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仲間

案内された地下室に降りるとそこは1階に展示してあるものと明らかに異なる武器だ、恐らく殆どがダンジョン産のアイテムだと見て取れる。


「使用してる金属の量が凄いだろ?(笑)」


多分機嫌のいい時はヒゲを触るクセでもあるのだろうか、しきりにヒゲを撫でながら自慢の武器達を紹介してくれた。その中でも一際目を引く大剣が台座に刺さる様に鎮座していた。


「おぉ!」


身の丈ほどの大剣はゲームや漫画でよく知るところだが、実際目の当たりにすると語彙力を失う程の迫力があった。人の胴体程もある剣幅に2m近い身長のディーゼルの胸元に柄がある。生意気なメスガキが1発殴られて分からされるアレと同じだ。ただ、造形は本当に酷い。長方形の鉄板の片側を削っただけの剣…と呼べるのか?無骨を通り越して不恰好とも言えるが、絶対に命を切断する()()()感じはヒシヒシと伝わる。


「そいつは元々断頭台のギロチン部分だ、相当な数の首を落としてきた実績は間違いないぜ、ほら…耳をすませば処刑された奴らの怨念の声が今でも聞こえて来そうな…」


てか何てモノを武器にしてんだよ。不気味と言うか演技が悪いと言うかこれは愛用武器として使うのはちょっと気持ち悪い。


「そうか?俺ぁ何もきこえねぇぞ?」

ディーゼルには効かないようだ(笑)


「ディーゼルこれ振り回せそうか?」


この大剣はどう見ても俺の体重より重い、いくらガタイが良くてもこの世界の人間には流石に  ゴトッ…


「よっと」 


持ち上げてしまった。流石に片手で軽々とはいかないが両手で軽々って感じだ。


「マジかお前…炭鉱夫ってみんなそんな感じなのか?」

「いや俺だけだ。だから稼ぎも良かった」


ディーゼルは惜しげもなくあっさりと自身の有能を認めた。しかし嫌味も無くひけらかす風でも無く至って自然で正直なだけだ。変な遠慮が全く無い所は非常に好感が持てる。ディーゼルはそのまま何回か素振りをして感触を確かめてから


「ロキ、コイツが気に入った」


さっきまで静かに鎮座していた大剣は今やディーゼルの手に収まり肩に担がれている。まるで大剣もディーゼルを気に入ってるかのような気さえする。これは戦力的にもかなり期待出来るから多少値が張っても良い投資だろう。


「わかった、オヤジこいつを貰う」

「金貨5枚だ。最初に言っておくがこれでも負けてやっている」


オヤジの返答が早かったのは過去に何度もこのやり取りをしているのだろうと察する事が出来る。手が届かない金額では無いが今の全財産を失う事になる。いや、失うんじゃ無くて多大なる戦力を()()と考えよう。そうさっき自分で投資と言ったばかりだったな。


「貰おう」

「即金か?ツケはしねぇぞ?」


袋から全財産の金貨5枚を渡すとオヤジは少し驚いた顔で受け取りまたヒゲを触り出した。


「なかなか骨のある野郎だな、気に入った!そのデカブツを持ち歩くには不便が付きまとうから改良したボディプレートをサービスで付けてやる、それでその大剣を背負えるはずだ」


ボディプレートが出来るまでの間に飯を食いに行き、待ち合わせの小銭を丁度使い切った所でついに本当の一文無しになった。あれだけの手持ちをピッタリ使い切ったのは逆に気持ちいいと言える。コレがシンデレラフィットってヤツか。


