酒の肴
———明け方———
遠くに朝日が顔を出し始め、小鳥が微かに囀り出す。いつもならそろそろ朝練の為に起きる所だが今日は休みにしようと思っている。何せついさっきまで2人がかりでマリーを一晩中凌辱し尽くし終えた所だ。全ての煩悩が去り賢者タイムと共に爽やかな朝を迎える。宿の2階から外を見つめていると、先程やっと解放されたマリーが壁に手を付きフラフラになりながら自分の宿の方へ帰って行くのをぼんやり眺めながら寝落ちした。
ホーホーホッホー♪ホーホーホッホー♪
フクロウのアラームが鳴る。
「んぁ〜〜〜よく寝た!てかもう夕方じゃねーか」
ディーゼルの大きめの独り言に俺も目を覚ました。さっき見た朝焼けはもう夕焼けに変わっていた。
寝起きの身体に水を流し込んだが腹の虫は水じゃ無くて飯だ!と騒ぎ立てている。
「ハラ減ったな、ディーゼル飯行こうぜ」
昨日の『ダグラスの大鍋亭』がかなり美味かったので2人ともその記憶に引っ張られ自然と足を運んでいた。ダグラスの店は相変わらず騒がしく活気に満ち溢れている。ライトがわりにあちこちに蝋燭が灯され、酒に酔った顔で一攫千金を熱く語る冒険者達の顔を照らす。この独特の雰囲気を俺は結構気に入っていた。生憎と満席なので相席となるのはこの世界では結構当たり前のことで、そんな事でいちいち揉め事も起きないし「ここいいですか?」の断りなど要らない。テキトーに空いてる所へ座りディーゼルはカウンターへ飲み物を頼みに行った。最初の注文だけはセルフになっていて飲み物と一緒に魔石のハマったキーホルダーみたいなのを受け取る。よくファミレスなんかで有るウェイトレスを呼ぶピンポンと同じで、2回目からそのピンポンで注文が出来ると言う仕組みになっている。
「カンパーイ!」
空きっ腹にエールを流し込む。決してキンキンに冷えている訳ではないが慣れてしまえばこれはこれで味わい深い。
「いや〜しかし昨夜は楽しかったけど大丈夫かあの女?いつの間にか帰ったみたいだけど」
「窓から見てたけどフラッフラになりながら帰ってたな(笑)」
次もお世話になりたいからなのか親切なのかディーゼルがマリーの安否を気遣かう。ま、親切ならそもそも明け方まで3Pはしないだろう。
「そうか(笑)しかし女ってのはあんなにシーツを濡らすのか?水瓶ひっくり返したみたいにビッチョビチョだからおかげで寝る時冷えちまったぜ」
「いや、アレは俺らのサイズにイかされまくったザコマンだな、ずっと腰が痙攣しててろ?」
嫌いじゃ無いが男同士で飲むとどうしても下世話な話しになりがちだ。ましてや娯楽の少ないこの世界ならなおのこと。まぁ昨晩に脱童貞したばっかりだからディーゼルの中で今1番ホットな話題だろうし、その話題で持ちきりになるのも仕方ないか。
「なぁ、アンタもしかして『悪魔の傭兵』のロキじゃねーか?そーだよな?」
決して大きくは無い丸テーブルに相席した2人組の片方が突然話しかけて来た。
「この前の討伐以来の時はかなり目立ってたから覚えてるぜ、それに今じゃアンタ有名人だからな」
どうやらちょっと有名になったらしい。普段は多少の事は気にしないディーゼルもこの話題には食いついて来た。コイツも名声や出世にはかなり興味があるらしい。
「2つ名まであんのかアンタ!しかも『悪魔』って随分大層なネーミングだな!神官でもぶっ殺したのかよ(笑)」
あ、はい。返す言葉も御座いません。って感じで返事も曖昧に苦笑いでお茶を濁す。
「・・・嘘だろ?マジで殺ったのかよ?」
「いや!でも和解と言うか黙認と言うかその後偉い人から挨拶もあったし」
まぁ挨拶と言うのは勿論司教2人からの暗殺依頼の事だ。ご丁寧に袖の下まで通して来たから悪い印象では無いだろうと思うし。と思っていたら隣の席の男が口を挟んできた。
「いや、あんた『聖教会』と裏町の『灰色の蛆虫』の2つから賞金首にかけられてるぜ」
「え!?」
ななななんですと? 何故俺が? 俺また何かやっちゃいました? ・・・逆か?金を受け取っておいて何もしなかったから狙われてんのか? でもどちらかが司教選挙に当選したら、俺を恨むのは落選側だけのハズ…何故両方から狙われる?と言うか何か店の人達が見てるな〜とは感じていたのはコレか。
