けた方が店の損害を支払うシステムらしい。ちなみに絡んできたアイツらは別に強くも弱くも無いそこそこの冒険者チームで名前は忘れたがやや有名くらいの位置付けで、モーブと吹っ飛んだ盾男は死んでしまったらしい。アレで死ぬんだとびっくりしたので内蔵型AIで演算してみたところ、スイング速度97キロ、重さ75kgの鉄塊と人体が衝突。これは中型バイクとの衝突に近い衝撃で極めて危険であり、人体は致命的、もしくは深刻なダメージを受けるとの演算結果に恐怖を覚えた。
後、詫びとして今晩俺らの相手をさせる為に魔法使いの女を借りて帰った。宿に帰る途中に丁度マリーもいたのでついでに持って帰って朝まで楽しんだ後に女達を解放した。
———トール工房———
「じゃーん! 馬!」
「買ったんですね!」
みたいないつものやり取りの後、前回の戦闘データを見てもらいながら分析と調整をしてもらう。フクロウとオロチが録画デバイスだ。ちなみにレッドオークの魔石は炎属性の強化にはもってこいの素材らしく、今回は特にディーゼルの武器の結構なバージョンアップが出来た。
「グレゴール遺跡の60階到達はもう立派な冒険者ですね、確かに馬を持っててもおかしくないレベルですよ」
「ただねぇ〜、厩舎か馬小屋が有る宿屋って高いのが悩みなんだよね、3人と馬1頭なら2泊で銀貨1枚とかするし」
ぶっちゃけ馬を買ったしトール君にバージョンアップもしてもらったからチームの金はほぼ無くなった。個人で渡したギャラは各々金貨1枚、まぁ俺はあんまり使い道が無いからこれを使っても全然いいんだけどね。
「ま、俺ぁコイツをぶん回して稼ぐだけだ」
「俺はダンジョンに潜ってる間は心が休まるからいくらでも潜っていられるぞ」
何とも心強い仲間に恵まれたもんだ。
トール工房を後にして物資を買い込み再び荷馬車に揺られながらダンジョンへ向かう。 ガタゴト…
「あ!そう言えば馬の名前まだだったな、どうする?」
と言う話題に火がつきそこから3時間ほど延々と討論会が始まりようやく2つまで絞れた。昼飯の為に一旦馬車を止め休憩する。
「候補はベスターかバルグ、これ以上の議論は無意味と判断しもうコイツで決める事にする」
そう言って銀貨1枚を取り出して見せる。
「表ならベスター、裏ならバルグ、依存はないな?」
黙って頷く2人。この運命の銀貨に3人の視線が集まる、親指でコインを弾く。 キンッ
表と裏は慌ただしく入れ替わりお互いに譲らない。そして手の甲に着地と同時に左手で押さえた。まだ見えていないが馬の名前はもう決まっていて、それを知っているのは俺の手の甲だけだ。固唾を飲み3人共が見守る中ゆっくり左手をどけ……
ドバァァァン!!!!
物凄い轟音と共に土煙が舞い上がり音のする方に視線をやるとそこに赤黒いワイバーンがいた。
「あーーー!!!馬が!!」
「シーーー!! ロキ、落ち着け!」
俺は思わず声を上げてしまった。ワイバーンが馬に馬乗りになってもう腹に食らいついている。銀貨を握り締めてしまったので名前がわからないままワイバーンのお昼ご飯になってしまった。こんのクソワイバーンめ。
幸い食事に夢中で俺の声はワイバーンには届かなかったらしい。いや、視界には入ってるハズだから無視をしてる感じか…益々腹が立ってくる。
「ダメだロキ、落ち着けって!ゆっくり下がれ」
ディーゼルの言う通り怒った所で多分勝てないと分かる。近くで見ると本当にデカく迫力が凄い。その内一回り小さい茶色いワイバーンもやって来た。どうやら夫婦揃ってのランチらしい。ものの5分程で体重500kgの馬を全て平らげた後、その場にクソして気分よく飛んで行ってしまった。幸い荷車は無事だったが、馬の居ない残された荷車を見ていると虚しさと怒りが同時に込み上げてくる。
「チクショー!あの馬いくらしたと思ってんだ!」
「相手が悪かったな」
まさに『空の災害』の看板に偽り無し。もう腹立ち紛れにフクロウに後を付けさせているが見つけた所でどうしようも無さそうだ。
「なぁ、ワイバーンって討伐したらいくら位だ?」
「害獣駆除手当も付けて確か金貨10枚だったか」
その金額では馬一頭に足りない。さらにリンダが補足してくれた。
「メスが金貨5枚、合わせて馬一頭ってとこだな」
なるほど、馬がやられた場合の仕返しや取り返しの意欲をそそる為の金額設定だな。今正にその思惑に乗ろうとしている俺がいる。
「今フクロウに後を付けさせているんだけど巣を見つけた。で、たった今メスが卵を産んだ、卵は金貨いくらだ?」
「卵は金貨50枚だ」
「え!?!? 本当に!?」
物知りリンダが補足説明で教えてくれたが国が軍事利用目的、つまりドラグーン育成の為に大金を払うらしい。
「今後の方針が決まった。取り敢えずダンジョンに行って稼いでサッと帰る。そこからはあのクソワイバーン夫婦の卵を盗んでやる」
「おいおいおい…マジかよ」
「それはいいが勝算はあるのか?」
「今はまだリンダの言う勝算ってのは見えない、けど必ず見つけてやる」
そこからは歩きで、いや荷車を引いてダンジョンまで行き既に攻略済みの40〜60階を周回して帰還。
「俺はワイバーン攻略に向けてアレコレするから取り敢えずしばらくは自由行動だ」
1人金貨3枚を渡して解散後、俺はすぐにギルドの図書室に駆け込みワイバーン情報を仕入れ、その情報を持ってトール工房へお邪魔する。
「それは災難でしたね…しかしワイバーンはかなり手強いですよ。下位とは言え竜種ですからね、その時引き下がってて正解ですよ。本来生身の人間が勝てる生物じゃ無いですからね」
俺もそう思う。資料を見ると
【ワイバーン】
全長10〜12m
体重7〜10t
翼開長17〜20m
種類により毒、炎、酸を吐く。ドラゴンの様な鱗は無いが表面は極めて硬く、大型のギロチンにかけても表皮に傷を付けるのが限界。駆除討伐の際は主に毒を使用する。主食は馬、牛、ボアだが熊や虎、稀だがジャイアントウルフを襲った例も有る。
ジャイアントウルフは馬より大きい体重約1tのオオカミでゾウみたいなデカいのも襲うヤバいヤツだ。それを襲うワイバーンはもっとヤバい。
さあて、どうやって仕留めてやろうか。