「今日は野宿決定だな」

「ガッハッハ!すまねぇなロキ、ま、しっかり働くから期待しててくれ」


時間を潰してから店に戻るとバッチリ出来上がっていた。背中にギロチンを背負い採寸した革製のボディプレートも相まってかなり戦士らしく見える。


「似合うな…いいんじゃねーの?」

「だろ?(笑)早速試し切りと行こうぜ!」


豪華な課金武器を手に入れた直後の反応は世界共通だな。その後森に行きボアを軽く仕留め只今猪肉バーベキューを開催中、食事中の話題は勿論この大剣の話で持ちきりだ。


「まさか真正面から一刀両断とはな、側から見ててマジで凄かったぞ?と言うか上段で静止した構えからあの速度で剣を振り下ろせるってどうなってんだ?」


実は違和感を感じていた。剣を振り下ろす初速が既にMAXの速さに近いのはまだいい、それがレイピアとかならね。あのデカさの剣ではどう考えても物理的におかしい。


「あ〜、アレか、前に言ったじゃねぇか。俺は土属性で鉱石や金属の重さをある程度変えれるって。

だから剣が当たる瞬間だけ軽さを解除して本来の重さでぶん殴りゃああなるんだよ」


なるほど、炭鉱夫の時にツルハシやハンマーもこの要領でやってたわけか。そりゃあ稼げるわな。


「てか金が無くてもアンタといたらたらふく食えるな(笑)最高だぜ」

「ボア仕留めたのはお前じゃねえか」

「仕留める為の剣を与えてくれたのはアンタだ」


そう言いながらボア肉にガッツくディーゼル。そう言われて何とも言えない充足感がある。コレを何と言えば良いのかわからないし、なんて言う現象なのかもわからないが、敢えて例えるなら『青春』が1番近い様な気がする。この年で言うのも少しはばかられるが多分そうだろう。てか年の割にはかなり動けるのはこの星の重力だけの問題では無い気がして来た。毎度魔石を取り込む事に身体が強化されるのは分かっていたが、最近では若返るのをハッキリと実感できる。前に酒の席でトール君が言っていた【地球にも元々魔力はあった説】で言うと現代社会の人、ひいては地球に住まう全人類は常に魔力欠乏症の状態らしくそれは生命力の低下を意味し、元ある寿命を削る事で何とか身体を保っていると。なので自然と繁殖に機能が傾倒していったのでは無いかと言う進化論だ。それが証拠にこの世界の一般人の寿命は平均で80〜90年らしいが、豪族や貴族や王族は軽く100年以上は生きるらしい。要は野生動物と飼育下の動物とでは寿命が倍かそれ以上違うのと同じだろう。明らかに肌艶が良くシワが減った手の甲と手の平を交互に見比べる。


「んで?明日はどーすんだ?」


ディーゼルの呑気な質問で現実に引き戻された俺は我に返り、拳を握り締めながら答える。


「行くか、ダンジョンに」




———翌朝———

ディーゼルを叩き起こして一緒にトレーニングをさせる。俺とは内容は違うがそれぞれトレーニングに励んだ後ダンジョンへ向かう。昨日のボア肉を燻製にして携帯しているが持って4〜5日ってとこか。

しばらくは男2人で肉と水だけのむさい肉体労働だな。確か前回は10階の有名ボスをテンプレ通りに倒して終わっているから11階からのスタートだ。遺跡ダンジョンの入り口は相変わらずの盛況ぶりでいつ来てもワクワクする。串焼きの匂いが鼻を突くのがまたテンションが上がる。映画館に行くとキャラメルポップコーンの匂いがしてテンション上がるのと同じだな。