「で、アンタらも俺の首を狙ってると?」
「いやいやいや、勝てそうに無い首を狙うのは自殺ってんだよ。しかも悪党ならいざ知らず聖教会と裏町に狙われるって事はいいヤツって事だからな(笑)」
裏町はともかく聖教会も世間ではそんな評価とは…
取り敢えず情報収集と整理の為久々にトール君ちに顔出しに行って相談しよっと。
———トール工房———
ディーゼルを伴いトール工房にやって来た、事の経緯とディーゼルの紹介を済ませて本題に入る。
「相変わらず情報量が多いですね(笑)」
別の遺跡ダンジョン、奴隷のディーゼル(脱童貞)、賞金首、確かに。手土産の話題ならどれか1つでいいよな。
「なるほど、簡単ですよ。両方から狙われるのは両方とも落選したからです」
「え?! じゃあ誰が当選したの?」
「ほら、話してたじゃないですか名前は分からないけど本当の慈善活動をコツコツしている人がいるって、その人が当選しちゃったんですよ」
なるほどね、教会内部でも色々あったんだろうな。この惑星の神様はちゃんと仕事してるんだね〜。
「でもどーしよーかな?俺賞金首になった事無いから作法とかマナーもよくわからないから先方に迷惑かけるかもだし」
「大丈夫そーですね(笑)」
「賞金首?上等じゃねーか、晴れて『札付き』になった訳だしハクが付くってもんだ。俺も鼻が高いぜ」
ま、なっちまったもんは仕方ない。でも一方的にお金を渡しておいて一方的にキレるって感じ悪いよな。まぁ受け取った俺も俺だけど。そんなどっちのせいだとかどっちが悪いとかも最終的に強い方が正しくなるこの世界で強者側に居れるのは本当に気が楽でいい。最後は力で解決出来ると分かっているから何事も余裕で受け止めれる。しかしそうなると有事に備えておく必要が出て来たので、トール君に装備一式のメンテとカスタマイズをお願いした。
今回の報酬とアイテムは全て提出してまた無一文に逆戻りだ。主にディーゼルの装備を重点的にやるので採寸やヒアリングを細かく打ち合わせて今日は解散。翌日、トール君に頼まれていた地球産素材もゴッソリ待って来ての大仕事の開始。今日はトール君の奥さんのカレナリエルさんも手伝いに来て採寸やら細かい調整やらで2日間、仕上がりまでにさらに5日を費やし完成した。
ただ処刑台から外したギロチンの刃が見事な剣に生まれ変わっていた。トール親方にしか出来ない現代科学の結晶と言える精錬と鍛造により薄く鋭く研ぎ澄まされている。かなりスリムになったとは言え刃渡り30cm、刀身95cm。十分大剣と言える。やはりコレを収めれる鞘は無く今まで通り背中に背負う事になる。切先からなだらかな曲線を描き、左右対称の両刃のククリ刀みたいなデザインになっている。
今回持ち帰った魔道具アイテムを武器に織り交ぜてディーゼルの属性を強化できる様になった。ディーゼルが手で触れているもの、主に金属の重さを−10倍から+10倍まで操れる様になり、今回ディーゼル用にオーダーメイドしてもらった剣の重さ7.5kg。これを重力操作で金属バットと同程度の750gで振り回せる上、インパクトの瞬間は75kgで衝突する。
「ディーゼルさんの剣速が時速110km程で、衝突時は重さが75kgとなると…とんでもないエネルギーですよ。恐らくこの一撃を食らって生存出来る生物はかなり限られると思います」
ブン ブン ヒュン
まるでアルミ製の剣でも扱っているように大剣を片手で軽々と振り回している。そしてもう片方の手には日傘くらいの大きさで、視認性を高める為に一部齧られたように欠けたデザインの丸いラウンドシールドを装備していた。ディーゼルのもの凄いポテンシャルは認めるところだがそこはやはり炭鉱夫、戦闘技術の拙さは素直に装備で補おうと言う事での提案だ。しかも重さが25kgもあるので重力操作をすれば250kgの鉄の塊に変わるので攻撃にも防御にも有効だ。更にボディアーマーやブーツなど。その中でも特に兜がカッコイイ!兜の上に穴が数箇所空いていてそこから髪を出す事が出来る。ディーゼルの真っ赤な髪をモヒカンみたいに出すとかなりイカつい。防具は全て黄金色と言うかマットゴールド仕上げで所々にディーゼルの髪と同じ赤色のアクセントが入り全体的にスパルタンデザインで纏まっているて最後にビロードの様な真っ赤なマントが映える。正直控えめに言ってもカッコ良すぎて、こんなのもうコイツが主人公じゃん。
「どうだロキ?」
「何処からどう見ても歴戦の戦士だよ、な貫禄と迫力がヤバい」
「自分で言うのも何ですがかなりの出来栄えですね、きっとモデルが良いのもあるんでしょうね」
同意である。超絶男前&長身&小顔&マッチョ・・・上げればキリが無いがコイツ多分葉っぱ1枚でも似合うんだろうなチクショーめが
とまぁ神の不公平を感じながらも仲間の装備が揃って戦力が上がるのは素直に嬉しい。祝いに飯でも食べようと街へ出るとディーゼルはかなり注目を浴びた。知らない人が見たら多分俺が付き人か手下みたいに見える事だろうがディーゼルの首の奴隷紋をみて2度驚かれるまでがセットだ。トール君も一緒に行きたかったが俺の賞金首問題が有るのでそれが片付くまではなるべく接触は避けようと言う事になった。まぁその問題は取り敢えず横に置いといて遺跡ダンジョンの更なる攻略を進めようと思う。何故かと言えばもうスッカラカンだからだ。それでも腹は減ってしまう。目の前の割と豪華な食事も最後になるだろうが、切り詰めてショボい飯で数日間腹を満たす方が精神的にキツいと今は感じる。森で狩りをすれば肉はいくらでも手に入るし、何ならここの食事内容より豪華な晩餐になる。しかし先立つものはやはり必要な訳で。
「取り敢えず金稼ぐか〜肉は食えても酒は森に無いからな〜」
「だな。ま、俺たちならすぐ稼げるってもんよ」
確かに。金に囚われず税金の支払いやら社会人の義務やらに縛られないのは本当に気が楽でいい。ただ【力】あっての話だけどね。
「稼ぎたいならその首を持って裏町に行けば良い額になりますわよ」
突然後ろの席の女性に話しかけられ振り返ると、いつぞやのピンク髪の美人だった。たしかマフィアの【灰色の蛆虫】だったか。
「あ〜、確かシャルロッテだっけか?」
思わず口をついて出た言葉だったがやはり名前を間違えていた様で明らかに不機嫌な顔をされた。
「シャルローズと申します、ロキ様におかれましてはお元気そうです何よりです。まぁいつまでお元気で居られるかは分かりませんが」
「ん?脅してんのかこの女?」
いつになくディーゼルが殺気立つのが分かる。この家業では舐められたら侮られるのを気にしなければならない事をディーゼルはよく分かっている様だ。
「先に名前を間違えられ侮られたのは私の方ですのに。ましてや前金を受け取っておいての放置、その上逃げる事も隠れる事も無く晩餐など軽んじられているのは当方では無くて?」
「え? そうなのかロキ?」
仰る通りで弁解の余地も無い。御社に落ち度は無く、全て弊社の過失で御座います。
「いやごめんねスッカリ忘れててさ。お金は返すから…あ、今はないけどすぐ稼いで返すからちょっと待ってもらえる?」
「フフッ。ウチのクランも舐められたものですね。当方も看板がシノギですから顔に泥をぬられた上その態度では了承しかねます。道は2つ、我がクランに隷属するか死か」
「お前が俺の性奴隷として隷属って選択肢は?」
冗談じゃなくて割と本気でこの女が欲しい。人形の様な顔立ちに透き通る白い肌、凄く華奢な体躯に程よく肉付き、主張が控えめな胸を隠すかの様に全体的にガードの硬い服装だ。まぁ貴族風の服は大体そーだが。正直控えめに言ってマリーより断然こっちのが好みだ。まぁあっちは性欲の捌け口として物みたいに扱えるのは最高だけどね。
「私サキュバスの血を引いておりまして。生憎と粗末なモノでは到底満足出来そうにも有りませんので」
丁重に断られたが構わない。事は俺の期待する方へと進んでいるからだ。
「お話は以上です。では近々ウチのクランの者が尋ねさせて頂くと思いますので」
そう言うとシャルローズは気品あふれる仕草で一礼をしその場を後にした。
「何だよロキ、お前ぇも借金かよ(笑)」
「いやそーじゃ無いんだが…実はな・・・」
美味い飯と酒。たった今酒の肴が出来たので今日はコレで一杯やるとしよう。