「心の準備はいいかダンジョン童貞ディーゼル?」

「あぁ、願わくば先に女の方を知りたかったぜ」

「えっ!?」


思わぬカミングアウトに完全に持って行かれてしまった。


「あ…そうなんだ、へ、へー意外だな、男前なのに」

「そりゃ炭鉱で毎日働いてたからな、鉱山に女なんていねぇよ」

「でも買う事も出来たろ?」

「あ〜、そりゃアレだ。バクチに勝ったら行こうと思ってたからな」


なるほど、コイツは全部スるまで辞めないからその夢は叶わなかったと。


「よし、じゃあとっとと荒稼ぎして美味いもん食って酒飲んで女抱きに行くとするか(笑)」

「マジかよ!俄然やる気が出て来たぜ!」


いざ、遺跡ダンジョンへ突入。



———11階フロアゲート前———

「どう言う仕組みかわかんねぇがすげぇな!」

うんうん、わかるよ。俺も初めての時はすげぇ感動したからね。


「お、おい、て言うか何だよその鳥とヘビは」

「そう言えばまだ紹介してなかった俺の下僕(しもべ)達を。フクロウとオロチで俺のゴーレムだ」


そこから下僕達の説明と俺の能力の説明で1時間程使ってしまった。ディーゼルは驚きの連続で理解が追い付かないらしい。


「俺はすげぇ人物の奴隷になったらしいな」

「すげぇ人物になるのはこれからだよ(笑)」


笑いながら言ってはいるがマジで名を馳せるつもりだ。


———17階———

結論から言うとヤバい。真っ赤な髪を乱れさせ力任せに暴れ回るその様は『赤い暴力の化身』だった。


「いやーダンジョン楽しいなロキ!これで金が稼げるなんてもっと早くやってりゃよかったぜ!」

「天職を見つけたな(笑)」


元々戦士っぽい風貌に顔と体格も相まってぶっちゃけかなりサマになってる。酔った勢いとはいえ良い買い物をしたようだ、頼むぜ相棒。


難なく20階ボス部屋前に到着。休憩がてらメシを食いながら収入確認。下僕達のお陰で宝箱もスムーズに回収出来て金貨2枚と銀貨5枚、魔力アイテムが3個


「おいおいおいマジで稼げるじゃねぇか…冒険者ってこんなに儲かるんだな」

「いや、それはコイツらのお陰だ。俺たちだけで回ってたらまだ11階か12階でウロウロ宝箱を探してたさ」

「なるほど、違いねぇ」


褒められても奢らないフクロウの横でとぐろを巻いてるオロチがスンッと佇んでいる。ぼちぼち腹も満たされて体力も回復し気力も整った。


「さて、行くか」


重そうな石の扉が開き、中から現れたのはスカラベと言うよりゴキブリじゃねえか。あ、ムリっす。


「ごめんディーゼル、俺これだけはほんと無理。遠距離から援護するから頼むな」

「虫が無理って女かお前ぇは(笑)」


いやいや、F1カーくらいの大きさのゴキブリだよ?しかもF1より早そうだし。

血液消費を伴うが背に腹はかえられぬ、アレだけは近づけぬ、近づくなら血を失う方がまだマシだ。



———21階ゲート前———

無駄なく最速最短で処理して俺はすぐに下に降りる。幸いすぐにディーゼルが頭を真っ二つにしてくれたので殆ど血を使わずに済んだが、死んでてもアレはいつ動き出すか分からない怖さがある…いや〜おぞましかったよホント。


「ホントに嫌いなんだなあの虫」

そう言いながら手に魔石2個と丸い小盾を持ってディーゼルが降りて来た。


「いやホントすまん、唯一あの虫だけはダメなんだ」

「ま、誰にだって苦手はあるからな」


これ20階だから良かったけどもっと深層の超強いボスだったら笑い事じゃないよな実際問題。ダメだ。気持ち悪いとか苦手とか言ってられない死活問題だぞ?これは大いに反省せねばなるまい。しかしアレに触るのは…その時ふと昔の事を思い出した。部屋にGが出た時の事だ。正月に餅を食べていたら季節外れのGが出やがった。残暑厳しく11月まで半袖で過ごせたくらいだから現れても不思議はないが12月と言う先入観のせいで心底油断していた。何の備えもしてなかった俺はフリーズする事しか出来ずただじっとGを見つめていた。すると脱ぎ捨てられた毛糸のセーターに乗っかりやがった。

「ヒェッ…」

情けない声しか出せずただただ見つめていたらGの様子がおかしいのに気付いた。奴らはツルツルの場所を歩くのは早いが、そのトゲトゲの多い足は毛糸や絨毯の上ではカブトムシ程遅くなる事を発見した。その瞬間勝敗は決した。まるで外で出会ったGの様に俺の中で雑魚と化した瞬間だった。


「糸…」

切なる願いはすぐに届き俺の思いは形となって現れた。細く黒い糸が右手の指先から出ているのがわかる。左手で糸を持ちピンと張って指先で弾いてみると黒い粒子が少し舞ってすぐに消えた。

新たな闇魔法獲得。


「トラップ型か。影縛りかな」

「ん?何か言ったか?」

「いや何でもない、もう大丈夫だ。次は俺もちゃんと戦えそうだ」


心からの反省や後悔は人を強くする。そのトリガーは今回の様な失敗や失態から始まる事が多い。今度の人生は一つ一つを丁寧に積み重ねて行こうと思う。


———4日後———

30階のボスも難なく攻略。そのままゲート部屋で寝てから外に出ると早朝だった。

「ふぁ〜久々の太陽だ!さぁ換金して美味いもん食いに行こうぜ!」

「てか食いもんより女の方が楽しみなんじゃないのか?」


もうさっきからディーゼルのウキウキが伝わって来て思わずこっちまでニヤけてしまう。今早朝だから急足で戻れば夜には街に着けるだろう。ディーゼルの足取りは軽く速い。



———帰還———

「お待たせしました。こちらが買取額になります」


目の前に金貨5枚が差し出された。

「おぉ!手持ちも合わせりゃ金貨12枚だぜ!やったなロキ!」

「あぁ、パーッと行くか!」


取り敢えず美味いもんと酒。今日は行きつけの居酒屋じゃ無くて少し高めの店に入る。ここはそこそこ稼げる冒険者や傭兵が集まる店『ダグラスの大鍋亭』つまり売り出し中の奴らがたむろしている店だ。西部劇の様な両開きの小さい戸をくぐり店へ入ると熱気とざわめきが一気に俺達を飲み込む。1階の端に案内され腰掛ける。吹き抜けのコの字なので2階席の奴らが下を見下ろしているのがわかる。2階は割と名を馳せた奴らだけが案内されると言うのは冒険者や傭兵の間では暗黙の了解だ。何かそう言うローカルルールはいいな、割とそう言うの好きだ。ここでは銀貨10枚で贅沢三昧をし、ほろ酔い加減で最後のお楽しみは向かう。酒も程よく入りもうディーゼルのワクワクは最高潮に達している。


『リンネの館』ここが今から俺たちがお世話になる娼館だ。この街じゃそこそこ高めの風俗だ。1番高いところにも行ってみたが完全予約制とか一見さんお断りとかで入れなかった。せっかくのデビュー戦なので良い思い出をと思ったのだが仕方ない。


「ロキ、なんか色々気ぃ使ってもらってありがとな」


神妙な面持ちで風俗店の前でマジトーンで感謝されるのは何かウケる。


「良いってことよ!さぁ楽しんでこようぜ!」

「よっしゃぁ!!!!」


———1時間後———

「はぁ〜・・・」

「・・・・・・」


2人で俺がいつも利用してた宿前の広場で項垂れていた。そう、俺もディーゼルもアレがデカいのをすっかり忘れていたのだ。娼館で割と当たりを引いて意気揚々としている時に隣の部屋から悲鳴が聞こえたのを覚えている。次の瞬間、俺の目の前の娼婦も悲鳴をあげていた。そんな感じでお金は返却してもらいご丁寧に断られてしまった。


「娼婦で無理ならもうウマかウシしかいねぇじゃねえか…何だってんだよ」


ディーゼルが絶望に打ちひしがれている。俺も心が痛い…何とかしてやりたいのは山々だが流石に獣姦は可哀想だしな…そんな事を考えながら辺りをぼんやりみていると神からの贈り物が届いた。


「おいディーゼル、俺に任せとけ。今度こそ女を奢ってやる」

「え?ナニ?何が?」

そう言って俺は小走りに1人の女を捕まえディーゼルの前は連れて来た。


「ディーゼルこいつはマリー、俺の肉便器だ。マリーこっちはディーゼル俺の大切な仲間だ」



さて長い夜は今からが本番だ。


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